第183話 恋するお年頃……ってこと!?



 キリアちゃんからの相談……本人は否定していたけど、それは恋愛相談ってものだった。

 まあ否定してたって言っても、多分あの分じゃキリアちゃんは恋愛相談をしたことがないか、そもそも身分が違うからそんな感情持っちゃいけない、と思っていそうだ。


 恋愛ってのも、大変だなぁ……ま、私はしたことないけど。

 そういえばノマちゃんは、コーロランに一目ぼれしてたって言ってたっけ。こちらも、ノマちゃんは貴族でコーロランは王子という、またも身分違いの恋ってやつだ。


 ノマちゃんは、コーロランを見た瞬間にビビッと来たらしく、キリアちゃんはダルマスに優しくされたのが理由みたいだ。恋にも、いろいろあるんだなぁ。

 私は、これまで一緒に接してきた異性……というか人が師匠しかいなかった。師匠に対して、感謝はしているけどこれが恋愛って言われると……よくわかんない。

 学園に来てからも、ビビッ、なんて思ったことはないし。


「みんな、お年頃だなぁ」


 私たちの年齢なら、色恋沙汰っていうのは普通なんだろうか。これまで、魔導について学んだり、お友達が増えていく嬉しさとかで忙しかったから、他のことを考える余裕はなかったけど。

 ……恋愛、かぁ。


「ねえ、ダルマスは誰かに、恋したことある?」


「っ、げほっ、げほ……な、なんだいきなり!」


 壁にもたれるように座っていた私は、少し離れていたところに座っていたダルマスに、問いかける。

 どうやらダルマスは、水分補給をしていたようで、水を少し吹き出してしまっていた。

 変なこと聞いて、動揺させちゃったか。ごめんね。


 キリアちゃんの相談を終えた私は、その後教室に戻って普通に授業を受けた。まあ、相談を受けてちゃんと返事できたかっていうのは、自信ないけど。

 とりあえず、ダルマスにはさりげなく探りを入れてみる、とは話した。キリアちゃんにも、いきなり二人で話すのはハードル高いだろうから、私を間に挟んで話す機会を設ける、とは言っておいたけど。


 ただ、今日いきなりは心の準備ができていないらしく、キリアちゃんは遠慮した。放課後なら、今ダルマスと訓練をしている時間だし、他に誰も居ないし時間は取れたんだけど。

 ……ていうか、今私は、友達が好きな子と一緒にいるんだよね。二人きりで。それっていいのだろうか?


「……ふぅ。なにを、いきなり変なことを聞いてきたんだ」


 何度か咳き込んだ後、ダルマスはなんとか落ち着いたみたいだ。

 まあ、いきなり好きな人は、なんて話をされても、困っちゃうよな。


「ごめんごめん、まあなんとなくだよ。恋バナ、ってやつ私興味あったしさ」


「……まあいいが」


「で、好きな人は? いるの? あ、もちろん恋愛的な意味でね」


「……いない」


 さっき動揺させてしまったことを根に持っているのか、ダルマスは私と目をあわせてくれない。ちょっと悲しい。

 それはそれとして、好きな人はいない……か。これは朗報なのかな。


 好きな人がいる、と言われても、その相手がキリアちゃんだったらなんの問題もないけど……まあその確率は少ないよね。

 なので、今はまだ脈がなくても、とりあえず他に好きな人がいないなら、こっから関係を深めていけばいい。


「……お前は、どうなんだ」


「へ?」


「いや……人に聞いておいて、自分は答えないのは……そう、フェアじゃないだろ」


 私に、好きな人はいないのかと聞かれた。なんでそんなことを聞くのかと思ったけど、理由を聞いたら納得だ。

 確かに、一方的に聞いておいて、こっちだけなにも答えないなんて、ちょっと卑怯だもんね。


 とはいっても、ついさっき考えていたことだ。悩む必要もない。


「私も、いないかなー。というか、好きっていうのがどういう気持ちか、よくわからないし」


 自分で体験したことはない。でも、ノマちゃんやキリアちゃんを見ていると、悩み考えることはあっても。それ以上に幸せそうだなと感じる。

 人を好きになるって、素敵なことなんだな、と思えてくる。


「……そうか」


 私の答えを聞いて、ダルマスはどう思っただろう。もしや、恋が分からないなんてこの田舎者め、みたいに思っていないだろうな。

 ふんだ、いいもん。今は恋とか、そういうのいいもん。魔導を極めるのにいっぱいいっぱいなんだから、いいもん。


 そんなことを考えていた最中、ダルマスは立ち上がる。


「さ、休憩も終わりだ。続きを」


「あ、うん」


 休憩したおかげだろうか、その表情は、さっきよりもすっきりしているように見えた。

 その後、魔力強化を主に訓練して……時間は、あっという間に経っていった。


 やっぱり、ダルマスは筋がいい。このまま、私が教えることだけに集中していたら、すぐに追い抜かれてしまうかもしれない。

 ま、そんなことはされないけどね!


「……なぁ、フィールド」


「なぁに?」


 今日の訓練も終わり、帰りの準備をしていたところで、ダルマスに声をかけられた。どうしたんだろう。

 なんか訓練中も、なにか考え事をしているようだったし。それで支障がでなかったのは、さすがだけど。


「なんか、わからないこととかあった?」


「いや、そうではなく……

 その……今度の休日……空いてるか?」


「休日?」


 相変わらず私と目をあわせようとしないダルマスが聞いてきたのは、休日の予定だ。どうして?

 別に、今のところは予定はない……もしかして、休日にも訓練がしたいとか?


 いやぁ、その考え方は立派だけど。休日、休みにはちゃんと休まないと。むしろ休むのも訓練だから。


「空いてるけど……」


「そうか……ならその日、俺と、出かけないか。学園の、外に」


「その日も訓練って言うなら…………

 あぇ?」


 予想もしていなかった、申し出……それは、休日に、出かけないかというものだった。

 えーーーっと……なんで、そうなった?

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