第113話 学んだことを活用して



 パキンッ……!



 ひびが入っていったそれは、鋭い音を立てて割れてしまった。魔導具『魔力剣マナブレード』……刀身のない短剣。

 それが、割れて、崩れて、欠片がボロボロと地面に落ちていく。


「なんっ……」


 や、やってしまった……ぴ、ピアさんに怒られる!?

 『魔力剣』は魔力を吸収できるけど、許容できる容量には限界がある……って、言ってたもんな。


 さっき、調子に乗って魔力を込めすぎたから……!?


「ほぉ……よくはわからんが、どうやらそれはもう、使い物にならんようだな」


「!」


 しまった……『魔力剣』に吸収限度があると、ゴルドーラにバレてはいなかった。だから、いくらでも吸収できますよってていを装って翻弄するつもりだったのに……

 これじゃあ、バレるもバレないも関係ないよ。


 くそ、仕方ない……壊しちゃったのは、後でちゃんと本人に謝るとして。切り替えろ!

 今は、目の前のことに集中だ。


「対する相手から、一つ一つ戦闘手段を奪っていく……試合でも、決闘でも、それが戦いの醍醐味だ」


「……わざわざどうも」


 ゴルドーラは、私から一つ一つ、戦闘の手段を奪っている。それをご丁寧に説明してもらわなくても、わかっている。

 サラマンドラがいるせいで、私の魔法はかき消される。魔術を撃っても、さっきのように相殺されるのがオチだ。魔導具は、壊れてしまった……


 参ったな。本当に、一つ一つと手段が潰されていっている。


「それに、体も精神力ももはやボロボロだ……貴様に手立てはないだろう。

 ……最後に聞くぞ、降参するつもりは?」


「ないよ」


「そうか……なら、せめて痛くないよう、すぐに気絶させてやろう。

 貴様に敬意を示し、我が魔術で!」


 あー、やっばいなぁ……結界の中だからある程度以上のダメージは吸収される。でも、ある程度以下のダメージは普通に、蓄積されてしまう。

 それに、ダメージのせいか精神力が擦り減っているのか……目が、チカチカしてきた。


 けど、おっかしいなぁ。魔術撃ったり、攻撃受けたりはしたけど、あれくらいでこんなに疲れるなんて。

 魔獣騒ぎのときの反省点を生かして、体を動かす前にはいっぱい食べることを心がけていたし、空腹ってわけでもないのに、どうして……



『そうそう、自分の魔力を使って強化できるけど、注意点はあるからね。

 自分の魔力を吸収させるってことだから、あんまりやりすぎると精神力にも影響しちゃうから。ま、アンタさんの魔力なら滅多なことはないだろうけど、ほどほどにね』



 ……あぁ、そういえば、『魔力剣』を借りた時に、ピアさんにこんなことも言われたっけ。

 自分の魔力、めちゃくちゃ使ってたなぁ……これが原因か。


 ゴルドーラは、これで決闘を終わらせるつもりだ。なんか、詠唱を唱えている……けど、うまく聞こえない。ていうか、複合魔術まで撃ってまだ余裕が残っているのかよ。

 あぁくそ、いいなぁ使い魔……使い魔がいるだけで、魔術詠唱中に無防備になる弱点が、なくなるもんな。


 ただ、そんな泣き言言っても仕方ない。せめて、私も最後まで抗ってやる。まだ、勝ちを諦めたわけじゃあない……!


「はー、はー……」


 師匠相手でも、ここまでの実戦はしたことがない。ゴルドーラの言うように、私には経験値が足りなかったのだろう。

 だからって、それを、負ける理由にしたくはない……!



『いいかいエラン、戦いというものは、常に予想外の事態が起こるものだ。

 予想通りに事が運ぶことは、ほとんどない。そんな時、必要となるのが経験だ』


『経験?』


『あぁ。エランの場合、魔法や魔術に関しては長年学んできた。けれど、実戦ともなると、私以外とやったことはない。

 つまり、エランには対人戦の実戦がない……これについては、学園で学ぶ機会はあるから、そこでゆっくり学ぶといい。新入生なら、その辺りを重点的に学ぶはずだ』


『わくわく』


『だから、今エランがうまく使えるとしたら、それこそ魔法や魔術について学んだことを活用することだ。

 今まで経験してきたこと……それは、必ず自分の力になっている。いざという時は、自分が学んだことを、どう新たに活用できるか……考えてみるといい』



 ……魔導学園に行くことになって、師匠はこんなことを言っていたっけな。

 私にはまだ、対人戦の経験値はない。だから……これまで自分が学んできたことを、活用する。


 なにか、なにかないか……私が、学んできたこと。ここで、ゴルドーラとサラマンドラ相手に、一矢報いるような、なにかが……


「……あ」


 ふと、思いついたことがあった。これまで、やってきたこと……この決闘に向けて、やってきたこと。

 その中に、もしかしたらうまく、活用できるものがあるかもしれない。今、思いついたんだ……当然、試したことはない。ぶっつけ本番だ。


 だけど……ここでただ突っ立っていたって、負ける。魔術を回避したとしても、決定打がなければ結局は押されて負けるだろう。


「だったら……」


狂焔きょうえん乱舞に……」


 おっと、詠唱が終わっちゃう。考えている間もないか。

 いいさ、やってやる。なにもしなくて負けるくらいなら、思いついたことをやって、悔いない選択をしてやる!


 完全に、一発限りの勝負! 失敗したら負ける、成功したらワンチャン……!


「舞い焦……」


「分身魔法!」


 今にも、詠唱が終わる……そのタイミングで、私は魔法を唱える。

 さっき、たくさんのゴーレム相手に使った魔法。分身魔法だ。これで私の数を増やし、相手の魔術をかく乱する……


 ……わけではない。


「……?」


 あと一言、そして魔術名を唱えるだけ……杖を振ろうとしていたゴルドーラは、その言葉を、動きを止めた。

 その目には、困惑が広がっていることだろう。よく見えないけど、雰囲気でわかる。というか、私がゴルドーラの立場だったら、間違いなく困惑しているだろうから。


 なぜなら……私が分身魔法を使って、増やしたのは一人だけ……つまり。


「……はぁ、ふぅ……」


 分身魔法により、二人となった私が、ゴルドーラを睨みつける。

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