第178話 使い魔召喚が……したいです



 使い魔召喚。以前から早く知りたい項目ではあったが、ゴルさんとの決闘を機にその気持ちはますます強くなっていった。

 きっと、その気持ちはみんなも同じだろう。なんせ、ゴルさんはあの決闘で、使い魔であるサラマンドラを召喚して見せたのだから。


 あれを見て、ウズウズしない魔導士はいない。

 もっとも、サラマンドラほどの使い魔を召喚するなんてまず無理な話だけどね。


「使い魔召喚の授業は、一年の後半に行う。それまでは、使い魔に関する知識を深めておけ。

 知識があるとないとで、それも使い魔召喚に影響してくるからな」


 早いところ使い魔を召喚してみたいところだけど、ここで焦っても仕方ない。みんな、使い魔に関する知識はそれほどないのだ。

 知識がないのに、召喚しても……その先、うまくいく未来が保証されているわけではない。


 魔導もそうだけど、何事も知識を深めることは大切だ。仕方ない。使い魔召喚したいけど、ここはぐっと我慢だ。


「とはいえ、使い魔召喚に関してはそれほど、知識が必要なわけではない。

 召喚魔術さえ覚えれば、それに応じて自分に適用したモンスターが、使い魔として召喚される。それと契約し、使役することで主従の関係が結ばれる」


「先生! 召喚魔術について知りたいです!」


「それを教えるのが一年後半だ、おとなしくしてろ」


 はいっ、と手を上げて質問する私だけど、先生の答えはあっさりしたものだ。むぅ。

 まあ、魔術を教えたら、勝手に魔術を使う子がいるかもしれないから、そこは仕方ないんだろうけどさ。


 使い魔召喚の授業は、一年生の後半時。そのときまでは、知識を深めておくしかないわけだ。


「時期が来たら、授業内で使い魔召喚を行う。一人ひとり、使い魔となるモンスターを召喚し、その場で契約を行ってもらう。

 どんなモンスターが召喚されるかは、そのときになってみないとわからないわけだな」


「きゃー、なんだかドキドキしてきた」


「ねー」


 先生の説明に、ざわざわとあちこちから声が。そのほとんどが、また見ぬ使い魔に期待を馳せるものだ。

 一方で、不安な表情を浮かべている子は……どんな使い魔が召喚されるか、心配なんだろうな。今から心配しても仕方ないと思うが。


 まあ、直前に見てしまった使い魔が、よりによってサラマンドラだからな。臆する気持ちも、わからなくはないけれど。

 期待と不安は紙一重……と、誰かが言っていたような気がする。たった今私が考えた言葉な気もする。


「先生!」


「だから、使い魔召喚の授業は一年後半で……」


「いや、違くて。

 先生の使い魔は、どんなモンスターなんですか?」


 またもはいはい、と手を上げた私に、先生は呆れたような表情を浮かべる。けれど、今度の私の聞きたいことはそれではない。

 授業がいつかは、もうわかりきった答えだから聞かないことにして。今は、別に気になることがある。


 先生の使い魔は、どんなのだろうというもの。私は昔に師匠の、そして少し前にゴルさんの使い魔を見たことはあるけど、他の人の使い魔は見たことがない。

 魔導学園の先生の、使い魔がどんなモンスターなのか。純粋に、気になるのだ。


 私の言葉に、他の生徒も「見たい見たい」とか「気になります」とか口に出す。

 やっぱり、みんなも気になるよね。


「……まあ、いいだろう。どうせ、いずれ見せてやるつもりではいたんだ。

 初めて召喚する場合は、それなりの準備が必要だが……契約を完了した使い魔ならば、気軽に呼び出すことができる」


 先生は、ふふんと笑う。もしかして見せたかったのだろうか。

 先生は杖を取り出し、教卓を退けてからスペースを作る……かと思いきや、教卓の上だけをきれいにする。

 召喚にそこまでの広さは必要ないのだろうとは思っていたけど、使い魔の大きさにもよるんだろうね。


 それこそ、サラマンドラくらい巨大な使い魔なら、広い場所が必要になるだろうけど。


「よし、出てこい!」


 先生が杖を振るうと、その場所だけ地面が青く光る。あれは、魔法陣かな。その直後、地面の下からなにかが現れる。

 こう、ぬるって感じで出てきた。地面から這い出るんじゃなくて、地面の下から魔法陣の上に移動してきた、みたいな。


 姿を現したのは、小さなハムスターだ。


「こいつが、私の使い魔だ。名前は……」


「チュウ〜」


「「「か、かわいいーーー!!」」」


 そのハムスターが先生の使い魔であることに疑いようはなく、先生は自信満々に名前を話そうとする。

 けど、同時にハムスターがかわいらしく鳴いた瞬間……教室内の、女の子たちが一斉に湧いた。


 かくいう私も、思わず声を上げそうになってしまった。な、なんだあれ……なんだあの声、かわいすぎるだろ!

 しかも、小首をかしげてこっちを見ている。なんだあのポーズ、あざとかわいすぎる!


 女子たちは、一斉に立ち上がり教卓へ……その上にて座っている、ハムスターへと近づく。いつの間に座ったんだ、なんかもっちりしててかわいいなぁ!


「……」


 その様子に、男子たちはぽかんとしている。

 まあ、女の子はかわいいものが好きだからねぇ……その勢いについていけないのは、わかる。わかるよ。


「まったくみんな、そんな騒いじゃって……子供じゃないんだから」


「……そういうエランちゃんは一番に飛び出して一番前をキープしてるじゃない」


「えへっ」


 教卓の上でチュウチュウ鳴いているハムスターの、なんとかわいいことか。大勢の人に見つめられて、キョロキョロしている。

 かーわいいわぁ!


 はぁ、サラマンドラを見たあとだと、どんなモンスターを見ても見劣りすると正直思ってたけど……あぁんこの子かわいしゅぎる!

 こんなんじゃ、私も早く使い魔召喚したいって欲求が、抑えられなくなっちゃう!


「先生! やっぱり今すぐ使い魔召喚しません!?」


「だめだっつってんだろ」


「くっ……」


 だめでした。

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