第153話 ルリーの告白



「あ、ルリーちゃーん」


「エランさん!」


 放課後になり、私は一人、ルリーちゃんのいる「ラルフ」クラスへと向かった。

 教室内にひょっこりと顔を出して、ルリーちゃんを呼ぶ。窓側の席にいたため、すぐに見つけられた。


 どうせ一度自分の部屋に帰るんだから、わざわざルリーちゃんを迎えに来る必要はないんだけど……なんだか、こういうの一回やってみたかったんだよね。


「じゃ、行こっかルリーちゃん」


「はい」


「あ、エランじゃん。おーい!」


「ぺっ。

 じゃ、行こっかルリーちゃん」


 なんか、私を呼ぶ不審者の声がしたけど、無視だ。

 ルリーちゃんと共に廊下を歩いて、そのまま玄関へ……といきたいところだけど、まずは購買へ。それから下駄箱だ。

 校舎から出れば、向かう先は女子寮だ。


 初めてのお泊まり会。そして秘密の話。いろんな意味で私、ドキドキしている。


「じゃ、準備したらすぐに行くからね」


「はい!」


 一旦、ルリーちゃんと別れた私は自分の部屋へ。

 さて、必要なものを準備しないと……えっと、着替えとあとから……


 こういうのは初めてだから、手探り状態で準備を終え、自分の部屋を出る。ノマちゃんは、まだ帰ってきていなかった。


「ルリーちゃーん、来たよー」


「いらっしゃい、エランくん」


 ルリーちゃんの部屋の前まで行き、扉をノック。扉が開き私を迎えてくれたのは、ナタリアちゃんだ。

 私は「おじゃまします」と声をかけてから、部屋の中へと入る。


 以前来た時も思ったけど、部屋の中綺麗にしてるよねー。それに、部屋の構造は同じなのに、置いてあるものが違うだけでこうも、私の部屋と印象が変わるものなのか。


「いらっしゃい、エランさん」


「今日はお世話になりまーす」


 私は適当に座らせてもらう。荷物も置いてと……購買で買ってきた食事を、机の上に置く。

 今回は、お互いの話が長くなりそうだったので……部屋で、食事をしようという話になり、購買で先に買っておいたのだ。


 さてさて、と。このお泊まり会の目的は、私と、それからルリーちゃんの話のためだ。

 うーん、さっそく本題から話していいものか……と考える。


「はい、どうぞエランくん」


「あ、ありがとー」


 うーんと考えていたところへ、ナタリアちゃんがお茶を持ってきてくれる。ありがたい。

 私はコップを受け取り、それをごくっと飲んでいく。うーん、冷たいお茶が喉を潤していく。


 お茶を飲み干し、私はほっと息をつく。なんか、気持ちが落ち着いた気分だよ。


「えっと……私の話は、多分長くなるとは思うんだけど……」


 まあ、私の話というか、ルリーちゃんに聞きたいこと……だから正確にはルリーちゃんの話である気もするんだけどね。

 ナタリアちゃんはベッドに腰掛け、ルリーちゃんは座布団の上で正座をしている。


 本人としても、真剣な話をするつもりなのだろう。だからって、もう少し姿勢を楽にしてもいいとは、思うんだけど。


「では、私から。

 ……あの、覚えてますよね。ダンジョンで見た"魔死者"」


「え、うん」


 ルリーちゃんが、緊張した面持ちで話し始める……それは、私の予想していないものだった。

 部屋に、ルームメイトのナタリアちゃん以外には私しかいない状況だ。てっきり、エルフについての話をされると思ったんだけど。


 それが、あのダンジョンでの"魔死者"のことなんて。いったいなんの……


「あの、"魔死者"……いえ、事件の犯人。

 私と同じ、ダークエルフかもしれません」


「!」


 話をされるのか……そう思っていたところへ、いきなり横からぶん殴られたような衝撃を受けた。

 あの、ダンジョンの……いや、そもそも"魔死事件"の。その犯人が、自分と同じダークエルフかもしれないと。


 今、ルリーちゃんはフードを取っている。なので、彼女の銀髪と尖った耳は露わになっている。

 膝に置いた手は、若干震えていて……緑色に輝く瞳は、私をしっかりと見つめている。


「あのとき、"魔眼"で見えたのは、死んでいた人の魔力の流れだけ。体内の流れが、めちゃくちゃになっていたこと。

 でも……なんだか、よく、わからないんですけど……感じたんです。この事件には、エルフが……ダークエルフが、関わっているんじゃないかって」


「……」


 その告白は、声が少し震えていた。

 それは、根拠もなにもない……いわば、勘だ。結果的に、この事件の犯人はダークエルフだ。だから正解ではある。


 勘……本能で、感じたものだろう。たとえ見えなくても、自分の同族が、この事件に関わっていると。

 ルリーちゃんが抱えていたのは、これか……この痛ましい事件に、まさか同族が関わっているなんて。それも、証拠もなしにそう感じた。

 それを話してくれる時点で、私をすごく信頼してくれているってのは、わかる。


「いきなり、なに言ってるんだって思います。でも、私……」


「ルリーちゃん」


 なんとか、信じてもらおうと言葉を選んでいるルリーちゃん。その言葉を、私は遮る。

 不安に揺れた瞳からは、涙が流れてしまうんじゃないかというくらい、儚げで。


「私、事件の犯人に会ったんだ」


「……え?」


「本当かい?」


 だから私は、話そうと思った。事件の犯人が、ルリーちゃんのお兄さん……というところまで話していいかは、まだわからないけれど。

 せめて……ルリーちゃんが正直に話してくれたんだ。その答えくらいは、教えてあげないといけない。


「うん。だから、結論から言うよ……

 ダークエルフ、だった。事件を起こしたのは」


「!」


 その瞬間、ルリーちゃんは口を押さえる。驚きの声を我慢しているのか、それとも吐き気を我慢しているのか。

 自分と同族が犯人、というだけで、この反応だ。やっぱり、そのダークエルフの正体までは伏せておいた方がいいのかもしれない。


 少なくとも……


「ルリーちゃん。私からの話……ううん、お願いがあるの」


「……おね、がい?」


「教えてほしいの、ルリーちゃんのこと……ルリーちゃんに、いったいなにがあったのか。

 ダークエルフに、なにがあったのか」


 ダークエルフのことをなにも知らないまま、ただ犯人を述べるのはよくない気がする。

 それに……



『あいつは、オレのことを死んでいる、と思っているからな』



 ルリーちゃんの過去に、なにがあったのか……

 それを知らないと、私はこの事件と、ルランと、ちゃんと向き合えない気がするから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る