第181話 ちょっとご相談がありまして



「使い魔……今から、楽しみでなりませんわね」


 授業が終わり、私の席の周りに集まってきたカリーナちゃんが、いかにも楽しみだ、といった表情を浮かべている。

 それに同意するように、みんなうなずいている。


「いったい、どんな使い魔と、出会えるのでしょう」


「きっとカリーナ様なら、それはエレガントな使い魔ですよ」


「ま、そうかしら」


 授業の合間の、楽しい雑談。

 カリーナちゃんの他に、シルメィちゃんが言葉を返す。

 他にも、クレアちゃん、ロリアちゃん、ユージアちゃん、キリアちゃんが集まっている。


 この七人は、私が初めてお茶会に誘われた時のメンバーだ。

 その後、カリーナちゃん主催の下他の子ともお茶会に参加したりしたけど、特にこのメンバーと仲良くなった。


 特にキリアちゃんは、魔石採集の授業で一緒の班になってから、よく話すようにもなったし。

 魔獣が現れたことで、魔力の流れを感じやすい体質の彼女は、体調を崩してしまった。その後体調が戻ったと聞いて、私は安心した。

 また別の日、キリアちゃんとルリーちゃんを誘って冒険者同行のダンジョン探索に行ったり、ルリーちゃんの次に仲のいい平民の子かもしれない。


 いっつも、というわけではないけど、授業が終わると私の席の周りに集まるのが、最近の流れだ。


「皆さん、使い魔の話で盛り上がってますね」


「それはそうよ。使い魔なんて、魔導士と切っても切れない存在だし」


 どうやら、魔導士というものは使い魔と契約しているのが当然、というものらしい。

 この魔導学園で、使い魔召喚の授業は受けられる。学園にいる間は、私たちは魔導士見習いって扱いらしいけど。


 卒業しないと、いっぱしの魔導士とは名乗れない。それは、学園でしか学べないものもあるから、ってことなんだろうな。

 学園に所属していなくても、魔導を使えればみな魔導士……と私は思っていたけど、ちゃんと名乗れないと信用問題はつかないみたいだ。


 まあ、使い魔のいる人の全員が魔導学園卒業生、というわけでもないと思うけど。


「ダルマス様の使い魔は、きっとめちゃくちゃかっこいい使い魔なんでしょうね!」


 ……向こうでは、ダルマスを中心に何人か集まって、話しているみたいだ。

 まあ、ダルマスがというより、ダルマスの周りの子たちが盛り上がってダルマスはそれをただ聞いているだけ、みたいだけど。


 ふむ……確かに、ダルマスの実力なら、強い使い魔を召喚出来るだろうなあ。

 先生曰く、使い魔召喚の授業は一年生の後半……つまり、魔導大会よりも後ということになる。


 魔導大会に参加するつもりのダルマスにとっては、使い魔と一緒に戦えればそれだけ勝率も上がるだろう。だから使い魔なしで、大会に挑むことになる。

 ま、私もだけど。


「ダルマス様は、どんなモンスターを使い魔にしたいですか?」


「……今はただ、自分の実力を高めるだけだ」


「実力の違いで、召喚されるモンスターのレベルも違うって言ってましたからね。

 くぅー、さすがダルマス様!」


 ……あのダルマスが、私に直々に稽古をつけてくれと言ってきた、なんてみんなに言ったら、いったいどんな反応をするだろうか。いや話さないけどさ。

 実力を高めるだけ、なんてかっこいいこと言っちゃってさ。

 実際、自分の実力を高めれば、それだけ強いモンスターが召喚されるのは事実だけどね。ハム子ちゃんみたいに。


 あちらも盛り上がっているけど、みんな自分たちのことに話が集中している。

 今だって、ダルマスたちのことを見ているのは、きっと私くらい……


「……」


「……んん?」


 いや、私だけじゃない。ダルマスたちの方を見ているのは、もう一人……キリアちゃんだ。

 たまたまダルマスたちの方向を見ている……わけじゃないな。完全に、あそこにいる子たち……というか、ダルマスを見ている?


 なにか、気になることでもあるんだろうか。

 ……はっ! もしかして、平民だからってダルマスにいじめられているのか!?

 あの野郎……!


「キリアちゃん、困ったことがあったらなんでも言ってね」


「へ? あ、は、はぁ」


 キリアちゃんは困惑した様子だけど、友達なんだから友達が困っていたら助けるのは当然だ。友達だからね。

 その後、みんなで雑談をして、授業を受けて……やってきましたお昼休み。


 はぁー、お腹すいたなー。

 さてさて、食堂が混んじゃう前に、早いとこ……


「あ、の……エラン、さん」


「うん?」


「少し、いいですか?」


 食堂に行くために立ち上がったところで、声をかけられた。

 そこに立っていたのは、キリアちゃんだ。キリアちゃんが一人で声をかけてくるなんて、珍しいこともあるもんだな。


 私に用事とは、もちろん断る理由はない。


「いいけど、どうしたの?」


「その……二人で、お話が、したくて。そ、相談、が!」


「二人で?」


 私と二人で話がしたいと言うキリアちゃんのほっぺたは若干染まっていて、緊張したようにスカートをぎゅっと握っている。

 なんか、尋常じゃない様子だな……いったい、なんの話だろう。


 ……このもじもじした反応! まさか私に……!?


「あー、うん、わかった。

 ごめんねクレアちゃん、今日はキリアちゃんと食べるね」


 いつも一緒に食堂に行っているクレアちゃんに別れを告げ、私はキリアちゃんを連れ購買に。

 さすがに、お昼になにも食べないというのはね。危ないからね。


「すみません、クレアさんのこと……」


「ん? いいよ、クレアちゃんもわかってくれるって」


 私がクレアちゃんと一緒にお昼に行けなかったことを気にしているようだけど、クレアちゃんはそんなこと気にする子じゃないよ。

 もちろん私もね。


 さて、キリアちゃんを連れてやって来たのは、屋上。今の時間帯だと、人もいるけど……教室や食堂よりは、いない。

 中庭も考えたけど、今日は風が気持ちいいから、屋上の方がいいかなって。


 空いていたベンチに座る。二人掛けのベンチだから、ちょうどいい。


「……あ、あの……」


 ここからどうやって話を引き出そう……そう考えていたけど、まさかキリアちゃん本人から言い出してくれた。

 なんか言いにくそうだったけど、本人から言ってくれるなら話を進めやすい。


「じ、実はその……あの……」


「大丈夫、ゆっくりでいいからね。落ち着いて」


「は、はい……はぁ、ふぅ……

 その……き、気になる方が、いまして……」


 消えちゃいそうな声で、それでも私に聞こえるように、勇気を振り絞ってくれた。

 気になる人がいるのだ、と。


 それは、ここに来るまでの間に予想していた。

 私に話しかけてきた時の、あのもじもじした反応、赤くなった顔……あれはそう、気になる相手っていうのは……


「それって、もしかしてわた……」


「その……だ、ダルマス様の、こと、が……!」


「し…………うん?」


 ……あるぇー?

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