第206話 王の間の再会
「ノマちゃん!」
部屋に入ってきた人物を見て、私はここがどこかも忘れて立ち上がった。そして、こちらへ駆け寄ってくる彼女に、こちらからも駆け寄っていく。
部屋は広いとはいっても、二人でお互いに距離を近づければ、接近するまでものの数秒もかからない。
そのまま、私たちはどちらともなく、抱き合った。
「ノマちゃん、ノマちゃん……よかった、無事だ……!」
あのとき私が見たノマちゃんの姿は、身体中が血に濡れ、あらゆる箇所から血が流れている無惨な姿だった。その後、私が気を失っている間にノマちゃんには異常がないことが分かった。
目の前にいるノマちゃんは、血一つないきれいな姿だ。
抱きしめているこのぬくもりが、これは現実なのだと教えてくれる。
「ちょ、ちょっとフィールドさん……少し、力を緩め……あ、ちょっとこれいた、いたたたた……!」
「あ、ごめん」
なんかミシミシ、という音が聞こえたので、力を弱める。自分でも気づかないうちに、力いっぱいで抱きしめていたみたいだ。
ノマちゃんは少し咳き込みながら、苦笑いを浮かべる。
いや、でも、すごい嬉しいよ。あれからまだ二日も経ってないのに、ずいぶん久しぶりに感じる。ノマちゃんとは部屋が一緒だし、たまにお互いに他の子の部屋にお泊りすることはあっても、ノマちゃんとは毎日顔を合わせていたから。
「お、おいエーテン! お前なんでここに……」
「あら、サテラン先生。先生もいらしてたんですのね。おはようございます」
「あぁ、おはよう……って、そうではなくてな」
「あー……そろそろ良いかな?」
感動の再会、ではあるけど、困惑したような声を聞いてようやく我に返る。そういやここ王の間じゃん! 王様の前じゃん!
振り返ると、王様は困ったように笑っていた。な、なんて顔をさせてるんだ私は!?
すぐにでも膝をつくべきなんだろうけど、ノマちゃんを離したくもない。どうすべきか悩んでいると……
「も、申し訳ありません。国王陛下がいらっしゃるというのに……」
「構わん。友なのであろう」
「えぇ! ……って、ここ、ここここ国王陛下あ!?」
友、という言葉に、えっへんと胸を張るノマちゃんだけど、ふと視線の先にいるのが王様だと気づき、とんでもない声を上げながら私から離れる。
耳元で叫ばれたんで耳が痛い。
それから、ノマちゃんはきれいな動きで、その場に膝をついた。というか床に膝を付き、体ごと地面に倒れた。座ったままお辞儀しているみたいな。
ていうか、今王様がいることに気づいたのか……
「ノマちゃん、ここ王の間だよ?」
「うぅ、まさかそんなぁ……フィールドさんが来ていると聞いて、早く会いたくて、なにも考えずに入ってきてしまいましたわ」
「キュン!」
まさかここが王様の部屋だということを知らずに入ってきたノマちゃんだけど、その理由を聞いて私はキュンとしてしまう。
私がいると聞いて、私に会いたくて、なんて……照れちゃうじゃないか。
「エラン・フィールドくん。キミを呼んだもう一つの理由は、早く彼女と会いたいと思ってな。というのも、彼女が寝ている間もフィールドさんフィールドさんとうわ言のように言っていると報告を受けて……」
「ちょわー! なにを言ってますの!? わたくしがそれ言いましたの!?」
ノマちゃんと早く会わせるためにこの場に呼んでくれるなんて、王様も粋な計らいをするじゃないか。
顔を赤くしているノマちゃんは、見れば見るほどかわいい。もっと抱きしめてやりたいくらいだ。
……っと、感動の再会もほどほどにして……
「ノマちゃんがここにいるってことは、憲兵さんのところで検査は終わったの?」
「はい。それで、その……」
「……その結果をこの場で伝える。それも、キミをここに呼んだ理由だ」
ここにいるノマちゃんは元気そのもの。検査は終わったのだ……その結果を、伝えてくれると言う。
だけど、ノマちゃんはどこか複雑そうな表情を浮かべている。
「……?」
「キミと、キミを呼ぶよう要請したことで同行してくるであろう教員にな」
私と、それから先生に? 伝えたいこと? なんだろう。
ノマちゃんの検査の結果……それを伝えるために、王様がわざわざ呼んだ。理由はたくさんあるうちの一つだろうけど、それでも意味は変わらない。
わざわざ、この場に呼ばれた意味ってなんだろう?
「私から説明させていただきます」
と、そこに別の声がした。それは、部屋の入口から……そちらを見ると、まだ開いたままの扉から誰かが部屋の中に入ってきていた。
そこにいたのは、白衣を着た女の人だ。それだけで、彼女がなにかを研究している人っぽいことはわかった。
ただ……なんでか、白衣のサイズと本人のサイズが合っていない。白衣がぶかぶかなのだ。
多分、サイズが合う白衣がないのだろうとは思ったけど……そう思う理由は、彼女の姿にある。
……どう見ても、子供なのだ。
「えっと……?」
その女の子は、自信満々、というような表情を浮かべている。ふんすっ、と鼻息荒く目の前までやって来た。
私と同じくらい……ですらないな。私より小さい。肩くらいじゃないか?ちっさ。
白衣を着た女の子は、ブカブカの白衣を引きずり、私たちの前で仁王立ちしている。
「紹介しよう。研究員の、マーチヌルサー・リベリアンだ」
「よろしくぅ」
「名前ながっ!」
王様は普通に紹介した……研究員って、言った。
やっぱりこの子、研究員なんだ……王宮に迷い込んだ、迷子とかじゃないんだ……?
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