第197話 再会と追及



 私が見たこと、知っていることを話し、理事長室を後にする。私たちの部屋は、しばらく調査のために封鎖しているから、しばらくは別の場所で寝泊まりしてくれと言われた。

 もっとも、たとえ調査が終わって、部屋がきれいになったとしても、またあの部屋で前みたいに過ごせるかは、わからないけど。


 部屋を出た私は、このまま帰るよりも、少し散歩したいと考えて、校庭を歩く。

 誰も、いない……なんだか、不思議な気分だ。


 ……こうして一人になると、やっぱり考えちゃうな。いろんなこと。

 この、胸の中にあるもやもやを晴らすためにも、私はもう一度、ルランに会わないといけない。

 どこにいるかも、どうすれば会えるかも、わからないけれど。


「……ふぅ」


 見つけたベンチに、座る。当然他に座っている人は、いない。

 空を見上げる。青い空が広がっている。この青空の下眠ったら、気持ちいいんだろうなぁ。


 ……びゅうっ、と、少し強めの風が吹いて……


「こんにちは」


 ……隣から、声をかけられた。

 誰も座っていなかった、隣……そこには、一瞬のうちに、誰かが座っていた。


 その姿を、確認する。そこには、一人の女の子がいた……


「……リーサ」


「あはは、覚えててくれたんだ」


 褐色の肌に、銀色の髪を持つ女の子。ダークエルフである、リーサがそこにいた。

 あ、長寿のエルフに、子って言い方も失礼かな。


 "魔死事件"を起こしていた、ルランを追ってここまで来たらしいリーサ。ルリーちゃんの幼馴染でもある。

 そんな彼女が、いきなり現れた。ここは驚くところだ。


 ……なんだろうけど。


「ありゃ、あんまり驚いてない?」


「驚いてはいるよ。

 ただ、一日も経ってないのにいろんなことが起こり過ぎて、なんか感覚が鈍っちゃって」


「……そっか」


 ダークエルフは、世界から嫌われている種族だと、本人たちは言っていた。だから、人前に姿を現すことはない。

 ルリーちゃんだって、正体を隠す魔導具を使っているから、ダークエルフだとバレてはいない。


 そんなダークエルフのリーサが、このタイミングで私の前に現れた。偶然ではないことは、確かだ。


「いいの? こんなとこ誰かに見られちゃったら……」


「ちゃんと結界張ってるよ。それに、休校になったって聞いたから。人もいないみたいだし」


「……そうだね」


 お互いに、視線を合わせないままに話し合う。どちらも、まだ核心には触れていない。

 でも、このままじゃあ時間の無駄だ。聞きたいことが、あるんだ。


「いろいろ聞きたいことはあるけど……単刀直入に聞くね。

 ノマちゃんを……私の友達をあんな目に遭わせたのは、ルラン?」


「! ち、違う!」


 そのとき、私は深く意識していたわけではない……でも、出てきた私の言葉は、きっと今までに出てきたどの言葉よりも、冷たかっただろう。

 それに驚いたのか、それとも私の質問が見当違いだと言いたいのか、リーサは肩を跳ねさせて答えた。


 それは、ルランを庇っているとっさの嘘……ではないのは、なんでかわかった。


「これまでの……アナタたちが、"魔死事件"って呼んでる事件を起こしていたのは、ルラン。それは間違いない。

 でも、アナタの友達を傷つけたのは、アイツじゃない! ううん、エランちゃんと初めて会ったあの日から、アイツは事件を起こしていない! ワタシから逃げるのに必死だったのか、それともエランちゃんに会って思うところがあったのか、わからないけど……」


「……」


「だから……こんなこと言うのは、変だけど……アイツは、アナタの友達を殺そうとしていない。これは、信じて」


 必死に訴えるリーサの目は、嘘をついているようには見えない。

 もしそれが嘘だったならば、きっと私はリーサも許さなかっただろう。


 だけど、この言葉は嘘じゃない。それに、犯人はルランでもない。


「そっか…………はぁ、そっか」


「……疑わ、ないの?」


「ルランが犯人だとは、思ってなかった……って完全に思ってたわけじゃないけど。犯人だとは、思えなかったから。

 ……なんか変な言い方になっちゃったな」


 どうしてそう思ったのか、確証はない。でも、今回の事件は、今までの事件となにかが違う……そう、思ったのだ。

 あとは、そうだな……


「リーサが見張ってくれているなら、ルランがこんな派手なことをするとは思えなかったから、かな」


「……ふふ、なにそれ。

 ワタシたち、一回会ったばかりなのに」


「そうだね」


 一度しか会っていない相手を、こうして信じるようなことになっているのも、変な話だ。

 だけど、この子からは……人間に対して、ルリーちゃんのような怯えも、ルランのような怒りも、感じない。


 この子も、ルリーちゃんたちと同じように、つらい目に遭ったはずなのに。


「ところで、今日はなんの用? わざわざ私に、会いに来たんでしょ?

 まあ、私も確かめたいことがあったからいいんだけど」


「今、エランちゃんが聞いたことと同じだよ……エランちゃんのお友達を、あんな目に遭わせたのが、ルランじゃないって、伝えに来たというか」


「ふぅん……」


「あ。安心してね、ワタシはここに来たけど、だからってアイツの監視を怠っているわけじゃないから」


 事件の犯人が、ルランじゃないと……それを伝えるために、わざわざ来たっていうのか。

 なんというか、律儀だなぁ。


 ただ、これで事件を追う手掛かりがなくなったのも事実だ。

 ルランが犯人だったなら、リーサを拷問してでもルランの居場所を聞き出して、これまでの罪と一緒に反省させるところだったけど。


 ……ただ、疑問はある。いくら"魔死事件"のことが世間に広まっていたからっていっても、あの殺し方を簡単に、真似できるものか?

 "魔死事件"は、魔石を体内に入れられた人が"魔死者"になってしまうもの。だけど、魔石を体内に取り込むことで体内の魔力が暴走する……なんて、私でも知らなかったことだ。


「じゃあ、いったい誰が……?」

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