第196話 理事長室での話し合い
翌日。呼び出された私は、一人理事長室に向かっていた。
昨夜は、二人のおかげで落ち着いて眠ることができた。ぐっすり……と言えるかは、ちょっと微妙だけど。
私のためを思ってくれたのはわかっているんだけど、それでも一人用のベッドに三人で寝るのは、なかなかきついものがあった。
ま、柔らかかったしあたたかかったけど。
「おはようございます。エラン・フィールドです」
指定の時間に、理事長室につき、扉をノックする。
別に一人で来いと言われていたわけではない。私個人に来ていたメッセージだけど、人数の指定はされていなかった。
でも、私は今、一人でここにいる。
『エランさん、本当に大丈夫ですか? ついていきましょうか?』
ソワソワしていたルリーちゃんが、何度もこう言ってくれたけど……遠慮した。
それだけ私のことを心配してくれているのは、嬉しかったけどね。
今日は急遽休校になった。なので、学園内に生徒の姿はない。そんな中で、制服で学園内を歩いているのは、なんだか不思議な気分だ。
「どうぞ」
扉を叩いて、すぐに返事があった。なので、私は扉を開けて、部屋の中へ入る。
部屋の中には、真正面の豪華な椅子に座っている理事長フラジアント・ロメルローランド。それにこの学園の校長先生、教頭先生……他にも何人かの先生がいる。
あ、サテラン先生もいる。
それに、先生以外にも……ゴルさんもこの場にいた。
「失礼します。えっと、なんでゴルさ……ゴルドーラさんも?」
「彼は生徒会長ですからね。それに、本人たっての希望です」
先生以外の立場からも、私の話を聞こうってことか。
私としては、知った人がいるのは、ありがたいことだけど。
うーん、この雰囲気。やっぱり、ルリーちゃんを連れてこなくて、正解だったね。
「朝早くに、すみませんねぇエランさん」
「いえ、そんな」
「しかし、私共も……こんな事件が立て続けに起きてしまった以上、早急に事件を解決しなければならないのです。
貴女が昨日、部屋で見たこと……いえ、不審に思ったことでも。とにかく、教えてください」
私が呼ばれたのは、やっぱり昨日の件についてだ。第一発見者である私に、話を聞く。当然だ。
一応、みんなの目を確認すると……私を疑っているって人は、いないかな……
……いや、いるな。少しだけど。第一発見者が一番の容疑者だって聞いたことがあるけど、やってないのにそんな目を向けられると嫌な気持ちだな。
「もちろん。でも、たいした情報はないとおもいますよ。私自身、未だに自分見たものが本当かわからないので……」
「それでも、構いません。貴女の口から聞きたいのです。
それに、話していれば思い出すこともあるかもしれません。もっとも、貴女にとっては思い出すのも苦しい記憶でしょうが……」
「大丈夫です。
私が、見たのは……」
本当に、たいした情報は持っていない……それでもいいと言ってくれるのなら。
私は、昨日部屋で見たものを……いや、昨日朝起きてから、帰ってくるまでの間になにをしていたか、思い出しながら話した。
朝、ノマちゃんと一緒に部屋を出たこと。いつもはノマちゃんと一緒に登校するけど、用事があったようで別々に登校したこと。ノマちゃんが学園に来ていないと聞いたこと。気になって放課後になっても生徒会の仕事に身が入らなかったこと。ゴルドーラ会長たちの好意で早めに切り上げさせせてもらったこと……
そして、女子寮の自分の部屋に戻ると、扉の鍵が開いていて……扉を開けて部屋の中に入ったら……
「部屋の、壁を背にするようにし、て……ノマちゃん、の、身体中から……血が、なが、れ、てて……壁も、天井も……全部……」
「ありがとう、もういいですよ。
ごめんなさい、つらいことを思い出させましたね」
……大丈夫だと思っていても、あのときのことを思い出すと、胸が苦しくなる。落ち着いて、冷静に考えることができた昨夜の感情が、塗りつぶされていく。
そんな私の気持ちを察してか、理事長は優しい言葉を私に投げかける。それに、私の頭にポンと手が置かれた。
サテラン先生が、私の頭を優しく撫でてくれていたのだ。
「ありがとう、ございます……」
「いや。理事長もおっしゃったが、つらいことを思い出させてすまなかったな」
それから、私の調子が落ち着くまで、先生は頭を撫で続けてくれた。
先生たちには恥ずかしいところを見せてしまったけれど、気持ちが抑えきれなかったのだから仕方ない。
それから、私は気になっていたことを聞いた。
「あの、ノマちゃん、は?」
昨日、ノマちゃんは憲兵の人と一緒にどこかへ行ってしまって、それっきりだ。憲兵の人と一緒だから、不安があるわけじゃあないけど。
いつも、一緒にいた。学園に来てからは、クレアちゃんやルリーちゃんよりも一緒にいる。
だからだろうか、なんだか落ち着かない。
「彼女は、取り調べ……いや事情聴取と言うべきですか。昨日なにが起こったか、それを確認するために、憲兵の方へ身柄を預けています」
「でも、ノマちゃん、なにも覚えてないって……」
「それも含めて、再度調べるようです」
まだまだ、わからないことだらけ……けれど、この学園で事件が起きたことは、事実。
これまでに起きた"魔死事件"の犯人は、ダークエルフルリーちゃんのお兄ちゃん、ルランだ。
ノマちゃんに手を出された以上、もうルリーちゃんのお兄ちゃんって理由だけでルランのことを黙っておくことはできない……
……今回の事件の犯人が、本当にルランならば、ね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます