第148話 再び事件現場へ



 理事長に集められた私たちは、解散となった。

 とはいえ、私とお姉さん……レーレアント・ブライデントさんは。この後憲兵さんからいろいろと話を聞かれるらしいから、お暇になるわけじゃないんだけど。

 "魔死事件"を調べるために来る憲兵さん……いわば、事情聴取のようなものだ。


 被害者のお姉さんであるレーレアント・ブライデントさん。そして、わりと早い段階で死体を発見した私。

 私が含まれているってことは、第一発見者の生徒である、被害者の恋人さんも呼ばれている可能性が高い。


「では、申し訳ありませんがお二人共。もう少し、お時間を頂きます」


「もちろんです」


「はい」


 憲兵さんが着いた、という報告を受けて、理事長は先行して部屋を出る。私とレーレアント・ブライデントさんも、それに続く。

 向かう先は、当然事件現場だ。


 ふと隣を歩くレーレアント・ブライデントさんを見ると、さっきまで凛としていたその顔色は……少し、悪くなっているように感じた。


「あの……」


「ん?」


「大丈夫ですか? レーレアント先輩」


 私に話しかけられたのが意外だったのか、レーレアント・ブライデントさんは若干驚いたように目を丸くしていた。

 けれどすぐに、笑みを浮かべる。……まるで、私を安心させるために作ったような、笑顔だった。


「あぁ、すまない、大丈夫だ。

 エラン・フィールドちゃんだったか……私のことは、レーレでいい。気軽に呼んでくれ」


「わかりました、ならレーレさん。

 私も、エランでいいですよ」


 ……ちゃん付けって、凛とした見た目からは想像できないな。なんかちょっと、ギャップ萌え。


 大丈夫……と微笑んでいるのは、私にいらぬ心配をかけないようにしているのだろう。

 ……大丈夫なわけない。弟が、殺されたのだ。そして、これからその現場に向かう。


 どうせなら、憲兵さんのほうから会いに来てくれたらいいのに。気が利かないなぁ。

 なんて思っていると、まるで私の心を読んだかのように理事長が「お二人には申し訳ないですが、現場でしかわからないこともあるので」と話してくれた。


 そんなこんなで、昨日の事件現場へと、たどり着く。そこには、数人の教師と、そして憲兵さんがいた。なんか、あの服どっかで見たことあるな。


「憲兵の皆さん、お疲れ様です。

 魔導学園理事長の、フラジアント・ロメルローランドです」


「! これは、お忙しいところを申し訳ありません。

 私はベネリッタ・タイトンと申します」


 その場の責任者らしき憲兵さんに、理事長は話しかける。お互いの自己紹介が終わったところで、私たちも軽くお辞儀をする。

 ふぅむ、年季の入ったおじさんって感じだ。なんていうか、ダンディ? ……なんか言葉の使い方がおかしな気もする。


 現場は、基本的には昨日と同じだった。もちろん、まったく同じとはいかないけど……

 それでも、できる限り変わらないように保存されていた。……死体を含めて。


 壁に寄りかかるように倒れていた死体には、ブルーシートがかけられていた。その下には、"魔死者"という痛々しい姿になった被害者が眠っている。

 死体は、魔法により冷凍保存されていた。死体が腐らないようにだ。


「そちらが、例の?」


「えぇ。被害者の姉と、被害者の第二発見者です」


 私たちはそれぞれ名を名乗り、各々話を聞かれた。とはいえ、レーレさんの場合は身内として話を聞いただけで、当然事件についての話は……

 私に、集中することになる。


「おそらく、昨日聞かれたのと同じようなことを質問してしまうことになるが……」


「構いません、なんでも聞いてください」


 それからは、質問攻撃だ。死体を発見したきっかけ、当時の状況、死体の状況……そういったことを、できるだけ覚えている範囲で答えてくれと、聞かれたので答えた。

 私は、覚えていることは話した。……ルランのことは、省いて。


 死体を見つけた経緯は、悲鳴を聞いたから。当時の状況に変わったところはなく、死体は全身の穴から血を流した状態であったこと。


「キミは、生徒会活動の一環でダンジョンに行っていたらしいね。

 そこでも、"魔死者"を発見したとか……」


「はい。なので、同じ死因だっていうのは、すぐにわかりました」


 最近話題になっている"魔死事件"。それについては、聞いた話でしかなかった……"魔死者"に関しても、どういうものかこの目で見たことはなかった。

 その日の午前に、まったく同じ死体を見ていたから……私は、"魔死者"だとすぐに判断できたのだ。


 憲兵さんが言うには、最近"魔死事件"は増えている……けれど、一日に二人が犠牲になるのは前例がないらしい。

 今回の件、その日のうちに二人が犠牲になったとは限らない……けど、考えればわかることだ。学園の生徒である被害者は、事件が起こった日はちゃんと居たことを、クラスメイトたちが証言している。

 そしてダンジョンでの被害者は、そもそもダンジョンが出現したのが一昨日だ。その日のうちに……というのは考えにくい。だから、昨日なんらかの方法で殺害されダンジョンに放り込まれた……もしくは逆。


 つまり、一日のうちに二人が、犠牲になったことになる。どうして、そんなことを……


「あれ? キミは……」


 話を終えて、憲兵さんは一旦席を外した。私は、近くのベンチに座って休んでいたところに……声をかけられた。

 誰だろう。声がした方へと、私は顔を向ける。


 ……そこには、一人の男の人がいた。うぅん……なんか、見覚えがあるような……うぅん?

 うーーーん……


「あ、門番のおじさん!」


「はは、久しぶり」


 思い出した! この国に来たとき、国内に入るために門の前で止められたんだ。そのときに私を止めたのが、門番としてそこに立っていたこのおじさんだ!

 うわぁ、懐かしい! そうか、道理で憲兵さんの服に見覚えがあると思ったら、門番のおじさんの服を思い出したからなんだな。


 懐かしい気持ちと、同時に疑問が湧いてくる。


「でもなんで、門番のおじさんがここにいるの? 門番クビになったの?」


「久しぶりの再会でとんでもないこと言うねキミ。

 門番は、業務の一つだよ。本来の仕事は憲兵……その業務の一つに、門番が含まれているんだ」


「なるほど」


 じゃあ、このおじさんはたまたまあの日門番をしてて、たまたま今日ここに来て……そのどちらとも、たまたま私と会ったのか。

 なんか、運命的なものを感じるなぁ。


 それにしても……


「おじさん、私のこと覚えてたんだ?」


 たった一回会っただけ……それも、何時間も話していたわけでもない。その上、門番ってのは日々何人もの人と接する。

 それなのに、私のことを覚えて、声かけてきてくれるなんて。


 もしかして物覚えがすごくいいんだろうか。そう思っていた……


「そりゃ、盗賊を連れた黒髪黒目の子なんて、忘れようにも忘れられないよ」


 ……ただ私が印象的だっただけ、か。

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