第180話 固い絆で繋がっている召喚主と使い魔



「はぁー、焦った……」


「焦ったのはこっちよ」


 その後、私は誰かの魔法で下に引き抜かれ、自分のクラスへと戻っていた。細身の身体でよかったよ、もしおっぱいが大きかったらつかえてたかもしれ……

 ……考えるのはやめよう。


 私を引き抜いたあと、先生は上の教室……二年生のクラスに謝りに行った。さすがに問題だったと思っているのだろう。

 壊れた天井も、ささっと直して行った。すごいね。


「いやぁまさか、ハム子ちゃんがあそこまで力が強いとは」


「あー、うん……エランちゃんを殴り飛ばしたもんね」


「すごかったですわねー」


 あんな小さな体で、自分よりもずぅっと大きな相手を殴り飛ばせるなんて。使い魔ってのは、見た目で判断はできないもんだなぁ。

 人は見た目によらない、は人だけじゃないんだなぁって。


 それに、使い魔は召喚者がバカにされたりすると、怒るみたいだ。私としては、少しからかったつもりだったんだけど、ハム子ちゃんはそうは感じなかったらしい。

 こっちが感じている気持ちと、相手が感じた気持ちは違うってことだな。


「いやぁ、人付き合いって難しいよね」


「……どうした急に」


 そんな話をしている間に、二年生の教室に行っていた先生が戻ってきた。

 ちょっとしゅんとしているように見える。肩に乗っているハム子ちゃんも。


「あ、先生」


「さすがに叱られてしまった……って顔してますね。ドンマイです」


「お前……

 いやまあ、その通りなんだが」


 先生は、苦々しい表情を浮かべながらも、私の言葉を肯定した。とはいえ、私にも責任の一端はあるので、ちょっと反省。

 教室内が微妙な空気になってしまったが、気を取り直すように先生は、こほん、と咳払いをする。


「とにかく、だ。使い魔は今のように、術者に対する行動、言動で過剰な反応を示すことがある」


 さらっと授業に戻ったな……とおそらくみんなが思っただろうけど、口にはしなかった。


「それって、ハム子ちゃんは召喚主である先生のことが大好きだから、過剰に反応したってことですか?」


「そういうことだ」


 言い切ったよ……とおそらくみんなが思っただろうけど、やっぱり口にはしなかった。


「さ、お前たち席に戻れ。授業を再会するぞ」


 ハム子ちゃんのかわいさに群がっていた女子たち、そして私が打ち上げられたことに動揺していた男子たち、みんな立ち上がっていたけど、先生の指示で自分の席へと戻る。

 本当にこのまま授業再開するつもりなんだな。いいけど。


 というか、この状況でただ一人で席に座って手鏡を眺めている、あの筋肉男はなんなんだ。


「今見たように、使い魔の力はお前たちが思っている以上に強力だ。まあ、その力は術者の技量によって上下するがな。同じモンスターでも、術者が違えば使い魔の力も違う。

 私のハム子も、こんなに小さくキュートでかわいくてラブリーだが、見た目通りの力しかないと判断するのは誤りだ」


 使い魔の力は、召喚主の技量により決定する……か。召喚されるモンスターがそもそも、召喚主の力量により決定するとはいうけど……どちらかというと、相性の問題なんだろう。

 そこからさらに、大きな力を持つか持たないか。召喚主の技量によって変わる。


 ハム子ちゃんがいい例だ。私としても、あんなに殴り飛ばされたのはいつ以来だっただろうか。

 ……それにしても、先生ハム子ちゃんのことになるとわりと頭緩くなるんだな。

 親バカってやつか?


「使い魔は、契約した時点で術者との繋がりができる。一番わかりやすく言うと、そうだな……感情、視界の共有といったところか」


「先生、感情の共有っていうのは、さっきのエランちゃんの有り様を見てたらわかりますが……視界もですか?」


 おおう、さっきのこと蒸し返すじゃないのクレアちゃん。


「あぁ。もちろん常に共有されているわけではないが……

 術者が念じれば、使い魔の目を通じて使い魔が見ている景色を、見ることができる。

 私の場合は、ハム子の見ている景色をだな」


 なるほど……ああいう小さなモンスターと視界を共有できるとなれば、いろんなことができそうだ。

 たとえば、物を落としちゃってそれが小さな隙間に入り込んだとき……使い魔の視界を共有し、探すことができるだろう。


 それに……


「じゃあ、ハム子ちゃんを使えば女の子のスカートの中見放題ですね」


「!?」


「するかアホか」


 私の何気ない一言を、先生は即座に切り捨てる。あはは、まあそうだよね。

 同時に、女の子たちの視線がチラチラと男の子たちに向けられていた。あー……つまりは男の子が小さな使い魔を召喚したら、その使い魔を悪用してやりたい放題って、私の言葉で思っちゃったわけだ。


 おかげで、男の子たちにあらぬ疑いがかけられてしまった……

 ごめんね!!


「そういえば、ゴルさんのサラマンドラもそうだったもんな……」


 ふと、思い出した。ゴルさんとの決闘のとき、召喚したサラマンドラ……名前はドラ、と、ゴルさんは視界を共有していたのを。

 なので、私の攻撃はことごとく弾かれちゃってたっけ。



『召喚者は、使い魔の視界を通じて、使い魔が見ているものも見ることができる。

 この子、私の使い魔なんかは鳥で飛べるから、遠くの景色も視界を共有できるってことなんだ』



 そして決闘の最中に、師匠の言葉を思い出したわけだ。

 やっぱ、機動力のある使い魔っていうのは、いいよなぁ。小さく素早く動けたり、飛べたり。


 もちろん、ゴルさんのサラマンドラのような、うわぉこれ強い、みたいな一発でわかる使い魔にも憧れる。

 女の子としては、かわいい使い魔を求める気持ち……対して、かっこいい使い魔を求める気持ち。二つの気持ちが、私の中で暴れ回っている!

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