第131話 破壊工作員エラン



 ……魔物とは、モンスターが魔石を食べて変化したもの。その魔物が、さらに魔石を体内に取り入れることで、魔獣へと変化……いや進化する。

 私は、あまり深く考えていなかったんだけど……どうして、魔石を食べることで変化するのか。これは、魔石は魔力を溜め込んだものだからではないだろうか。


 なんとなく、魔石を食べると変化するんだ、程度に考えていた。けれど、もしこの考えのとおりなら……魔物が魔力を纏っているのも、うなずける。なんせ、魔力の塊を体内に取り込んでいるのだから。

 魔物とは、魔力により体が変化したモンスター……だから、魔物が魔力を纏っていること自体には、驚きはない。


 驚きがあるとすれば……それは魔物が、身に纏った魔力を足先に集中させ、見えない足場を作り出しているかのように、空中を闊歩していることだ。


「魔物が魔力を、使いこなしてる……っ」


 その驚きに浸る時間も、与えてはくれない。

 魔物は空中から、攻撃を仕掛けてくる。口の中から、魔力の塊をエネルギー波にして、撃ち込んできたのだ。


 それも、何発も連続で。


「野郎……!」


「せい!」


 私はとっさに、魔力防壁で魔物の攻撃を防ぐ。見えない壁に衝突し爆発していくが、攻撃がこちらにまで及ぶことはない。


 その光景に、ガルデさんはひゅう、と口笛を吹いた。


「やるじゃねぇかエランちゃん」


「やっぱ、魔導士がいると違うよなぁ」


 魔導士のいないこのパーティーでは、魔力防壁で攻撃を防ぐ、なんて芸当はできないのだろう。

 どうして魔導士をパーティーに入れていないんだろうとか疑問はあるけど、今はそれどころじゃない。


「あの魔物、攻撃が通じないとわかってから、攻撃を止めた?」


 撃ち続けられていた攻撃は、急に止まった。いくら攻撃しても、意味などない……それがわかっているかのように。

 代わりに……魔物の口の中に、強力な魔力が溜まっていくのを感じる。


 あの魔物……弱い攻撃じゃ効果がないと知って、力を溜めてから放つつもりか!?


「魔物が、そこまで考えているなんて……!?」


 私の知っている魔物は、ただ本能のままに、暴れまわる獣だ。

 少なくとも、空中を飛びまわったり、攻撃が通じないからってもっと強い攻撃を放とうとしたり、そんなことはしない!


 やっぱり、なにかがおかしい。あのとき、"魔死まし者"を食べていたときから……


「え、エランさん……!」


「って、そうだ、考えるのはあと!」


 攻撃を溜めているなら、無防備になっている今がチャンスだ。相手が空中にいる以上、なんとかできるのは私しかいない。

 でも、生半可な攻撃じゃ効かない。だったら……


「みんな、この魔力防壁の外に出ないでね!」


「エランちゃん?」


 私は、一方向に盾形に展開していた魔力防壁をドーム状に変化させ、みんなを覆っていく。

 これで、どんな強力な攻撃が来ても、余波まで守ってくれるはず。


 だけど、私がやるのはただ耐え忍ぶことじゃあない!


「今は眠りし創生の炎よ、万物を無に還す穢れなき炎となりて、全てを焼き尽くし、喰らい尽くせ!」


「魔術の詠唱!?」


 生半可な魔法が通用しないなら、魔術しかない。そりゃあ、時間をかければ魔法だけでも倒せるだろう……でも、それはできない。

 ルリーちゃんやキリアちゃんがいる。それ以上に……この戦いに、時間をかけていてはいけないと、頭の中で警報が鳴っている。


 この一撃で、決める!


「ゴジャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


焔龍豪炎ボルケイノプレデター!!!」


 魔物の口から、すさまじいまでのエネルギー波が放たれる。さすがに、ゴルさんのサラマンドラほどとはいかないけど……あの程度の魔物が出せる力だとは思えない。

 同時に、私は魔力防壁の外へと飛び出し……杖を向け、その先端から魔術を放つ。


 光線のような魔物の攻撃を、私の魔術が喰らい尽くしていく。その攻撃の衝突は、熱気と衝撃が、周囲を揺らす。

 まさか、魔術でも圧倒できないなんて……いや、でも……


「オ、オォ……!」


 徐々に、私の魔術が魔物の攻撃を押していく。魔物も踏ん張るが、魔術の浸食には耐えられない。

 ……というか、なんだろう……なんか、いつもより魔術の威力が、強いような……!?


「! みんな、伏せて!」


 私は、魔力防壁内にいるみんなへと叫ぶ。このままでは、なんだかまずい。

 みんなが、伏せるのを確認して、私も伏せる……その直後、私の魔術が魔物を、呑み込んでいくのが見えた。


 ただ、破壊活動はそれだけに留まらない。


「きゃあ!?」


「おいおい、もういいぞエランちゃん!?」


「なんだか、魔術の威力がおかしくてぇ!?」


 魔物を吞み込んだ魔術は、そのままダンジョンの天井にまで衝突し、ドガガガッと岩の天井を破壊していく。

 落ちてくる岩が、周囲に激突し、私の魔術が二次災害を引き起こしてしまう。


 ……頭を伏せてから、数十秒でそれは収まった。


「み、みんな無事?」


「あぁ……おかげさま、と言っていいのかはわからねえけどな」


 みんなは、魔力防壁の中にいたので、どうやら無事のようだ。

 私のおかげ、と素直に言えないのは、私のせいで二次災害を引き起こしてしまったからだろうな。


 でも、おかしいな……魔物を倒すつもりで撃ったけど、自分でも思った以上の力が出たんだけど。


「……そういえば、ダンジョン内には外よりも魔力が満ちてる、って言ってたっけ?」


「あぁ、言ったが……

 ……あぁ、なるほどな」


 ダンジョンに入ったばかりのときに、言われた言葉を思い出す。ダンジョン内には、外よりも魔力が満ちている、と。

 なるほど、それで合点がいった。それは、ガルデさんたちも同じようだ。


 魔術は、大気中の魔力を利用して放つものだ。つまり、大気中の魔力の密度……みたいなもので、その威力も決まる。

 外よりも魔力が満ちているダンジョン内なら、外で放つよりも威力の高い魔術になるってわけだ。


 ……こりゃあ、今後ダンジョンに入ることがあっても、おいそれと魔術は使えないな。


「大惨事だな、こりゃ」


「ご、ごめんなさい……」


「いや、謝る必要はないが……ダンジョンってのは、どういう理屈か自動修復機能があるんだ。だから被害は気にしなくていい。

 それに、魔物も、倒せたんだしな」


 周囲は、それはもう悲惨だった。誰も手を付けていなかったダンジョンが、いったいどんなバカが暴れまわったんだ、というレベルで破壊されてしまった。

 いつの間にか落ちてきた魔物は、真っ黒こげで、息の根がなくなっていることは明白だった。


 ……普段よりも威力のある魔術でも、すぐには仕留めきれなかった魔物か。

 それとも、魔術のように、魔物の力も上昇されていたのだろうか。

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