第198話 信頼してくれた理由
リーサとの会話で、今回の"魔死事件"の件は犯人がルランではないことが、確信できた。
それは、ルリーちゃんのお兄ちゃんが私の友達に手を出してなくてよかった……と思うと同時に、犯人への手掛かりもなくなったことを意味していた。
あんな殺し方、誰にでもできるものじゃない。先生たちが言うには、今回の事件もこれまでの"魔死者"と同じ現象が起こっていた、と言っていた。
ノマちゃんの場合、その後死ぬことはなく生きていた……という違いはあるけど。それに、ぐちゃぐちゃになった体の中も、元に戻っていたと。
たまたま、"魔死事件"と同じ方法で殺すなんてできるわけがない。だからこれは、魔石を人の体内に入れたら魔力が暴走する、と知っている人の犯行だ。
その上で、学園に侵入できた人物……
「ねえ、エランちゃん……ルリーちゃんから、どこまで聞いた?」
「ん?」
考え事をしていたところに、隣に座っていたリーサが話しかけてくる。
ルリーちゃんから、どこまで聞いたか、とは……ルリーちゃんの、いやみんなの過去をってことだろう。
あのあと、私ならルリーちゃんから話を聞くと、わかっていたのかな。
「仲のいい六人がいつも一緒だったこと、ダークエルフの中にエルフが混ざって生活を始めたこと、ある日人間が攻めてきたこと……
……その人間に、ルリーちゃんの大切な人が殺されちゃったこと」
「……そっか」
ルリーちゃんの過去を聞いて、ルリーちゃんのすごさがよくわかった。
ただでさえ、ダークエルフはいろんな人たちに嫌われているらしい。そして、ルリーちゃんは人間に大切な人を殺された……
人間を恨んでも、おかしくない。いや、恨まないほうがおかしい。なのに、ルリーちゃんは自分から、人間に近寄ろうとしている。
もしかしたら、憎しみを内に秘めているのかもしれない……そんな考えが及ばないほど、ルリーちゃんはまっすぐで、良い子だ。
……しかも……
「あの子は、ラティーアさんが好きだった。でも、あの人は目の前で殺されてて……それを見て、あの子は気を失った。
でも、あそこで気を失って、あの子は良かったんだと思う」
「……?」
意味深につぶやくリーサ。あそこで気絶しておいて、よかった?
それはつまり……あの光景より、さらにむごいことが、あの場で起こったってことだろう。
……そういえば、ダークエルフを襲った二人の人間。確かエレガとジェラ、って名前だったっけ。あの二人も、"魔死事件"と同じ方法で被害者を作り出していた。
いや、逆か。あれが"魔死事件"と同じなんじゃない。"魔死事件"が、あの経験を元にルランが真似したものだ。
ってことは……その二人こそ、"魔死事件"の原点とも言える。ルラン以外にも、"魔死者"を生み出せる者が……
いやいや、無理だろう。その二人は人間だもん。ルリーちゃんの過去がどれくらい昔か正確には聞いてないけど、さすがにもう死んでるか、でなければお年寄りになってるよ。
「どうかした?」
「へ、あぁ……
……あ、そういえば私、夢に見たんだ。ルリーちゃんから聞いた話の、その先を……」
「……話の、先?」
これも、気になっていたことだ。ルリーちゃんから聞いていないはずの話が、夢の中に出てきた。あれがただの夢と判断するのは、難しい。やけにリアルだったから……
ありえないと思うだろうけど、確かなことだ。
「ルリーちゃんは気を失ったから、ルリーちゃんから聞いていない話。でも、夢に見たのは……
リーサとルラン、ジェラが対峙しているところに……小さな、女の子が現れたんじゃない? ジェラたちと同じ、黒髪黒目の」
「! ……えぇ、そうよ」
半信半疑だったリーサは、私の指摘を受けて真剣な表情になる。
これは、ルリーちゃんが知りえないはずの情報だ。わざわざ、その後リーサたちが教えるとも思えないし、ルリーちゃんが気を失っている間の出来事は、ルリーちゃん本人は知らないし、誰にも話せない。
その内容を、私が知っている。それだけで、夢の証明をするには充分で……
これが夢ではなく、本当にあった出来事だということも、証明された。
「ただ、私が見たのは、その女の子が出てきたところまでなんだけどね」
「……そう」
その先が、気にならないと言えば嘘になる。でも、リーサがこう言うってことは、絶対にいい結末には終わっていない。
それを聞き出す勇気も、リーサが話してくれる義理もない。それに、そこからの話にルリーちゃんは絡んでいない。
ルリーちゃんが絡んでいない話なら、私がわざわざ積極的に聞く必要はない。
……私は、ルリーちゃんのことならもっと知りたい。でも、彼女の過去を聞いてから、気になっていたことがある。
「ルリーちゃん、なんで私と、仲良くしてくれるんだろ」
「え?」
ルリーちゃんは人間を恨んでいても仕方がない。しかも、私はルリーちゃんの大切な人を殺した、この世界で珍しい黒髪黒目の特徴をしている。
別に、特徴が同じだからって、私がそいつらの仲間ってわけじゃない。わけじゃないけど……
見ていて、いい気分ではないはずだ。
なのに、ルリーちゃんは私に心を許してくれるし、自分の過去まで話してくれた。
初めて会ったとき、私が助けたから……とは、本人も言っていたけど。
「……エルフ族には、その人の体内に流れる魔力の流れが見える。これは、知ってるわよね」
「! うん。"魔眼"、だっけ」
リーサがつぶやく。リーサが言っていることに、私は心当たりがあった。
師匠がそういうことを言っていた気がするし、なによりエルフの
エルフ族の目は、体内の魔力の流れが見える。魔力には種族ごとに微妙に違っていて、だからナタリアちゃんはルリーちゃんがダークエルフだとすぐにわかった。
「見えた魔力はね、その人の心によって質が違うの」
「……こころ?」
「心が汚い人は、魔力は濁って見える。そして、心が綺麗な人は、とっても澄んだ魔力をしている……
ルリーちゃんが、あなたを信頼している理由は、ソレ、かな」
魔力の流れは、その人の心の様子できれいか、濁っているか変わる……それは、初めて聞いたな。
その上で、理由はソレ……と言われた。それは、つまり……
私の心がきれいだったから、ルリーちゃんは私を信頼してくれた……ってこと、なのかな。
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