第211話 容疑者エラン・フィールド



「フィールドさんが、"魔死事件"の犯人……?」


「えぇ」


 私が、"魔死事件"の犯人ではないか……その言葉に、私は一瞬言葉を失ってしまう。

 ひどい濡れ衣だ。私が犯人なわけない……けど。他の人から見たら、私って結構怪しいのかもしれない。


「そんなこと、ありえませんわ!」


「ノマちゃん……」


「ありえない、とはなにを持ってありえないと?」


「フィールドさんですもの、ありえませんわ!」


 私ではありえないと言ってくれるノマちゃん。その理由は、実際理由にすらなっていないものだけど……同時に、ノマちゃんらしいなとも思った。

 だけど、そんな内容じゃ、納得はしてもらえないだろう。


 現に……


「……話に、なりませんな」


 ジャスミルと呼ばれたおじいちゃんは、ノマちゃんの言葉にまったく興味を示していない。なんせ根拠がないのだから。

 逆に言えば……おじいちゃんには、私を疑うだけの根拠がある。


「"魔死事件"の現場には、最近はあなたがいつも遭遇していたと聞きます。それに、あなたはその年にして、すさまじい魔力をお持ちのようではないですか……

 その力があれば、他者の魔力を操ることなど、造作もないのでは?」


「!」


 ……私の魔力のことについては、もう調べ済みってわけか。組分けのときや、もしかしたら学園での様子も知っているのかもしれない。

 ダルマスと決闘したときなんか、身体強化の魔法で魔力の扱いはうまい、って感じた人も多いだろうし。


 だけど、それとこれとは別だ。


「おじいちゃんの言いたいことはわかるよ。でも、私が魔力の扱いがうまいからって、人の魔力を操るなんてできないよ。

 それに、私程度の魔力使いならたくさんいるよ」


「あまり己の実力を低く見積もるものではないですよ」


 自分の魔力は、自分で操れる。だって、自分の魔力なんだから。

 これは私だけじゃなくても、意識すれば誰でもできる。人は、自分の魔力にあまり意識を向けないものだけど。


 ただ、自分の魔力を操れたからって、人の魔力までは操れない。もしそんなことができれば、相手の魔力を暴走させて……なんてことも、できるのかもしれないけど。


「問題は別の所にあります。事件の情報を掴んでおきながら、それをこれまで黙っていた。

 それこそが、あなたを怪しむ理由ですよ。己の罪を、絶好のタイミングでダークエルフに着せようとしているのではないか、とね」


「! そんな……」


 まさか……そんな捉え方をされるとは、思っていなかった。

 なるほど、みんなからよく思われていないダークエルフになら、罪を押し付けても問題はない……この世界じゃ、こういう考えすらあるんだ。


 もしかして、いわれもない罪を押し付けられたことで、ダークエルフはますます立場を悪くしていったのではないか……そんな考えさえ、浮かんでくる。


「私はそんなこと……」


「ならばなぜ黙っておられた。黙っていたということは、なにかやましいことがあったからでは?」


「……っ」


 なんで黙っていたのか、それを聞かれると弱い。理由はあるけど、理由自体話せないものだからだ。

 ここでの私の発言は信じられていない。ならルリーちゃんの話をしても信じられないかもしれない……けど。確認するだけなら、すぐだ。


 ルリーちゃんがダークエルフとバレてしまえば、ここまで黙っておいた意味がない。


「しかしジャスミル、彼女はゴルドーラの学友で、あのグレイシア・フィールドの弟子だという話ではないか。そんな人物が、このような大それたことをするとは……」


「恐れながら陛下。誰の友、誰の弟子、なとという理由だけで、その者の潔白が証明されているわけではないのです。

 むしろ、そのような疑われにくい立場だからこそ、大それたことをする可能性もあるのです」


 ……あれ、ちょっと待ってこれ。もしかして今の私の立場、結構やばい?

 私はやっていない。それは間違いない。でも、それを証明する手段がない。


 しかも、だ。私が遭遇した"魔死事件"はどれも、普通の人が入り込むのが難しい場所で起こっていた。

 魔導学園の敷地内、できたばかりのダンジョン内、そして私の部屋……それも、簡単には入ることのできない場所。


「それに……グレイシア・フィールドの弟子というのも、本人が言っているだけという可能性も……」


「! 師匠の弟子なのは本当だもん!」


「……たとえそうだとして。それがあなたの無実を証明することには ありません。

 犯人と会い、話を聞いたと言いましたな。それが本当なら、なぜ犯人を野放しに? その者に、どれだけの数の人が殺されたか、知らぬわけではありますまい?」


「それは……逃げられ、ちゃって……」


 どうして犯人を捕まえなかったのか……か。逃げられたから、これは半分本当だ。

 もう半分は、捕まえようと本気で思っていなかったから。リーサに任せていた……というのは言い訳だ。ルリーちゃんのお兄ちゃんを捕まえるということに、抵抗があった。


「その上、今までの"魔死事件"犯人と、今回エーテン殿を襲った犯人が別にいる?

 話を偽るにしても、もう少し現実味のあるものにすべきでしたな」


「……」


 同じ事件……だけど、今までのものと今回のは、別の犯人。それも、信じてもらえない理由の一つか。

 現実味がない内容……私だって、リーサからそう聞いただけで確証という確証はないのだ。


 客観的に見れば見るほど……私って、怪し過ぎるのかもしれないなぁ。

 ただ、やってないものはやってない。なんとか、無実を証明することは出来ないか……


「で、でも! フィールドさんが犯人などと、証拠がありませんわ!」


「それは、彼女の話も同様では?」


「そ、それは……」


 だめだ、このままじゃ……


「エラン・フィールド殿、あなたを一連の"魔死事件"の最重要容疑者として疑う。そう、判断せざるを得ないのですよ」

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