第112話 金的は男の人の弱点なんでしょ
「う、ぐ……!」
あの、激しい魔術の衝突に躊躇なく突っ込んでいくなんて……この、変態め……!
首を掴まれ、その上持ち上げられている。これは……思った以上に、苦しい……くそぉ!
ていうか、いくら結界の中だからって……こんなか弱い女の子の首絞め上げておいて、表情一つ変えないって、人としてどうなんだ!
「このまま降参するか、意識を手放すまでもがき続けるか……好きな方を選ばせてやる」
「っ……どっちも、おこと……わり!」
息をするのは苦しい。けれど、まだ体に力は入る。杖も握れる。頭も働く!
師匠が言っていた……戦闘は、勝ちを確信した時が一番油断に繋がるって。今ゴルドーラは、私を締め上げて動きを封じ、もう勝ちまであと少しだと思っている。私に選択肢を迫ってきたのが、その証拠だ。
だから……その油断の隙を……つく!
「ふん!」
「!」
私は、力の限りを込めて、だらんとぶら下がっていた足を蹴り上げる。狙いはそう、ゴルドーラの股間だ。
ただ、ゴルドーラはまるで私の動きを予測していたかのように、私を突き放して……距離を取る。
いや……実際には見てから、反応した。恐ろしい反応速度だ。
おかげで解放されたけど、背中を打ち付けて倒れ込んでしまう。
「ぅっ……ったた、避けたか」
背中を擦りつつ、急ぎ起き上がる。
視線の先のゴルドーラは、わずかに驚いた表情を浮かべている。
「けほっ、けほ……
まるで、私がああすることがわかってた、みたいだね」
「なにかするだろうな、とは思っていた。動きを封じようが、頭が無事な以上、魔法は放てるからな。
まさか、あんな直接的な行動に出るとは思っていなかったが」
「金的は男の人の弱点なんでしょ」
なるほど。私がなにかすると思って、すぐに動けるように注意していたのか。
なんとか解放されたけど……状況は、なにも変わっていない。いや、あの厄介なゴーレムはいなくなったか。
……まあ、ゴーレムがいなくても問題ないくらいに、あのサラマンドラは厄介なんだけどね。
けど、これでわかった。ゴルドーラは、私が思いもしないことをやってくる。それに対するためには、まずは先手を取らないと……
「燃え広がれ」
「!?」
も、もう次の手を打ってきた!?
ゴルドーラの魔法により、私の周囲に火の手が上がり……まるで私の逃げ場を塞ぐかのように、火の壁が私を囲っていた。
あつっ……! 私を熱で倒す……とは、思えないな。ゴルドーラの性格から、そんな地味な決着を望むとは思えない。
なら、やっぱり私の逃げ場を塞ぐための……?
なにから……?
「灼熱に燃えし巨石よ、天から降りし火球となりて……」
「ぇ……」
ゴルドーラは、まるで最初からそうすることを決めていたかのような流れる動作で、詠唱を開始する。ついさっき、魔術を放ったばかりなのに!?
迷いのない詠唱は、一音一音正確に紡がれていく。
とっさに私は、ゴルドーラに向けて魔法を撃つけど……それらは、サラマンドラに妨害されてしまう。口から吐く炎に、すべてかき消されてしまう。
そうしている間にも、詠唱は完了する。
「その圧倒的な力を持ち、標的を押し潰せ!
天高く掲げた杖の、その先には……
上空から降ってくる、炎に包まれた巨石の姿があった。ただの石じゃない……なんか、燃えている……
あれは……隕石!?
「! 火属性と土属性の、複合魔術……!?」
うっそでしょ……あんなでかいの、直撃したらとんでもないことになっちゃう。結界がなければ、私どころかここいら一帯が消し飛んでしまう!
私も魔術で対抗するべきか……魔法じゃどうにもなんないだろうし。でも時間が。
火の壁のせいで、逃げられないし……なら、浮遊魔法で回避する!
空なら、地上よりいくらか自由に動けるはずだし……
「なにを考えているかはだいたい予想がつく。
ドラ!
「ゴォオオオ!」
ゴルドーラは、サラマンドラになんらかの指示を出す。すると、それに応えるように咆哮を上げるサラマンドラの口からは、まるで風の刃のようなものが出てくる。
それが、落下してくる隕石に向かって、放たれて……
……隕石を、切断した。それも、幾つもの個数に分けるように。
「げ……」
巨大な隕石は、幾つにも切断された。巨大な一個の隕石が、小さくなったけどその代わりに無数の隕石となって降り注ぐ。小さいと言っても、さっきのものと比較して、だけど。
まるで、話に聞いたことのある、流星群だ。
あんな隕石、サラマンドラの真似して風の刃で迎え撃とうとしても、普通の魔法じゃ傷一つつけられない。それを切断するなんて……
あのサラマンドラ、やっぱりすごいんだ。
「さあ、これをどうかわす」
「ぬくぐ……!」
周囲には火の壁、空からは無数の隕石……飛んでかわそうにも、難しい。さっきの、巨大だけど一個だけのものならともかく、無数に降り注ぐそれを全部かわすなんて。
魔法で対抗しようにも、効くかわからないし、魔術詠唱の時間もない。こうしてる間にも、火の壁の熱が集中力を奪っていくし……
……火の壁?
「そうだ!」
そうだ、この火の壁……魔法じゃないか!
魔法だというのなら、アレが使える!
私は収納魔法でしまっておいた、アレを取り出す。こいつなら……
「『
空間から取り出す勢いを乗せて、周囲の火の壁に向けて振り回す。すると、火の壁……いや魔法は、だんだん小さくなりやがては消えていく。
こいつなら、魔法を吸収できる。さっきまではゴーレムに阻まれて一旦収めてたけど……
魔法相手なら、『魔力剣』は強い味方だ!
「む……いかんな、その魔導具も警戒すべきだった」
火の壁が消え、ゴルドーラはポツリと声を漏らす。とはいえ、なにもかもに注意を向けるのは無理な話だろう。
それも、こんな極限の戦いの中で。
火の壁を吸収し、さらに私は自分の魔力を『魔力剣』に込める。大気中の魔力以外の魔力を吸収するので、自前の魔力を使って威力を上げることが可能だ。
狙うは、降り注いでくる隕石……! 巨大なままだったら難しかったかもしれない。けど、あの大きさなら!
出力全開……! 『魔力剣』が壊れないだろうギリギリのところまで魔力を込めて……
「いっ、けぇえええええ!!」
『魔力剣』を思い切り振り、刃の形を模していた高密度の魔力はまるで光線のように放たれる。正面広範囲に。
魔力のエネルギー派は隕石を呑み込み、消滅させていく。切断されたことで、一つ一つの防御力も低下していたのか。
……だけど、これですべてを防げるはずもなく。
「くぅ……!」
私に向かって降り注ぐものはなんとか呑み込んだけど、それも消滅しきれなかったものが新たに降り注いだり、エネルギー派から逃れた隕石はなんの障害もなく地面に降り注ぐ。
直撃こそしなかったけど、隕石の破片が所々に掠った。
ちなみに、砕かれた隕石の破片はゴルドーラにも被害が出るかと思いきや、それらはサラマンドラが防いでいた。
まあなんにせよ、なんとか複合魔術も防いで……
パキッ……
「あ」
軽く呼吸を整えて、もう一撃を放とうとしたとき……音を立てて、『魔力剣』が割れていった。
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