第204話 王様との謁見
たどり着いた王宮……あれよあれよと内部へと足を踏み入れて、案内されたのは一つの部屋の前。
そこは王の間に繋がる扉で、この向こうに今回私を呼んだ人物……王様が居るのだと、わかった。
何度か深呼吸を繰り返し……少しでも心を落ち着かせたかったのだけど、そうするよりも先に扉が開かれてしまった。
躊躇なく扉の向こう側へと進んでいくゴルさん。ここでじっとしておくわけにもいかないし、私も……!
「失礼します、国王陛下。陛下直々の呼び出しに応じ、その者を連れてきました」
「おぉ、ゴルドーラ。よく戻ったな」
とりあえず、あんまりきょろきょろするのも悪いので、ただ目の前を行くゴルさんの頭だけを見ていた。その頭が、消える……いや、下がる。その場に屈みこんだからだ。
気づけば、すでに部屋の中央辺りまで進んでいて……隣を見ると、先生も屈んで、膝をついているではないか。
二人ともが同じポーズをしているので、私も慌てて、同じように屈んで、片方の膝を床につける。
「ゴルドーラ、そこに居るのが……」
「……おい」
「っ、は、はひ! え、エラン・フィールドと、も、申しましゅ!」
ふと、ゴルさんに先を促されたので、私は弾かれたように顔を上げて、自己紹介した……はずだったんだけど。めちゃくちゃ噛んでしまった。
は、恥ずかしい……これが、緊張するってことか……
思えば、私はずっと師匠と暮らしてきたし、この学園に来てからも……誰かを、敬うってことがなかった気がする。いや、違うな……敬ってはいるんだけど、こうして心臓が震えるほどに緊張したってことがなかったっていうか……
学園で一番偉い理事長にすら、平気だったもんなぁ。
だけど、この王様は……なんていうか、威圧感から違う。見た感じは、年配のおじさんなのに……今まで会った誰よりも、迫力がある。
「ふふ、そう緊張せずともよい。して、そちらは……」
「魔導学園で、フィールドの担任をしております、ヒルヤ・サテランと申します。
この度は、理事長の計らいにより教師を一名同行させることになり、私が」
「そうか。これは迷惑をかけた」
「い、いえ!」
ははぁ、先生のあんな態度初めて見たよ……わりと誰にでも凛とした態度でいそうなイメージがあったけど。
まあ、王様相手だもんな。
「私は、ベルザ国現国王、ザラハドーラ・ラニ・ベルザだ。そこにいるゴルドーラの父親でもある。よろしく頼む」
「……それで国王陛下、今回フィールドを呼んだのは、どのような用件で?」
あとどうでもいいけど、ゴルさんは息子なのに、父親のこと国王陛下って呼ぶんだな。
これが、貴族……というか、王族ってやつか。大変そうだなぁ。
それと、私が今回呼ばれた理由は、ゴルさんも知らないのか。ってことは、私が心配していた理由で呼ばれたんじゃ、なさそうだ?
……いやでも、わかんないぞ。もしかしたら学園には、王様の息がかかった誰かが派遣されてて、私の不敬な発言や行いが逐一報告されていて……今回ついに、我慢が限界を超えたのでは!?
もしかして私、処刑される!?
「わ、私その……う、打ち首でしょうか……そ、それとも腹切り!?」
「……なんだ急に物騒な言葉を並べよって。お主を呼んだのは、少し聞きたいことがあったからだ」
恐る恐る口を開くと、しかし怪訝な顔をした王様は首を振る。
き、聞きたいことかぁ……それはそれで、なんなんだろう。私、王様に興味持たれるようなこと、してないけどなぁ。
うわぁ、もう王様とゴルさんだけで話進めて終わらせてくれないかなぁ。私に話振らないでくれないかなぁ。
まあ、そんなわけにはいかないよなぁ。
「聞きたいこと?」
「あぁ。少し前まで、王都内を騒がせていた事件……確か、"魔死事件"と呼ばれていたな」
「!」
王様の聞きたいこと……それは、実はちょっと予想していたことでもあった。
王様と私に接点はない。ならば王様が私を呼んだ理由は……なんだと考えた時に、心当たりがこれしかなかったのだ。
なんせ……
「報告では、キミはダンジョンと学園内でそれぞれ"魔死者"を発見しているな。それから時を置いて、再び学園内で起こった事件、それはキミの部屋で起きたと聞く」
「……」
「短期間で……それも、複数の事件に関与している。それは、キミだけなのでね」
私自身、あんまり詳しくはないけど……多分、複数の"魔死事件"に遭遇したのは、私くらいだろう。
一度も事件に遭遇せずに人生を終える人は多いだろう。でも、私はこの短い間に、三回も同じ事件に遭遇している。しかも、三回目は私の部屋で起こった、と来たもんだ。
一回目は、授業の一環で行ったダンジョンで。二回目は、学園内で。三回目が私の部屋……
「もしかして、王様は私を疑ってます?」
「!」
もしかして、という気持ちから、生まれた疑問を投げかける。その質問をした瞬間、場の空気が凍った、気がした。
私、今、まずいことを言ってしまっただろうか? すごい失礼なことを言った?
けど、王様は不快そうな表情を浮かべるでもなく……
「くっ……くふふふ、くはははは!」
大口を開けて、笑い出したのだ。
静かだった部屋に、一人のおっさ……男の笑い声が響き渡る。
「国王様?」
「あぁいやすまんな。まさかこのようなことを言われるとは、思っていなくてな」
王座に座る王様、その隣に立っているおじいちゃん……執事さんだろうか……に一言かけられ、ようやく笑いを引っ込めていく。
今のなにが、笑いのツボに入ってしまったのだろうか。
すると、視線を感じた。それは、振り返り私を見るゴルさんと、隣から同じく私を見る先生の視線だった。
その瞳と、表情は……なんか、はらはらしているようだった。
「もし私がキミを疑っているなら、わざわざ無防備でここまで通しはしない。
聞いているぞ、凄腕の魔導士見習いだとな」
「え、あ、いえぇ……」
な、なんだよぅ……いきなり、褒められたって、嬉しくなんかないんだからね!
まあでも、王様の言う通り……私は別に、魔導の杖を取り上げられているわけではないから、ここで大暴れしてしまおうと思えばできる。
私を疑っているなら、こうして自由にはしていない、か。
「実は、キミに頼みたいことがあってな」
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