第209話 混じり合った魔力
「ふむ……魔石による、体内の魔力の暴走、か」
私は、"魔死事件"の被害者である"魔死者"の身に起こったことを、説明した。
いきなりこんな話をしても、困惑するだけだろう……そう、思った。
案の定、みんな頭にはてなマークを浮かべている。
……マーチさん以外は。
「なるほどね、魔石には膨大な魔力が込められている。人間も、生まれながらに体内に魔力が流れている。
人間の体内に、魔石……いわば、異物の魔力が入っちゃうことで。体内の魔力は、暴走する。
なるほどなるほど、マーってばどうして、そんな単純なことに気付かなかったんだろう」
「……単純なことなのか、これは?」
「さあ」
若干興奮気味のマーチさんは、納得している。けど、他の人はそうもいかない。
私だって、まず魔石を人の体内に入れる、なんて発想はなかった。当然だ。
ただ、この前提があれば、わかることもあるみたいだ。
「それで、なにかわかったのか、マーチ」
「えぇ。エランちゃんの説明通りだとしたら、これまでの"魔死者"は体内に流れる本来の魔力と、異物である魔石の魔力が体内で喧嘩して、結果としてその人の体内をめちゃくちゃに破壊して、死に至らしめていた」
「喧嘩、とは穏やかな表現だが……いや、だからこそわかりやすいか」
「魔力が合わなかった……魔力と魔力が反発して死んじゃうのが、これまでの症例。
でも、ノマちゃんはそうはならなかった」
マーチさんは独自に推理しながら、ノマちゃんに目を向ける。
その視線に、ノマちゃんは胸元を押さえていた。
「つまり……どういう、ことになる」
「……ノマちゃんの元々の魔力。そして、異物である魔石の魔力。この二つが、絡み合って一つになった……
それが、見解かな」
「……魔力が、一つに」
……やっぱり、そうか。魔力ってのは、その人にとっていいものもあれば悪いものもある。肌に合う、ってやつかな。
たとえば、誰しも好きな食べ物や嫌いな食べ物がある。無自覚に、誰でもあるものだ。
魔石の魔力は、大気中の魔力を取り込んでいて……とても、濃い密度だ。それを、いきなり体内に流し込まれたら。
自分に合わない魔力に対して拒絶反応が起き、魔力と魔力が暴れまわり……体内から、めちゃくちゃになる。だから、死んでしまう。
それが、今回ノマちゃんにはなかった。
ってことは、ノマちゃんの魔力と、魔石の魔力の相性がよかった……って、ことだろう。
「……大丈夫ですの、わたくしの体は……」
ノマちゃんは、不安そうに聞く。生きているとはいっても、今体の中がどうなっているのか、わからないのだ。
しかも、これまでに事件に巻き込まれたみんなが、死んでいる。生き残ったのは、前例がないのだ。
それも、ノマちゃんの不安を煽る要素の一つだ。
「……検査結果を見るに、ノマちゃんの体内には人族と魔の血が半分ずつ流れている。けど、言ってしまえばそれだけなんだ」
「……それだけ?」
「そ。ぐちゃぐちゃになったはずの臓器も、血管も、なにもかも元通り。
魔の血のことを除けば、むしろ健常者だと判断するしかないんだよ」
ただ、ノマちゃんの体自体はむしろ健康とのこと。それに、魔石の魔力が混じったことで、今のところ体に異変も見られない。
ノマちゃんが無事なら、私はそれでいいけど……そういう、わけにもいかないとな。
なんとか、不安を取り除いてあげたいけど……
「それにしても、すごいねぇエランちゃんは」
「へ?」
急に、マーチさんは感心したような言葉を私に向けた。
「だって、魔石の魔力が原因でなんて、全然気づかなかったよ。これまで、たくさんの遺体を見てきたけど、全然」
肩をすくめ、話すマーチさん。たくさん死体を見てきた、か……でもそれは、死んでからしばらく経ってしまったものばかりだろう。
時間が経った死体ではなく、直後の死体を見ていれば、もっと早く事実に気付けたかもしれない。
「……なぜ、今まで黙っていた」
一方、感心している様子のマーチさんとは対称的に、不満げなのはゴルさんだ。
生徒会長で、同じ瀬戸会のメンバー……伝える機会は、いつでもあった。それができなかった理由は、一つだった。
"魔死事件"に、ルリ―ちゃんのお兄ちゃんが関わっていたからだ。
「いやその……つい最近、知ったことと言いますか」
「……まあ、そういうことにしておこう。ただ、魔石の魔力……この情報に、一人でたどり着いたのか?」
私一人で、この情報にたどり着いたわけではない。これはルラン、そしてリーサとの出会いを経て得た情報だ。
ただでさえダークエルフが嫌われている中で、こんな騒ぎの事件を起こしているのがダークエルフと知ったら、彼らへの風当たりはますます強くなる。
……ただ、もうそんなことを言っている状況じゃないのも、事実だ。
今までの"魔死事件"、今回ノマちゃんを襲った事件……その二つの犯人は別とはいえ。この情報を渡した以上、もう下手に誤魔化すことはできない。
とはいえ、事実をありのまま伝えるよりも、もっとこう、柔らかい表現で……
「実は……この話。ううん方法は、聞いたの。"魔死事件"を起こした本人から」
「! 本人!? 犯人と会ったということか! なぜ、それを黙って……」
「ゴルドーラ、まずは彼女の意見を聞こうではないか」
ゴルさんが、感情的になるのも当然だ。みんな必死に犯人を捜していて、その犯人を知っていて、黙っていたのだから。
けど、まずは、話を聞いてもらわないと。
「……先に言っておくと、"魔死事件"の犯人と、ノマちゃんを襲った犯人は別だよ。でも、手段は同じ。その理由はわからないけど……
……"魔死事件"を起こした犯人は、ダークエルフだ」
もう、引き返せない……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます