第111話 魔術vs魔術
「はぁ……ふぅ……」
落ち着け……焦るな。呼吸を整えろ。
私は、ゴルドーラに勝ちたい。だからといって、焦ってはダメだ。お腹の中はヒリヒリするし、息も上がっている。身体中ボロボロだ。だけど、こんな時こそ冷静に。
集中力を欠いたら、魔導の扱いにも影響が出る。落ち着いて、状況を見るんだ。
相手はゴルドーラ一人に、残ったゴーレムはまだ十以上。それに背後に控えているのはサラマンドラ……
状況は、すこぶる悪い。
「この状況を、ひっくり返すには……」
やはり、魔術しかないだろう。魔法よりも高威力の魔術なら、サラマンドラにも対抗できるはず。
さっき放った
ただ、魔術を使うためには詠唱する隙を作らないと。コロニアちゃんみたいに、無詠唱できればいいんだけど……
「悪いが、休ませるつもりはない!」
「!」
どうやら、考える時間も与えてはくれないみたいだ。ゴーレムが動き出す。
土人形であるそれは、やはり使い手の力量にもよるのか……足が結構速い。普通の人間と変わらないくらいだ。
迫るゴーレムを牽制しつつ、頭の中では必死に考えを巡らせる。
魔術の詠唱には、強い集中力と時間が必要だ。ルリーちゃんと先生のフォローがあった魔獣相手や、飛んでたからわりと余裕のあった試合のときとじゃ、全然違う。
多少のゴタゴタならともかく、この状況じゃあ……!
ゴーレムを、サラマンドラを、そしてゴルドーラを掻い潜り、魔術を放つには……もはや、安全な方法なんて存在しないだろう。
……ええい! ごちゃごちゃ考えるのはやめだ! こうなったら、力押しでいく!
「! 逃げるのをやめたか」
私は足を止め、迫るゴーレムを睨みつける。そして……自分を中心として、ドーム状にバリアを張る。それも、自分の魔力をこれでもと込めた魔力壁だ。
これで、ゴーレムは魔力壁に阻まれて、私には近づけない。サラマンドラが攻撃してきても、まあ一発くらいなら防げるだろう。
その、間に……
「爆炎で焼き尽くす豪火よ、天地をも
「! ほぉ、考えるのをやめて、力技で来たか。
安全な位置からではなく、多少の危険は受け入れる……いいだろう、ならば……」
私の魔術詠唱を聞き、ゴルドーラは笑う。そして、ゴルドーラは杖を私へと向け、構える。互いの杖が、向き合う。
魔力壁に群がるゴーレム……けれど私は集中力を切らさない。そんな私を見て……
「太陽の如き灼熱を持ちて、天地をも焼き尽くす業火を纏え。
「!」
ゴルドーラも、詠唱を始めた。てっきり、魔法やサラマンドラを使って妨害してくると思ったのに。ゴーレムは群がってくるままだけど、ほぼ自立してるからか。
つまり、私と魔術で勝負しようっていうのか……!
魔術は、大気中の魔力を使う。なので、私の場合は今、魔力壁に自分の魔力をいくら回しても、魔術に対して支障はない。
それは、ゴルドーラも同じこと。使い魔を召喚するのには、自分の魔力を使う。
だから、使い魔召喚してても魔術を撃つことに支障はない。
問題は、ゴルドーラはすでにゴーレムを生み出している。土属性の魔術。そう、すでに一度魔術を使っている。
魔術を放つには精神力を使う。精神力が強ければ、何度だって放てるけど……普通は、連続でいけても二回か三回が限度だ。
……ま、ゴルドーラに"普通"を期待しておくのは、やめておこう。
魔術対決をしようってなら、受けて立とうじゃないか!
「すべてを
「舞い焦がせ!
私の唱えた魔術が、ゴルドーラの唱えた魔術が。同時に、放たれる。
互いの杖の先端から、放たれた魔術。私のものは、光の玉にも見えるそれ。実際は、高密度の爆弾と言ってもいい。ゴルドーラのものは、まるで炎の鞭のようなものが。
……それが、衝突する。
瞬間、爆発が起きた。圧倒的な力と力、それがぶつかり、弾けたのだ。その余波に、私もゴルドーラも飲み込まれる。
互いに火属性の魔術、それも爆発系統のもの。二つの爆発が混ざりあったんだ、熱風だけでも焼けそうなくらいに熱い!
余波に巻き込まれたゴーレムは、溶けるように消し飛んでいった。あれじゃあ、核も一緒に消え去ってしまったのだろうな。
魔力壁でも、熱は防げないけど……これがなかったら、もっと深刻なダメージを負っていたかもしれない。というか、魔力壁が溶けてる……!?
これをまともに受けたゴルドーラは、無事では済まないだろう。いや、あいつのことだし、寸前に自分を守ってても不思議じゃない。
爆炎が、そして爆煙が巻き上がり、視界の先がなにも見えない。風で吹き飛ばしてしまおうか……それともこのまま、様子見を……?
そう、考える隙が生まれてしまった。
「捉えた」
「!」
爆煙が無知やり、ぶち破られる。目の前に現れたのは、ゴルドーラ。……まさか、あの激しい攻撃の衝突に、迷わず突っ込んできた!? 自分の身には、最低限魔力で防御をしている。
所々、火傷をしている。痛いはずだ。
けれど、そんな様子も見せずに……ゴルドーラは、私の首へと手を伸ばし、そのまま掴み上げる。
「ぐっ……!?」
「まさか、俺の魔術が相殺させられるとはな……見事だ。
その後の隙さえなければ、完璧だったがな」
私の首を持ち上げ、その手に力が入る。
魔力壁が溶け、私の身を守るものがなくなってしまった。身長の低い私の体は、簡単に持ち上げられて……
や、やばい……息が……苦しい……!
「素晴らしい魔術だった。……だが、ここまでだ」
その手に、さらに力が込められる。こいつ……このまま私を、気絶させるつもりか……!
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