第182話 それはまさかの恋愛相談?



 キリアちゃんから、相談事があると言われた私は、彼女を連れて屋上へと向かった。

 そこで、受けた告白……それは、気になる人がいるというもの。要は、あれだ、恋愛相談ってやつだろう。


 その相手は、てっきり私……だと、思っていたのだが……


「……ダル、マス?」


「は、はい」


 私が聞き返すと、キリアちゃんはぷしゅぷしゅっと頭から湯気を出している。面白い。

 顔も真っ赤だし、恥ずかしそうにうつむいている。恋する女の子は、見ているだけでご飯が進みますなぁ。


 私は、購買で買ったおにぎりにかぶりつく。あぁ、パンじゃなくてご飯系にしておいてよかった。

 お茶ももちろん装備している。


「あむっ……ごくっ。

 ねぇキリアちゃん、一つ聞きたいんだけどさ」


「な、なんでしょう」


「んくっ……ぷはっ。

 これって、恋愛相談てことで、いいんだよね?」


「れ、れれれ、恋愛!? いえそんな、恐れ多いです!」


 一応、キリアちゃんの話の内容を改めて確認する。すると……キリアちゃんは、目に見えて慌てだした。

 手を振り、首も振り、今にももげてしまうんじゃないかと思ってしまうほどの勢いで。


 そんなに否定するなら、違うんだろうか。でも……


「気になる人が、いるんだよね」


「は、はい」


「それが、ダルマスなんだよね」


「……はい」


「ならそれが、恋愛というやつなのでは?」


 私は、恋愛ってやつがどんなものかは、よくわからない。だって自分で体験したことがないんだもん。

 でも、知識としては知っている。


 私の知る、知識によると……


「その人のことを考えると、胸が苦しくなる」


「……はい」


「その人と、もっと話をしたいと思う」


「……はいぃ」


 いかん、キリアちゃんの頭から出ている湯気が尋常じゃなく増えている。

 このままじゃ、キリアちゃんが蒸発してしまいそうだ。一旦言葉責めはやめるとしよう。


 ……それにしても……


「ですが、恋、なんて……私、そんなの、じゃ……」


 両手で顔を覆っているキリアちゃんを見て、私はピンときた。

 ははーん……これはあれだ。自分が平民で、相手が貴族だから自分はふさわしくない、とか考えちゃってるやつだ。


 それとも、本当に恋愛の自覚がないのか?

 ……どちらにしても、キリアちゃんはダルマスを、あくまで気になる人、と認識している。なら、今はそのまま話を進めよう。


「まあ、恋愛云々は置いておいて。

 キリアちゃんは、ダルマスが気になるってことだけど……私に、なにを相談したいの?」


「恋愛は、エランさんから持ち出したんですよ……

 ……なに、と改めて聞かれると考えてしまいますが……その……ダルマス様と、仲を深めるには、どうしたらいいか、な、と……」


 やだぁ、なにこの子超かわいい。今にも抱きしめちゃいたいんですけど。

 ただ、なんで私に、ダルマスと仲を深める方法を聞くんだろう。


 私とダルマスは別に、特別仲良くしているわけでもないし……いや、まさか。放課後の、稽古の件がバレているとか?

 いやでも、稽古は始めたばかりだし……バレるはず、ない……はずだ。


「えっと……どうして、私に?」


「それは……ダルマス様と、仲良さそうに、見えたので。あの、魔石採集の授業のときとか」


 キリアちゃんの口から出てきたのは、魔石採集の授業……私とキリアちゃんとダルマスと、あとついでに筋肉男が一緒のチームになったとき。

 あのときの、やり取りを見てそう思ったのだという。


 特別仲良くしていたって記憶はないんだけど……まあ、キリアちゃんの目にはそう映ったのかもしれない。

 考えてみれば、ダルマスは教室でも女子とあまり話をしない。だから、私と普通に話しているのが、仲良く見えたのかもしれないな。


 要は、それがダルマスと一番仲のいい女子、みたいに印象づいてしまったというわけだ。


「うーん、私は別に、仲良くなろうとか……思ってないわけじゃないけど、特に意識しているわけじゃないからなぁ」


 初めて会った、ルリーちゃんをいじめてた印象のままなら、仲良くなろうとさえ思わなかったけど。その後、クラスメイトとして接してきて、今では二人で訓練するほどだ。

 ただ、いつかダルマスにはルリーちゃんに謝ってほしいとは思う。その場合、ルリーちゃんがあのときのダークエルフだと明かすことになるから、非常に難しいんだけど。


 そんなわけで、私に相談してくれたのはありがたいんだけど、これといった意見を出せそうもない。


「ごめんね、力になれなくて」


「と、とんでもないです!」


「……ちなみに、いつからダルマスのことす……気になってたの?」


 あ、危ない……今、好きになったの、って聞こうとしてた。キリアちゃんはあくまで、気になってるだけなんだから。

 でも、今の言葉繋げて読むと「好きになってたの」って聞こえなくもない。


 ただ、キリアちゃんはそれに気づいていないのか、私の質問に答えてくれた。


「えっと……魔石採集の、授業のときに……」


 もじもじしながら答えるキリアちゃん、かわいい。

 それにしても、あの授業のときか……まあ、私が知る限り、キリアちゃんとダルマスが絡んだのは、あのときが最初で最後のはずだ。


 けど、あのときは……ダルマスと筋肉男が言い争っていて……というよりダルマスが一方的に噛み付いていて……それをキリアちゃんが止めるくらいしかしてなかったと思うけど。


「私、あのとき体調を崩して、倒れそうになって……でも、ダルマス様が支えてくれたんです。

 その後も、平民の私に、よくしてくださって……」


「ほほぅ」


 確かにあのときは、キリアちゃんの魔力の流れを感じ取る体質が、突如現れた魔獣が原因で悪化してしまい、気分を崩していた。

 それをダルマスが気にかけ……私は、キリアちゃんを任せて魔獣のところへ行ったんだ。


 てことは、だ。キリアちゃんがダルマスを意識したのは、私がその場を離れたあと、ということになる。

 くそ、おいしいところ見逃したな私!


「私、男の人に……それも、貴族の方に良くしてもらったのは、初めてで。

 わかってるんです、あんなのはただ、私がどうとかじゃなく、ただ同じチームのメンバーの体調を気遣ってくれただけだと。そんなこと、なんです。

 ですけど……」


 自分でも、言いたいことがまとまっていないのか、テンパっているみたいだ。でも、言いたいことはわかる。

 他の人から見たらそんなこと、だとしても。キリアちゃん本人からしてみれば、それはとんでもないことだったんだろう。


 嬉しくて、嬉しくて、どうにかなっちゃいそうで。だから、気持ちがどんどん大きくなっていくのだと、思う。

 これってやっぱり……恋、ってやつなんじゃ、ないのかな。

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