第135話 前代未聞の事態
「これはまた、大変というか面倒なことに、なっちゃったねぇ」
「ふむ……」
……学園内で起こった、"魔死事件"。その事実に、"
そんな彼に、相づちともなんともわからない言葉を返すのは、ゴルドーラ・ラニ・ベルザ生徒会長だ。二人は、凄惨な死体を見下ろしてなにを思うのか。
あのとき、悲鳴を聞いた私はこの現場に駆け付け、"魔死者"となった男子生徒を発見した。
その後、野次馬が集まらないために周囲に小規模ながら人払いの結界を張って、人を呼びに行った。そのさい、第一発見者の女の子も一緒に連れて。
私が頼ったのは、ゴルさんたちだ。というか、彼らもまさに現場に向かおうとしていたところで、そんな彼らと運よく会うことが出来た。
それから私は、軽く事情を説明し、ゴルさんたちとここに戻ってきたのだ。
「しっかし、人払いの結界まで使えるなんて……
今年の一年ちゃんってば、優秀だねぇ」
「軽口を叩くな、タメリア。
……だが、いい判断であることは間違ってない」
「あはは、どうも」
今、ここにいるのは私と、ゴルさん、タメリア先輩、それから何人かの先生たちだ。
他の生徒会メンバーは、この場にいなくてもそれぞれ動いている。たとえば、生徒会副会長のリリアーナ・カロライテッド先輩は、第一発見者の女の子を慰めている。
第一発見者という女の子には、話を聞きたいところだけど……さすがに、そういうわけにもいかないだろう。人の死体を、しかもあんな形で見たのだ。
その上……"魔死者"となった男子生徒は、彼女の恋人だったらしい。
『レオ! お願い、止まって……私の、大切な、彼なの……レオォ!!』
……あの子をこの場から連れていくときの、悲痛な叫びが忘れられない。
私は二人を引き離して、よかったのか? 恋人の、こんな死……すがりつきたくなるくらいに、悲しかったはずだ。
あの子の意思を無視して、私は……
「おい、おいエラン・フィールド」
「ふぁ!?」
耳元で、名前を呼ばれる。な、なんだよいきなりぃ。
耳を押さえつつ顔を向けると、結構間近にゴルさんの顔があった。
「な、ななん、なんですか!?」
「さっきから話しかけていたのに、返事がなかったかと思えばその反応はなんだ」
きわめて冷静なゴルさんは、どこか不服そうだ。
そ、そうか……考え事をしていたから、気づけなかったのかな。
そりゃ、私が悪いことをしてしまった。コホン、と咳ばらいを一つ。
「ご、ごめんなさい」
「……キミは最善のことをした。人が集まらないようにして、第一発見者の女生徒をここから遠ざけた」
「え」
その言葉は、まるで私が考えていたことへの、答えにも思えた。
なんで……と私が目を丸くしていると、くくっ、と笑いをかみ殺した声が聞こえた。
「エランちゃんってば、わかりやすいんだよ。顔に出てる」
タメリア先輩の言葉に、思わず私は自分の顔を触る。
私、そんなにわかりやすい顔してるのかな?
そんな私に、ゴルさんは言葉を続けた。
「今すべきは、原因の究明だ」
「……はい」
そうだ、今やることは、自分を責めることじゃない。
この、不可思議な現象を解かないといけない。
話には聞いていた"魔死者"、それをまさか、一日に二人も見ることになるとは思わなかった。一度目はダンジョンで、二度目は学園で。
しかも、その二か所とも簡単に出入りできない場所だ。ダンジョンは、出現したばかりで私たち以前に入った人はいないという話。学園は、外部からの侵入を安々許すセキュリティはしていない。
……もっとも後者に関しては、学園内の人間なら、簡単に実行することもできるけど……
「魔獣に続いて、"魔死事件"の犯人か……前代未聞だな」
「しかも、短期間に二件ねぇ」
侵入が難しい学園への侵入者……というので思い出すのは、魔獣騒ぎだ。あのとき、いるはずのない魔獣が、突然現れた。
この二つを結び付けるには、ちょっとこじつけだけど……なんとなく、繋がりがあるような気がして、ならない。
ゴルさんとタメリア先輩の会話からして、学園への侵入者なんて、少なくとも彼らの在学中にはなかったことなんだろう。
「先生たちは、とりあえず生徒たちを帰してるところだ。
っても、もう放課後だし、ちょうど生徒が散らばってる時間だから、すぐに全員ってわけにはいかないだろうけど」
「悲鳴などの説明については、教員に任せるしかないな」
この場にいないたくさんの先生も、生徒への対応に追われているらしい。人払いの結界も、今はゴルさんたちが足を踏み入れているから効果は薄れている。
みんな、この凄惨な現場を見る前に、無事に寮へ帰ってほしい。殺人犯が、潜んでいるかもしれないんだ。
……クレアちゃんたち、大丈夫だろうか。
「だいたいわかったぜ、被害者の生徒のこと」
「戻ったか、メメメリ」
声がした。そちらに顔を向けると、そこにいたのは生徒会書紀のメメメリ・フランバール先輩。
彼は、手元の資料をゴルさんに渡しつつ、話を続けていく。
「被害者は、レオ・ブライデント。学年は二年、品行方正な生徒だと、教師や生徒から評判だ」
「む……ブライデント?」
「そ、有名貴族の家柄のな」
資料に目を通しつつ、ゴルさんは眉間にしわを寄せていく。
私はブライデント家というのは知らないけど、どうやら有名な貴族みたいだ。
先生や生徒からも評判が高い……か。それは、誰かの恨みも買ってなさそうだけど。
……今気づいたけど、被害者の顔を見て泣いている先生もいる。そりゃ、生徒が死んだんだから悲しいのはもちろんだろうけど……それだけ、いい人だったってことか。
「友人や、彼を慕う生徒も多かったとか」
「そのようだな、評判は俺も耳にしている。
……そのブライデントが、どうして一人でここへ?」
「そこまでは」
……事件についての調査は、ゴルさんたちや先生たちに任せよう。私にできることは、なにもないんだし。
となると、私がここにいる理由ももう……
「……ん?」
なんとなく、だ。なんとなく、視線を巡らせた。ただそれだけのこと。
離れた校舎の、角……その先に、見えた気がした……銀色の、髪が。
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