第179話 なんて間抜けな私
使い魔召喚のための知識を深める授業。その最中、担任のサテラン先生は使い魔を召喚した。
召喚されたモンスターは手のひらサイズのハムスターで、くりくりしたお目目がとてもかわいらしい。
サラマンドラという強大な使い魔を見ちゃってたから、使い魔ってのはかっこいいものだってイメージが強かったけど……
こんなかわいらしい使い魔も、いるんだなぁ。
「でも、使い魔の召喚には、術者の性格も反映されるって言ってたけど……
…………」
「なんだその目は、喧嘩なら買うぞ」
ふと、サテラン先生を見る。右目の黒い眼帯、ショートカットでスレンダーな立ち姿は男っぽく、また男っぽい口調。正直、男らしさは感じても女らしさは感じない。
そんな人が召喚した使い魔が……こんな、かわいいなんて……!
「いや、なんかすげー似合わねえなって。先生なら、ゴリラとか召喚しそうだなって……
……あ。ぎ、ギャップがすごいなーって」
「本音隠せてないどころかほぼほぼ言ってんじゃないか!
よーしいい覚悟だフィールド、そこになおれ!」
「いやーん、体罰はんたーい!」
「なんだそれは! そんなものはない!」
先生がわりとマジな目をしていたので、もう窓から逃げようと思っていたところで……ふと、肩になにかが重みを感じた。
なんだろうと思って、視線を向けると……そこには、使い魔ハムスターが乗っかっていた。
き、教卓から……私の肩まで、登ってきた……!?
「すごいジャンプ力……
あぁん、そんなつぶらな瞳で私を見ないで!」
「エランちゃんずるーい!」
「はっは、どうやらハム子は怒っているようだな」
そのくりくりお目目で見つめられただけで、私は、私は……!
そんな中、先生が得意げに笑っている。
どうやら、このハムスターは怒っているらしい……? 私にはよくわからないけど。
ていうか、この子の名前ハム子っていうのか。
「メス、なんですか?」
「あぁ」
「先生、ネーミングセンスないんですね」
「あんだと!?」
まあ、先生のネーミングセンスは置いといてだ。
このハム子ちゃんが、怒っているというのはなぜだろうか。
「ハム子は、私の使い魔だ。ゆえに、私がバカにされたことがわかったのだろうな。今やお怒りぷんぷんだ」
「それって、使い魔は術者の精神と繋がっている……みたいなことでございますの?」
「その通りだ」
生徒からの質問に、先生は答えていく。すごいどや顔してる……さては、使い魔見せびらかしたかったな?
それにしても、ネーミングセンスどころか言葉遣いまでちょっとおかしくなっているような?
初めに見た時の、ミステリアスな印象はいったいどこへ。
「いやぁ、怒ってるって。こぉんなかわいい顔してたら、怒られてる実感がないですよ」
「油断してると痛い目を見るぞ? 今にハム子のハムパンチが炸裂する」
「あっはっは、むしろどんとこいですよ」
もうネーミングセンスんついては触れないでおこう。それよりも、だ。
ハムパンチとは、その言葉通りハム子ちゃんの放つパンチだろう。それはわかるけど……
こんな小さな体で、小さなもふもふの拳で、パンチを打たれても痛くも痒くもないだろう。
それどころか、打たれてみたい気持ちさえある。
ので私は、ハム子ちゃんがパンチしやすいように、無防備にほっぺたをさらしていた。
「さあさあハム子ちゃん、狙いはここですよ~。ほらどーんとこ……」
……次の瞬間、世界が回った。
ドォッ……!
「ぃあぶほ!?」
無防備にさらしていたほっぺたに、走る鋭い痛み。下から打ち上げる、圧倒的な圧力。
直後、私の体は宙に舞っていた。比喩じゃない、物理的に。
さらにその直後、頭に鋭い痛みが走った。
「おー、飛んだな」
"下"から、先生ののんきな声が聞こえた。遅れて、私は理解する。
どうやら……私は、殴り飛ばされたらしい。誰にって? 他でもない、ハム子ちゃんに。
それも、ただ真正面から殴られたのではなく、下から打ち上げる形で。
その結果として、私の体は吹き飛んだわけだ。真後ろではない、空に。
そして屋内であるここに、空はない。打ち上げられた先は、天井だ。
ということは、ほっぺたとは別に頭に受けた痛みは、天井にぶつかった痛み……いや、天井を突き破った痛みだということだ。
……そんな私は、状況的に説明すると……まあ、上つまり二先生の教室に、頭だけ突き抜けた状況ということで。
「…………どうも」
黄色いスカーフを付けた制服を着た生徒たち……つまり二年生が、一斉に私を見ていた。二年生から見れば、床からいきなり人間が首だけ生えてきたみたいに見えるだろう。
しかも、位置的には教卓の近くだ。嫌でもみんなの視線は集まる。
まあ、どうせ床が突き抜けた音で、注目は集めちゃうだろうけど。
みんな、ただ無言のままに私の顔を見つめている。この組の先生もだ。当然だよな。
さすがにいたたまれないので、早くここから逃げたいが……
「エランちゃん、エランちゃんが突き刺さってる!?」
「首から下が吊るされてるみたいになってるぞ!」
「って、男子は見るな!」
下から聞こえる言葉の内容の通り……今の私は、一年生と二年生の教室の境目で、引っかかって宙ぶらりんになっている状態だ。
しかも腕も変な方向に固定されちまって……下が見えないこんな状況じゃ、杖も取れやしない。
あぁこれ、上からも下からも、私の姿はずいぶん間抜けに見えているんだろうなぁ。
ふっ、涙拭けよ私。
拭く手も動かねえよ私。
「あの……大丈夫、かね」
ここでようやく、声をかけてくれる人が。この組の担任の先生だろう。
正直放っておいてほしかった気もするけど、せっかく好意で声をかけてくれたんだ。無下にはできない。
「大丈夫です、問題ないです」
「いや、問題ありまくりだろう……頭から血も出てるし、痛いだろう?」
「精神的な痛みに比べれば、これくらい……」
あぁだめだこれ。かっこよく言っても全然かっこつかないやこれ。
自分じゃ動けないし、おとなしく引っ張られるか引き上げられるか待つしかないかぁ。
にしても、二年生のみなさんには申し訳ないことをしたな。せっかくの授業を中断させて、こんなわけのわからない事態に巻き込んでしまって……
「……」
「……」
ふと、教室内を見渡すと……一つの視線と、目があった。
見間違いだといいんだけど……あ、だめだあれ本人だ。すごい見覚えあるもんな。よりによって、最前列にその人はいた。
生徒会メンバー……つまり、私と同じく生徒会に所属している男の子。
シルフィドーラ・ドラミアス。通称シルフィ先輩……元々、私のことを気にくわないとしてあんまり話したことがない人。
そんな彼が、私のことを、まるでゴミを見るみたいな目をして見ていた。
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