第147話 信用に値する四人
ここに呼ばれた私たち四人の生徒は、理事長からの信用をもらっている、と認識していいようだ。
生徒会長であるゴルさんはもちろん、被害者の姉であるお姉さん。彼女が身内を手に掛けるような人物でないのは、この数分で私でもわかる。もしあれが演技なら、そりゃ大したもんだ。
で、私は"魔死者"を今朝も目撃したから……あれこれ、信用されてるのと関係あるのか? まあいっか。
で、だ。この場によくわかんないのが、一人。
「あのー……なんでこいつは、ここにいるんです?」
「ようやくエランの興味が向いてくれたと思ったらこいつ呼ばわり!?」
ヨル……いくら【成績上位者】って言っても、なんでこんなストーカー野郎が理事長のお眼鏡にかかったんだか、まったく理解できない……」
「ちょっ、聞こえてる! 後半から聞こえてるから!」
と、焦ったヨルの声が聞こえた。あらま、口に出しちゃってたか私。
ただ、だからといって訂正することはしない。だって事実だし。
一連の流れを見て、理事長はこほんと咳払いをした。
「エラン・フィールドさん、そしてヨルさん。初めて会ったとき、お二人は信用に値する人物だと、判断したのですよ」
「初めて会ったとき?」
にっこりと笑いながら言う理事長。初めて会ったのは、魔導学園の合否発表の直後だ。
そこで、【成績上位者】である私とヨルが呼ばれた。同じ立場のナタリアちゃんが呼ばれなかったのは、曰く知識に偏りがあったためだ。
うーん、こうやって対面で会ったのはそのときだけだし。それだけで、私たちのことを信用に足ると、判断してくれたのか。
なぜぇ?
「年の功ってやつ?」
「っ、おいエラン、もう少しオブラートに……」
「ふふ、いいのですよ」
手を上げて質問した私に、ゴルさんが苦々しい表情を浮かべる。
けれど、気にしなくていいと言ってくれたのは理事長だ。
彼女は微笑みを浮かべたまま……
「ある意味、年の功と言ってもいいかもしれないわね。
私は、どうやら他の人よりも精霊の姿がはっきりと見えるようなのです」
「精霊の姿?」
「そう。
あなたたち二人には、私がこれまで見てきた中でも特に、精霊に好かれている。精霊が好いているということは、それだけで身の潔白を証明するのに余りあるわ」
自分が、精霊が他の人よりも見える……それを教えてくれた。
精霊っていうのは、普通は目に見えないもの。魔力の流れを感じて、集中すればその姿はぼんやりと見えるけど……
どうやら理事長の場合、それは平常時からのようだ。
精霊に好かれている……そう太鼓判を押してくれるのは嬉しいな。確か師匠も、そんなこと言ってたっけ。
またヨルと同じってのが、気に要らないけど。
実際には、精霊に好かれている人ってのは、私たち以外にもいるとは思う。
けれど、理事長と以前直接会ったことが、私とヨルが精霊に好かれているって確信を持てたってことか。
「このこと、他の生徒には……」
「できるだけ内密に。しかし、あなた方が真に信頼できる相手になら、協力を求めてもいいでしょう。
そこは、各判断に任せます」
理事長はこう言ってるけど、わざわざ四人しか呼ばなかったところを見ると、できるだけ話は大きくしたくはないんだろうな。
それがわかっているから、私たちもあまり口外するようなことはしない。
ここにいるのは、狙ったのかはわからないけど三年生、二年生、そして一年生。見事に全学年が揃っている。
私とヨルは入学したばかりだし、ゴルさんやお姉さんに比べれば、学園にも慣れていないから、観察人数が増えるのはまあわかる。
ただ、いくら学園に慣れていてもゴルさんやお姉さんが、一人で同学年全員を観察しろ、というのは厳しい話だ。
もしかしたら、本当に信用できる人には話してもいいと、思っているのかもしれない。
「それから、レーレアント・ブライデントさん。それにエラン・フィールドさん。
お二人には、このあといらっしゃる憲兵の方から、いろいろ聞かれると思いますが……」
「……捜査の協力のためなら、なんでもします」
「ありがとう」
お姉さんの答えに便乗するように、私は何度も首を縦に振る。
このあと来る憲兵というのは、もちろん"魔死事件"のことを調べるために来るのだ。その人たちに、いろいろ聞かれるのか。
まあ、お姉さんのほうは被害者のお姉さんだし。私も、すぐに死体を発見しているからな。
……となると、第一発見者である、被害者の恋人の人も、事情を聞かれるのだろうか。
かなり弱っていたけど、大丈夫なんだろうか。
「私は、この学園内に犯人がいないと信じています。このようなことになっているのは、大変心苦しい。
憲兵の方々と協力し、一向も早く犯人を見つけなければ。生徒たちも安心して、学園生活を送れないでしょう」
その後は、なにか気になることがあればなんでもいいので報告してほしい、といった話があって、私たちは解散となった。
それぞれが部屋を出ていく中、私は考えていた。
せめて理事長には、本当のことを言ってもいいのではないだろうか。犯人はこの学園の人物ではなく、ダークエルフであること。
だって、このままじゃいもしない犯人を探すために、労力を使うことになる。
そもそも、私がルランの正体……ルリーちゃんの兄だということを黙っていても、どうせ捕まったらバレちゃうかもしれない。だったら……
いやいや、捕まったらバレちゃう。だったら捕まらなければいいのか? それも違うだろう。これだけの被害を出しておいて……
「私は、どうしたいんだ……」
「? エラン・フィールドさん、どうかし……」
「理事長、憲兵の方がお着きに」
自分でもなにがしたいのかわからなくなっていたところに、部屋に入ってきた先生が憲兵さん到着を伝える。
思ったよりも、早かったな……
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