第184話 それってもしかしてデートなのでは!?
「はぁーーー……」
「……どうしましたのフィールドさん。そんな、魂が抜けたようなだらしない姿をして」
帰宅した私は、荷物を置いたあと、床に座って手足を伸ばし、ボーッとしていた。
それがどうやら、ノマちゃんには魂の抜け殻みたいに見えてしまったらしい。
「あ、口からなにか出てますわね。えいっ、えいっ」
ノマちゃんに心配はかけたくない、けど……今私の頭の中は、さっきまでのやり取りのことでいっぱいだ。余裕がない、ってやつだ。
ふと、数時間前の出来事を思い返す……ダルマスとの訓練、それが終わっていざ帰ろう、となったときだ。
ダルマスは、私にこう言った。
『ならその日、俺と、出かけないか』
その日、とは今度の週末のこと。事前に私に用事がないことを確認した上で、こう切り出したのだ。普通に考えれば、クラスメイトと休日にお出かけなんて、こっちから望むところなんだけど……
相手がまさかの、ダルマスとは。しかも、二人きり。
いやぁ、別にダルマス個人とお出かけするのがいや、ってわけじゃあ、ないんだけどさ……
これってあんまり、よろしくないんじゃないかなぁって。
「あのさ、ノマちゃん」
「あ、戻ってきましたわ。どうしましたの?」
「友達……の話なんだけどさ。
休日に、お出かけに、誘われたみたいなんだよ。男の子に」
「まあ! フィ……お友達が!」
私は、私の話を友達の話として、ノマちゃんに相談する。
この問題は、私一人で抱えるには大きすぎる。幸運にも、ノマちゃんは食い付いてくれたようだ。
「あらまぁ、殿方にお出かけに誘われるなんて……
それはもう、デートではありませんの!」
「で…………そ、うなの?」
「そうですわ! 男女で二人でお出かけするとなれば、それをデートと呼ばずしてなんと言います!」
熱を込めて答えてくれるノマちゃん。だけど、その答えは私にとってはやっぱりよろしくないものだった。
だって、デートってあれでしょ……私でも、その意味は知ってるよ!
いつも通りの私なら、デートと聞かされても、ふーんそうなんだ……と、軽く流していただろう。だけど、だ。
私の、認めたくないけどデート相手は、ダルマスだ。そのダルマスのことを気になっていると相談してきたのが、キリアちゃん。私の友達。
つまり、私は、私の友達が気になっている男の子と、デートに出かける、ということになってしまったわけで……これはやっぱり、よろしくない!
「それで、そのお友達は、デートのお誘いをお受けしましたの?」
ノマちゃんは、キラキラした瞳で私に詰め寄ってくる。
「まあ、うん……その子は、誘われたのがデートだなんて、認識してなくて。
いやそれ以前に、まさか誘われるなんて思ってなくて……あんまり驚いたもんだから、ついうなずいちゃって……」
そう、あのとき私は、突然の誘いに頭が真っ白になってうなずいてしまった。
その後、どこか上機嫌に見えたダルマスが帰っていったところで、ようやく我に返ったけどもう遅くて。
メッセージを送って断ろうかとも考えたけど、せっかく私を誘ってくれたんだと考えたら、断るのも忍びなくて。
「それで、フィ……そのお友達は、殿方とのデートがお嫌ですの?」
「……いや、っていうか。
その、友達の友達の子が、今回デートに誘ってきた男の子のことを、気になってるみたいで」
「まっ」
私の話を友達の話とごまかしている以上、友達がキリアちゃんであることや、男の子がダルマスであることも言えはしない。
いや、ごまかしてなくても、勝手に名前を出すのはだめだろう。
口元に手を当てているノマちゃんは、顔を赤くさせたり目を輝かせたりしている。
のんきな……とは思ったけど、私だって同じ立場だったら、同じような反応をしていただろうなぁ。
「それは……三角関係、というやつですわね! なんておもしろ……複雑なことになってますの!」
「今おもしろそうなって言いそうにならなかった?」
「そんなことありませんわ! えぇたまりませんもの!」
……本音隠せてないな。
そもそも、ダルマスはどういうつもりで、私をデートに誘ったんだろう。そもそも、ダルマスはこれをデートと認識しているのだろうか?
『あぁ、いや、その……わ、わざわざ訓練に、付き合ってもらっている、わけだしな!
その礼だ、礼! ただ出かけるというより、あれだ、なんか奢る!』
……こう言っていたしなぁ、唖然とする私を見てから。
ははぁん。つまり、私がデートだと誤解しちゃわないように、これはデートでじゃないですよ……と釘を刺していたってわけか。
危ない危ない。危うく、勘違いしてしまうところだったぜ。
考えてみれば、ダルマスが私をデートに誘うわけ……ないのか? 私は超かわいいんだし、男の子ならむしろデートに誘おうとするのが普通なのでは!?
「ぬぅうう……おぉおおお……!」
「フィールドさんったら、なんだかむつかしいことを考えてますわねぇ。
まあそれはともかくとして。フィールドさん、当日来ていく服は決まっていますの!?」
「ぬぬぬ……へ、いや、まだだけど……って、行くのは友達の話だからね!?」
「えぇえぇ、わかっていますとも!」
ノマちゃんは、私にグイグイ距離を詰めてくる。その表情は、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のよう。
い、一応友達の話だってわかってくれてるんだよね!? だよねぇ!?
ただ、ノマちゃんはわかっているとうなずきながらも、今度はクローゼットの方へと駆け寄っていった。
「フィールドさ……いえ、お友達の、当日着ていく服を、今から見立てなければいけませんわね!」
「え? いや、いいよそんなの……」
「よくはありませんわ! 殿方とのデート、それも向こうからのお誘いを受けて、ですもの。
ここは、淑女の嗜みとして、デートに恥ずかしくない服装にしなければ!」
やたらと気合いの入っているノマちゃんには、すでに私の声は聞こえていないようだ。
淑女、嗜み……要は、おしゃれしろ、ってことだよね。
「いやほら、服を選ぶって、私の友達の話だし、私の服を選んでも似合うかわからないし意味ないんじゃないかなぁ……って」
……だめだ、反応がない。やっぱりもう私の話聞いてないよぅ。
その後、盛り上がるノマちゃんによる着せかえショーは、夜通し続いた。
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