第151話 キミの力になりたいから



「ふぁ、あ……」


 意識が覚醒し、目を覚ます。なんだろう、なんかすごいスッキリした感じだ。

 ……あと、なんか体が動かない。でもなんか柔らかい。


 首は自由に動くので、今自分の体になにが起こっているのか、確認するために首を動かすと……


「え、えぇ!?」


 近くには、ノマちゃんの顔。しかも、眠っているのか目は閉じている。

 しかも、だ。これ……ノマちゃんに抱きしめられている? あれ、なんでぇ?

 確か私……あ、そっか。ノマちゃんのベッドに寝転がって、そのまま……


 じゃあ、私を起こさずに抱きしめたまま、ノマちゃんも寝ちゃったってこと?


「ん……ノマちゃんの、おかげなのかな」


 なんか、寝る前よりもスッキリしているいるのは……ノマちゃんがこうして、抱きしめてくれていたからかな?

 恥ずかしいけど……なんか、嬉しいな。


 それにしても……気持ちいいんだけど、一歩間違えたらこれ、ノマちゃんのおっぱいで押しつぶされてたんじゃないかな。いや、ふかふかで気持ちいいんだけどさ。

 今、何時だろう……朝、ってことはないだろうけど……


「ノマちゃーん?」


 そっと、声をかけてみるけど……起きる気配は、ないな。無理やり起こすのもかわいそうだしなぁ。

 ちょっとお腹も減ったし、食堂か購買に行きたい気持ちもあるけど……ノマちゃんを押しのけて移動するのもなんだしなぁ。


 ……なんか気持ちいいし、もう一回寝ちゃおうか。寝てれば、空腹なんてごまかせるだろうし……



 くぅ……



「いやでも、お腹減ったなぁ」


「でしたらこちら、パンをどうぞ」


「ありがとう」


 考えてみれば、今日は午前中から集会があって、その後憲兵さんの事情聴取があった。その間、なにも食べていない。

 あぁ、事情聴取終わった後に、普通になにか食べてくればよかった。そんなことも思いつかないくらいに、疲れていたってことかな。


 あの魔獣騒ぎ以降、食事はしっかりとろうって考えていたのに。私もまだまだ自己管理が足りないなぁ。


「あ、これおいしい」


「それはよかった。購買でおすすめの、新商品でしたので」


「そっかぁ」


 ノマちゃんに抱きしめられたままなので、ちょっと食べにくいけど……まあ、食べられないわけじゃないし、なんとかね。

 パンの中に挟まってある……この、ドロッとした液体みたいなものが、質素なパンのいい味付けになっている。


「これ、なんだろ」


「聞いたところ、どうやらジャム、というものみたいですよ」


「ふぅん…………

 ん?」


 そうか、これはジャムっていうのか……って、ちょっと待って? なんかおかしくない?

 今この部屋には、私とノマちゃんしかいない。で、ノマちゃんは寝ている。


 なら、今私と会話しているこの声は? しかも、これ男の人の……


「誰!?」


「おひさしぶりです、エラン様。カゲ・シノビノです」


「ひゃあああ!?」


 そこには、見覚えのある男の子がいた。ノマちゃんのお世話係だという、カゲ・シノビノくんだ。

 彼は、部屋の真ん中で正座して、すました顔をしてそこにいた。


 ななな、なんでここに!?


「あ、あの、い、いつから……」


「それは……申し訳ございません、お答えできません。

 あ、エラン様の寝顔がかわいらしかったことは、誰にも話しませんのでご安心を」


「……」


 な、寝顔見られた……男の子に……さいっあくだ。

 落ち込む私とは対照的に、カゲくんは表情を変えない。


 うぅ、こうして慌てるのがバカらしくなってきた。男の子が女の子の部屋に入ってきているのに……そういえば、カゲくんは男の子が恋愛対象なんだっけ。

 じゃあ、まあ……うん、ギリ、セーフってことで……


 そうとでも考えないと、ダメな気がする。


「はぁ……なんかもう、いいです」


「? エラン様、まだ疲れが取れていないのですか?」


 あんたのせいでね、と言いたいのを、私は我慢する。


「いや、疲れは取れたよ、うん。

 ……ノマちゃんは、ずっと?」


「えぇ。疲れて眠ってしまったエラン様の頭を撫で、抱きしめて安心させようとする姿は、まさに聖母のようでした。

 これだけのことをしてもらって、まだ疲れが取れないとおっしゃるのであれば、エラン様のお体に異常があると疑っていたところです」


「……」


 本当にどこから見ていたんだこの人。あとノマちゃんに対する感情重いな。

 私は、手の中に残っていたパンを見つめ、最後の一口を食べ終わる。


 そういえば、パン持ってきてくれたのもカゲくんなんだよね。


「パン、ありがとうね。お腹減っちゃって、お腹と背中がくっつくところだったよ」


「物理的に、お腹と背中がくっつくことはありえないと思いますが……

 失礼ながら、エラン様は頭がおかしくていらっしゃる?」


「あはは、たとえ話でここまでディスられるとは思わなかったよ。

 あ、パン代払うよ」


「いえ、結構ですよ。勝手に部屋に入った迷惑料、とでも思ってください」


 迷惑料ならもっと高いものを請求したいところだけどね!

 あとこの人中々言うじゃない!?


 その後、少しだけ話をしてから、カゲくんは部屋を出ていった。なんだったんだ、いったい。

 今はまだ深夜みたいだし、もう一眠りしよう。


 明日は……いや、もう今日かな。いつも通り授業はあるけど……私には、決めたことがある。放課後、時間をとって……ルリーちゃんに、話を聞きに行く。

 その内容はもちろん、ルリーちゃんの過去の話を聞くためだ。



『なにも知らない、なにも聞いてない。

 それでよく、友達だなんて言えたもんだな!』


『お前があいつの、なにを知ってるんだ?』



 ……あの言葉が、ずっと胸の奥で、つっかえている。だから……ってわけじゃないけど。リーサが言っていたように、相手のことを全部知らないと友達じゃないなんてことはない、とは思ってるけど。

 これは、私自身の気持ち。ルリーちゃんのことを、もっとちゃんと知りたい。


 それに、彼女のことを知れば……ルランが、なんであんなことをしているか、わかるかもしれない。

 わかったところで、それを許せるかはわからないし許していいとも思わない。だけど。


 知らないと、前に進めない。そんな気がするから。


「……力に、なりたいし……」


 知ることで、私がなにか力になれるかもしれない。ルランは、人を殺めている……でも、ルリーちゃんは過去になにかあってなお、人と交流を持とうとしている。

 私はルリーちゃんの力に、なりたい。


 だから……


「……すぅ」


 私はどんな現実でも、受け入れる。

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