第133話 ダンジョン探索のご報告
「ほぉ……そんなことが、あったのか」
魔導学園に戻ってきた私は、その足で早速生徒会室に向かった。
室内にいたのは生徒会長であるゴルドーラ・ラニ・ベルザ。そして、副会長であるリリアーナ・カロライテッドのニ名だった。
そして、部屋に入ってきた私を含めて、計三人。生徒会室に行くという私に、ルリーちゃんとキリアちゃんはついてこようか迷っていたようだけど……
ダンジョンでの出来事を報告するだけだし、私一人で充分だと断った。それに、あの二人がこの二人と対面したら、泡拭いて倒れちゃいそうだ。
なんせ王族と、その婚約者なんだし。
「どうぞ、フィールドさん」
「あ、どうも」
座っていた私の前に、コト、とカップが置かれる。その中に入っているのは、紅茶だ。
机の上に置かれたカップを手に取り、一口紅茶を飲む。うん、美味しい。
私が生徒会に来る前は、リリアーナさんが紅茶をよく淹れていたようだ。最近は私が紅茶を淹れてみんなに出していたから、もしかして私が紅茶淹れるの気に入らないんじゃないか、と思ったこともあったけど。
それは私の思い違いで、むしろ紅茶の話ができる人間ができて嬉しい、とのこと。
私の淹れた紅茶を美味しいと言ってくれるし、いい人だ。私としては、リリアーナさんの淹れたものもかなり美味しいけど、本人は謙遜している。
「ふむ……ダンジョンで起きた数々の異変、か」
同じく紅茶を飲んでいたゴルさんが、カップを置いた。
物事を考える際の、顎を触る仕草は、なんとも様になっている。
「キミたちが、初めて入ったはずのダンジョン……そこにはなぜか、すでに人がいた」
「はい。多分、冒険者」
「その冒険者の方が……亡くなっていた」
私の報告を確認するゴルさん。それを私が応え、さらにリリアーナさんが続きを口にする。
その認識で、間違いはない。
そして、不可思議な現象はそれだけに留まらない。
「その、死亡していた冒険者と思わしき人は……"
「私が見たのは初めてだったけど、ガルデさん……冒険者の皆さんが言うには、"魔死者"で間違いないと」
「その上、モンスターまで現れた。
ダンジョンにモンスターが現れること自体に疑問はないが、問題はそれが一階層だということ」
「さらに、そのモンスターが冒険者の方の亡骸を喰らい、魔物へと変化した」
一連の出来事は、ざっとこんな感じだ。一つ一つだけを見れば、それは大きな問題ではないのかもしれない。
だけど、時と場所が噛み合っていく……いや、外れていくことで、問題は大きくなっていった。
「誰も入っていないはずのダンジョンにすでに足を踏み入れていた者が"魔死者"となった。つまり、"魔死事件"を引き起こしている者も含め最低二人が、ダンジョンに足を踏み入れていた。
現れるはずのない、一階層でのモンスター。
モンスターが人間の死体を喰らい、魔物へと変化した理由……なるほど、わけがわからないことだらけだ」
さすがのゴルさんも、頭を抱える。
問題は、今まさに彼が言ったとおりだ。
いないはずのダンジョンにいた人間。
生まれるはずのない階層に生まれたモンスター。
人間の死体を食べるモンスター。
死体を食べたモンスターが変化した魔物。
ダンジョンにあまり詳しくない私だけど、ガルデさんたちの反応や、今のゴルさんの反応を見れば、これが異常事態だということはわかる。
「そういえば、ゴルさ……
会長も、ダンジョンには入ったことはあるんですか?」
「ん? あぁ、知り合いに冒険者がいてな。
って、わざわざ会長と堅苦しく呼ばなくてもいいんだぞ?」
「いえ……」
私もできれば、フレンドリーに呼びたいんだけど……そうもいかないんだよ。だってさっきから、リリアーナさんの目が怖いんだもん。
ゴルさんなんて親しげに呼んでんじゃねぇぞこら……みたいなこと言われてる気がする。
この人ゴルさんのこと好きすぎでしょお! ひぃん!
「? まあ、報告はわかった。
すまなかったな、危険な思いをさせて」
「お」
ゴルさんが、私に頭を下げてきた。なんとも、珍しい……というか、予想もしていなかった光景。
それに、リリアーナさんもそれを驚きもせずに見ている。
ダンジョンで、思わぬ危険に遭ってしまった……そのことへの謝罪、か。こういうところ、やっぱりしっかりしてるんだなぁ。
「謝らないでくださいよ。
ガルデさんたちにも同じこと言われましたけど、誰が悪いわけでもないんですから」
別にその人が悪いわけでないのに、その人に謝られるってのは……変な気分だなぁ。相手が悪いことしてたなら、素直に謝罪も受け取れるんだけど。
「今回のは事故なんですから。ね」
「……キミがそう言うなら、これ以上は言うまい」
ほっ。とりあえず一安心だ。
もしこの場にルリーちゃんとキリアちゃんがいたとしても、彼は同じように頭を下げただろう。その場合、あの二人は間違いなく気絶してしまう。
やっぱり、二人を来させなくて正解だったな。
「ところで、今回の件に関してだが、他言無用で頼む。もちろん、同行した二人に関してもだ。
冒険者について勉強したこと以上の内容は、外部には漏らさないよう」
「もちろん。二人にもしっかり口止めしてますよ」
他言無用、か。この件に関しても、抜かりはない。
今回、ルリーちゃんとキリアちゃんを私が連れて行ったことの理由を聞かれるだろう。だから、それに関しては真実を話してもいい。
冒険者の人と、ダンジョンに入ったこと。
外部に漏らしちゃいけないのは、ダンジョンの中での出来事だ。特に、さっき報告した異常の件とか、外部に漏らせば周囲にいらない心配をかけることになる。
この件は、冒険者や冒険者ギルドの人たちに任せておく。そういうことだ。
ルリーちゃんもキリアちゃんも、秘密を漏らすような子たちじゃないしね。だから、私は連れて行ったんだ。
「まあ、今回のはイレギュラーとしても、冒険者のお仕事ってのは大方理解できましたよ」
魔石採集は私たちに合わせてくれただけで、本来ならば魔物討伐なんかも冒険者の依頼に含まれているのだろう。
ダンジョンで魔石を集めたり、魔物を倒したり。あとは、ダンジョンのマッピングなんかもあるって言ってたな。
「……今回の件があった以上、やはりすぐに、これを取り入れるわけにはいかんな」
ダンジョンへの異常事態。自分で言うのもなんだけど、私だからなんとかなった……けど。冒険者の仕事に学園の生徒を同行させる、というものを取り入れるかどうかは、一旦保留となった。
不測の事態を放置したまま、おいそれと決断はできないもんね。私はいわば、ゴルさんの提案を運用するかどうか実験に行ったようなものだ。
その結果が保留ってのは、ちょっと味気ない。
ただ……
「キミは今回、冒険者の方と行動を共にして、どう感じた?」
「すごくよかった! 楽しかったよ!」
「……そうか」
今回の件が、嫌な思い出になることはない。間違いなく、良かったと言える。
ゴルさんの問いに、私は即答した。笑顔で。
気のせいかもしれないけど、ゴルさんも、少し笑っていたような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます