第107話 サラマンドラ



『わぁー、ししょう、お鳥さんとお友達なの?』


『うん? 友達かぁ……厳密には、ちょっと違うかな。

 彼は、私の使い魔だよ』


『つかいま?』


『自身が召喚し、使役するもののことさ。

 基本的にはモンスターを使役する。こういう風にな。あ、人間を使い魔とした例も聞いたことがあるな』


『? モンスターと仲良くなれるってこと?』


『あはは、そうだな。そういう意味では、友達と言ってもいいかもしれない』


『ふぅん』


『基本的に、使役できる使い魔は一体だけ。一度主従関係を結んだら、どちらかが死ぬまで関係は切れないという、強固な絆が両者の間に結ばれる』


『でもししょう、いっぱいお鳥さんに囲まれてる』


『使い魔と言っても、やりようによっては複数のモンスターを使役しているように見せることも、できる。

 これは、親となる鳥と関係を結んで、その親と通じて子たちにも協力してもらってるんだ』


『なんかよくわかんない。

 でも、つかいま召喚っていうの、わたしにも教えて!』


『うーん、エランにはまだ早いかな。

 いつか、その時が来たら学ぶことになるよ』


『ぶー』



 ……私が小さい頃、師匠は使い魔を使役していろんなことをしていた。私は、師匠に使い魔召喚のやり方をせがんだものだが……

 結局、教えてもらえなかったな。


 だけど、今ならわかる。師匠は教えるではなく、学ぶことになる、と言っていた。それは、きっと内容

魔導学園ここで……

 ゴルドーラは、私たちはまだ習っていないと言った。いずれ、授業で使い魔召喚を習うのだろう。


 まったく、師匠め……それならそうと、言ってくれればいいものを。


「……? なにを笑っている。今の状況がわかっていないのか……それとも、ようやく事の重大さを理解して笑うしかなくなったか?」


 おっと、自分でも気づかないうちに笑っちゃってたのか。

 つい、懐かしくて。


 今私の目の前には……圧巻とも言える光景が、広がっている。

 十五体のゴーレムと、巨大なサラマンドラ。それも、サラマンドラは炎を吐く。かなり高火力の。

 気が触れて、笑うしかないと思われたのか。


「いや、ちょっと懐かしいこと思い出してまして」


「……よほど余裕なようだな。

 一つ訂正しておくぞ。貴様は先ほどこいつをとかげと言ったが、個体によってはそのような大きさのものもいる」


「へぇ、使い魔の個体で大きさも変わるんですか」


「小さき個体は、その名をサラマンダー……そして、俺の召喚した個体はその上位、サラマンドラだ」


 上位種……! 魔物、いや魔獣と似たようなものかな。

 だけど、魔獣なんかと比べ物にならない力を感じる。魔獣騒ぎの時に、あのサラマンドラが居れば、魔獣は瞬殺だったろう。


 私が凍らせて封じたのとは対照的に、きっと塵も残さず消し去ってしまっただろう。

 まあ森だからそんなことしたら二次被害ヤバいけど。


「余裕を見せているようだが、それも時期剥がれる。

 いけ、ドラ!」


「ゴギャァアアアアアアアア!!」


 大きな口が開き、咆哮が響く……胸の奥にまで響くような、感覚。この圧倒的な存在感……!

 魔獣を前にした時とは、また違った感情! これは……


「私、わくわくしてる……?」


 魔獣を前にしたあの時は、後ろに内容守るべき人ルリ―ちゃんがいた。だから、そんなもの感じる余裕もなかった。それどころじゃ、なかった。

 でも今は……一対一の決闘で。他に邪魔が入る心配もなくて。魔法や魔導具を駆使しても追い詰められなくて。むしろ私が追い詰められていて。私がまだ会得していない使い魔召喚なんてのを見せられて。


 ……あぁ、私今……


「楽しんでる……!」


「ゴォオオオオ!」


「!」


 地面に、影が差す。顔を上げると、私を踏み潰そうと、サラマンドラが巨大な足を振り上げていた。

 いつの間に……!? あの巨体だ、それなりにスピードは遅いんじゃないかと思っていたけど。


「思ったより速い……!」


 私は、足のみ魔力で身体強化して、その場から飛び退く。直後、私が立っていた地面が踏み潰される。

 結界の中だから、踏み潰されてもぺちゃんこにはならないだろうけど……


 容赦ないねぇ!


「てや!」


 飛び退くと同時、サラマンドラに向けて複数の氷の弾を放つ。それは、狙いが狂うことなくサラマンドラの皮膚へとぶつかるが……

 ……まったく、効いていない。皮膚に触れた瞬間、氷が蒸発した。


 さっき、サラマンドラの皮膚を炎の鎧って表現したけど……本当に、炎を纏っているかのよう。


「ドラにばかり気を取られていていいのか?」


 ドラ、というのはサラマンドラの名前だろう……とどうでもいいことを考えつつ、周囲を見る。

 ゴーレムが、私を囲むように立っている。魔力強化で飛び退いたってのに、それに追いついてきたのか。


 ゴーレムをも魔力強化しているのか、それとも素でゴーレムの身体機能が高いのか……

 いやそもそもゴーレムを強化できるのか?


「もちろん、ちゃんと注意してますよ!」


 だけど、ゴルドーラに言われるまでもない。周囲のゴーレムにはちゃんと気づいていた。

 私は、私を中心に魔法で突風を巻き上げる。それに巻き込まれ、周囲のゴーレムは風にさらわれていく。


 囲まれた場合、こうやって自分中心に風を発生させれば、囲んでいたやつらをいっぺんに剝がすことができる。

 ただ、私の狙いはそれだけじゃなくて……


「そ、ぉ、れぇ!」


 複数のゴーレムを風に巻き込み、一塊にする。いわば、ゴーレムで固めた巨大なボールだ。

 それを、サラマンドラへと思い切りぶん投げる。ゴーレムを処理しつつ、それを同時に攻撃にも利用する方法だ。


 いくらゴーレムでも、風で浮かせれば重みも感じないし、ぶん投げることも難しくない。

 このまま、サラマンドラにぶつかって倒すことができれば、楽なんだけど……


「ゴォオオオオ!」


 サラマンドラの口から、灼熱の炎が吐き出される。それは、自分にぶん投げられたゴーレムの塊を、無情にも焼き尽くしていく。

 いくらゴーレムが不死とはいえ、あれじゃあ……核ごと焼き尽くされて、終わりだろう。


 結果として、うっとうしかったゴーレムは処理できたけど……


「まさか、ゴーレムをあんな形で利用するとは……

 予想外のことばかりする、面白い女だな」


 ゴルドーラ自身とサラマンドラに関しては、ノーダメージか。

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