第110話 王族としての責任、そして一人の魔導士として
……ベルザ王国。魔導技術の発展したこの国には、他国から魔導を学ぶために、日々多くの人が集まる。他国からは、別名魔導大国と呼ばれているほどだ。
魔導大国であるこの国を納めるのが、王城のある王都パルデアに住まう国王。名を、ザラハドーラ・ラニ・ベルザ。
国王である彼には、三人の子供がいる。それぞれを
第一王子ゴルドーラ・ラニ・ベルザ
第二王子コーロラン・ラニ・ベルザ
第一王女コロニア・ラニ・ベルザ
彼ら王族には『ラニ』のミドルネームが受け継がれる。ラニ・ベルザは、ベルザ王国が名もなき国であった頃の始まりの王と言われており、一代にしてベルザ王国の名を他国へと知らしめた伝説の王。
その名を受け継ぐのが王族の、この国の決まりとなっている。
さて、三人の王子、王女である子供たちは、みなが魔導学園へと入学している。王族が、それも三人の子供すべてが、同時期に学園に在籍する奇跡に国民は震えたものだ。
だが、なにも初めから王族がなにもかもを期待されていたわけではない。その背景には、ゴルドーラ・ラニ・ベルザの並々ならぬ努力があった。
貴族社会において、自分たちより位の高い王族への忠は、貴族にとって絶対だ。だが、魔導学園において重視されるのは、位と同じくらいに魔力適正がある。
いかに王族とはいえ、魔力適正が低ければ舐められてしまう。たとえ表に出さなくても、裏では良からぬ陰口を叩かれる。
伝統ある王族が、そのような事態を受け入れるわけにはいかない。だからゴルドーラは、己が王族の誇りを知らしめるため、その力を示してきた。
魔導学園では、歴史上初の二年生で生徒会長。さらに三年生と、二年生から続いての継続となった。魔導学園の生徒会長とは、人柄はもちろんのこと当然魔導の実力、知識等で選ばれる。
彼は、自分が王族であることを誇りに思っている。そしてそれは、同時に周囲からの期待も感じることになる。自分が王族であることを誇りに思っても、周囲がそれを認めてくれるとは限らない。
誰もが、自分が王族であることを認めるように……力を鍛えて、頂点の座を手に入れた。
……だが、それは虚しさを感じることにも、繋がっていた。
誰もが普通にしていることが、王族ではそうはいかない。自ら望んだ環境が実現されたはずが、どうしてこうも虚しさを感じてしまうのだろうか。
彼の周りには、常に人が集まる。それこそが、彼のカリスマ性だからだ。だが、それは王族という肩書きに惹かれて近づいてきた者ばかり……
彼が心を許せるのは、ほんの数人だ。
『王族に、敗者は必要ない』
いつしか、こんな気持ちがゴルドーラの中に湧き始めた。今の地位を築き上げるため、彼は周囲の模範として努め、並々ならぬ成績を残していった。
まだ彼が一年生の頃、出くわした魔獣を単身で撃退したのは、有名な話だ。
敗北とは、己の地位を貶める……ゆえに、試合でも決闘でも、彼は勝ち続けてきた。もっとも、王族に決闘を挑む者など少ないが。
だからだろう……弟コーロランが敗北したとき、彼の心には失望の念が生まれた。
クラス対抗の試合だ、コーロラン個人の勝敗とは関係ない……とはいえ、聞いた話では彼から試合を挑んだ。さらに試合ではゴーレムを正面から砕かれた。その上で、戦意喪失。
こんなものは、王族の在り方ではない。恥だ。このような者が、弟であるなどと。
……王族として、第一王子としての重責は、彼にとって……
『私、エラン・フィールドは。
ゴルドーラ・ラニ・ベルザ。あなたに、決闘を申し込む』
そんな彼に、突きつけられた決闘の申し出……一年生、二年生前半はともかく、二年生後半から
王族に決闘を挑むなど、それはよほどの…………
……しかし、彼の心は、沸き立っていた。
エラン・フィールド。今しがた、コーロランのゴーレムを破った女。新入生でありながら、すでにトラブルメーカーとして話を耳にする。
曰く、クラス選抜で魔導具を破壊。曰く、クラスメイトとの決闘騒ぎ。曰く、魔獣を単身で討伐。そして、先ほどの試合。
なによりも、驚くはあのグレイシア・フィールドの弟子だということだ。
グレイシア・フィールドという名は、もはや生ける伝説。その姿を見たことはないが、今や人々から敬遠されるエルフ族の一人だという。
それに、彼が弟子を取ったという話は聞いたことがない。半ば、エラン・フィールドの妄言だと思っていたが……
直接その姿を目にして、疑念は確信に変わった。
そんな人物が、王族である自分に、決闘を申し込んできたのだ。
『……我、ゴルドーラ・ラニ・ベルザは、貴殿エラン・フィールドによる決闘の申し出を、受けよう』
だから、彼が決闘の申し出を受け入れるのも、また必然だ。
どうやら、彼女は自分とコーロランの関係に思うところがあったようだが……そんなものは、関係ない。
いつからか、決闘など挑んでくる者はいなかった。自分の周囲にいるのは、肩書きに惹かれた者ばかり。王族たらんと努め、望んだはずの環境は……しかし彼にとってどこか孤独で、窮屈で。
そこへ、一筋の光が差してきた。グレイシア・フィールドの弟子からの、決闘の申し出。
……やはり、彼の心は、沸き立っていた。
実際に対峙し、その圧倒的な力を目の前に、彼は久方ぶりに全身の鳥肌が立つのを感じた。心臓が逸るのを、感じた。
力だけではない。魔力の全身強化、複合魔術、浮遊魔法と魔術の同時発動、魔導具、分身魔法……なんとも多芸だ。それに、戦闘センスは今でもそれなりだが、磨けばさらに光るだろう。
当初、エラン・フィールド自身を決闘の賭けに選んだのは、彼女の肝の大きさに感心したからだ。新入生にしてあれほどの啖呵を切れる者など、そうはいまい。
だが、こうして対峙することで……本格的に、彼女が欲しくなった。手元に置き、自分の知っているすべてを叩き込み、どこまで成長するのか見てみたい。
そして、成長した彼女と正面から戦ってみたい。
……ゆえに、エラン・フィールドを手に入れる。そのため、多少は過激にもなってしまったかもしれない。
本来ならば、とっくに対戦相手の心が折れてもいいほどの状況。複数のゴーレムに、使い魔サラマンドラ。体内の機能を鈍らせ、心身はボロボロになっているはず。
それでも……
「はぁ、はぁ……!」
未だ立ち上がる彼女の目は、死んでいない。闘志は、燃えている。
その、不屈にも思える精神力……ますます、エラン・フィールドに興味が出てきた。
心臓が、昂ぶっていく。次代の王国を背負う王子としてではなく、今はただ、一人の魔導士として……
エラン・フィールドと、戦いたい! そして、勝ちたい!
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