第189話 若干の気まずさ



「はぁーっ、おいしかった! お兄ちゃん、ありがとー!」


「あぁ」


 クレープを食べ終わった私たちは、買い物のためにお店に寄っていた。そこで、ビジーちゃんは手渡されたメモを取り出す。

 一人での買い物だ、忘れ物がないように、食材などを書いたメモを手渡されていたらしい。これなら、私たちにも買うものがわかる。


 メモを頼りに、買い物を済ませていく。さすがに買い物分のお金はビジーちゃんが貰っていたようで、それで支払った。

 荷物も、ビジーちゃんが持っている。一人だけのおつかいなだけあって、量はあまり多くはなかった。


 私が持つーって言ってる姿は、かわいらしかったなぁ。


「ふんふんふ〜ん♪」


 鼻唄を歌うビジーちゃんは、見るからに上機嫌だ。私はともかく、ダルマスもなんか子供に優しかったし、優しいお兄ちゃんのイメージが強かったんだろうな。

 私としても、いい時間を過ごしたなって感じた。


 今ビジーちゃんは片手に袋を持っているので、残った手は私と繋いでいる。小さく、柔らかい手だ。


「ビジーちゃん、今日は楽しかった?」


「うん! でも、二人は……わたし、でーとの邪魔しちゃったんじゃ、ない?」


「!?」


 果たして今日、ビジーちゃんは楽しんでくれたのか……買い物に付き合った結果どう感じているかを聞いたら、晴れやかな笑顔でビジーちゃんは答えてくれた。

 だけど、その直後にビジーちゃんから、思わぬ言葉が返ってきた。


 で、デートって……この子は、どこからそんな知識を……


「べ、別にデートじゃないよー。お出かけだよ、お出かけ」


「? 男の人と女の人が一緒にお出かけしてたら、それはでーとじゃないの?」


「ぬっ」


 ビジーちゃんからの鋭い指摘……なんだか、似たようなことを誰かに言われたなぁ。うん、ノマちゃんに似たようなこと言われた気がする。

 男の子と二人きりで出かけるなら、それはデートだと……ノマちゃんは興奮していた。


 結果張り切ったノマちゃんが、いろいろコーディネートしてくれたわけだけど。これがデートだと、ビジーちゃんにすら見えているわけか……


「それに、これでーとだからお姉ちゃん、そんな気合い入れたかっこうしてるんじゃないの?」


「んなっ」


 さらに、ビジーちゃんの指摘は続く……え、これ気合いの入った恰好なの?

 そりゃ、少しはおしゃれしていると思うけど……これは、そこまでではないはずだよ。ノマちゃんだって、あんまり気合いが入ったって思われないように、調整してくれたんだし。


 それが……ビジーちゃんから見て、気合いが入った格好に、見えるのか……!


「え、あ、いや違うよ!? 私はそんな、めちゃめちゃ気合い入れたわけじゃ、ないからね!?」


「……わかっている」


 なんでか慌ててしまい、ダルマスに弁明する。これじゃあ、私が今日のお出かけ……他から見たらデートに、めちゃくちゃ気合い入れて来た、みたいに思われてしまう!

 今日のお出かけが楽しみではなかった、とは言わないけど、だからといって変に誤解されるのは困る!


 わかっているのかいないのか、ダルマスは目を合わせてくれないし!

 うぅ、なんだこの……胸の中のもやもや! 勘弁してくれよぉ!


「あはは、お姉ちゃんもお兄ちゃんも、顔真っ赤!」


「「真っ赤じゃない!」」


 二人の声が、ハモる。ふと顔をあげると、ダルマスはまたも顔をすぐにそらしてしまったが。その耳が、赤くなっているのが見えた。

 ただ、ビジーちゃんの位置からは、ちゃんと顔が見えているのだろう。


 無垢な女の子なだけに、悪気はないんだよなぁ……すっかり、振り回されてしまっている。


「あ、ついた!」


 と、ビジーちゃんの声に自然と視線が動く。ビジーちゃんの見ている先は、目的地……宿屋ペチュニアだ。

 魔導学園に入学するまでは、ここで寝泊まりをしていたんだ。なんだか懐かしいな。


 ビジーちゃんは、私とダルマスとを交互に見て、にっこりと笑う。


「お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとう! 二人とも、寄っていく?」


「……いや、今日はいいかな」


 今日はタリアさんはいるのだろうか。ビジーちゃんを連れてきたのは私だし、結果的に住み込みで働かせてもらってるなら、その件についてお礼も言いたい……けど。

 さすがに、今日はちょっと躊躇してしまう。なんせ、この格好で男の子とお出かけしているのだ。


 良からぬ勘繰りをされても困る。ビジーちゃんにさえ誤解されたのだ、タリアさんなら変な方向に察してしまう可能性が高い。

 その上、タリアさんはクレアちゃんのお母さんだ。私が、休日に男の子と出かけていた、と情報が渡る可能性もある。


 今日、ダルマスと……というか男の子と出かけることは、ノマちゃん以外知らない。


「そっかぁ」


「また、時間があるときに来るからね」


「うん!」


 残念そうにしていたビジーちゃんだったが、頭を撫でて優しく語りかけると、どうやらわかってくれたようだ。

 それから、手を振りながら家に帰っていく。今はあそこが、ビジーちゃんの家なんだ。


 ……さて。ビジーちゃんがいなくなったことで、またダルマスと二人きりになってしまったわけだけど。


「……」


「……」


 なんだろうね、この気まずい雰囲気。ビジーちゃんと会う前より、今のほうがすごい気まずいんだけど!

 周囲は、だんだんと暗くなってきている。もうお昼も過ぎて、夕方になろうというところ。


「……そろそろ、戻るか」


「そ、そだね」


 お互いに、若干の気まずさを感じながら……私たちは、学園へと帰宅する。

 自分の部屋に戻ったあと、なにがあったのかどうだったのか、とノマちゃんから質問攻撃にあったことは、言うまでもない。

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