第106話 分身とゴーレム
『おりゃ! どうだ、分身魔法!』
『わ、すごい! エフィーちゃんがいっぱい……』
『これなら、ゴーレムにもきっちりと対応できると思うんだよね。
どうかな?』
『確かに、これならゴーレムの利点を潰せるもんね……いやでも、ホントにすごいねこれ。
何人くらいまで、分身できるの?』
『うーん……わかんないや。まあ、できる限りやってみるってことで!』
『そっか〜。
……ねぇ、一人くらい貰っちゃだめ?』
『ダメです』
……コロニアちゃんとの訓練中。ゴーレムに対する手段として編み出したのが、この分身魔法。
これならば、ゴーレムの利点を潰しつつ、対応することができる。
ゴーレムの利点は、ズバリ不死の身体と数にある。不死に関しては、核を潰すことができれば倒せるので、絶対そうとは言えないけど。
相手の人数によって、ゴーレムの優位性は大きく変わる。相手が多なら巨大なゴーレムをぶつける。相手が一なら複数のゴーレムで囲む。
前者はコーロラン、後者はゴルドーラがやっている戦法だ。
ただ、こうして分けるのではなく、巨大なゴーレムを複数生み出す……これができれば一番だろうけど、これはとても難しい。巨大な一を作るか、小さい多を作るか……この二択に絞られる。
現に、ゴルドーラは後者を選んでいる。つまり、下級魔導士相当でも、巨大ゴーレムを複数生み出すのは難しいってことだ。
「さて、と……」
単に対して多で囲む……ゴーレムでなくても、戦いの定石だ。それを、分身魔法でひっくり返す。
ゴーレムは強力な魔術だけど、この大きさなら魔術でなく魔法だけで対応できる。
ゴーレムの数と同じ、十人で挑む。ちなみに、向こうはゴルドーラを含めたら十一人になる……なんで私も十一人にならなかったかというと……
単純に、十一分の一の力で、ゴルドーラとタイマンを張れるとうぬぼれてはいないからだ。
「せいや!」
ということで、ゴーレム倒し開始! 火で、風で、水で。あらゆる魔法を使って、ゴーレムへ魔法を叩きつけていく。
ただ攻撃を当てただけでは、すぐに身体は再生してしまう。まずは表面を剥がし、核がどこにあるか確認。それを、叩く!
数の差をひっくり返し、ゴーレムを倒していく……ただ、それをゴルドーラが黙って見ているわけもなくて。
「魔力の全身強化、複合魔術、浮遊魔法と魔術の同時発動、魔導具、そして分身魔法……実に多芸だ。それも、この数の分身、さすがに驚いた。予想以上に楽しませてくれる。
だが、見込みも甘い。ゴーレムの上限が十だと、俺が言ったか?」
「!」
ゴルドーラが再び詠唱を開始し、杖を振るう。すると、新たに十ものゴーレムが、瞬時に生み出される。
まだゴーレム作れたのか……そりゃ、十で打ち止めだ、とは言ってないし思ってもなかったけど、こんなあっさりと増えるなんて。
まずいな……さすがにこれ以上分身を増やして、個々の力が現象するのは避けたいし。
それに、だ。
「うぉあっと!?」
視界、感情など、分身体が見たり感じたものは他の全ての私に共有される。つまり、今私は十の景色を同時に見て、十の感情を感じている。
今の私には、分身魔法で出せる数は十が限界だ……!
ゴーレムが倍になったことで、単純に二体一となれば、それだけでも戦況は変わる。おまけに、ゴルドーラも控えているわけで……
「うぅ、ごちゃごちゃしてきた……」
最初の計画としては、分身した状態でゴーレムをダーッと倒して、分身魔法を解除するつもりだった。それなら、共有の影響もあんまりないしね。
だけど、ゴーレムが増え苦戦……時間が経てば経つほど、共有する視界や感情がいっぺんに流れ込んでくる。
これ、酔う……!
「どうした、動きが鈍くなってきたぞ!」
くっそぉ、調子に乗って十も分身するんじゃなかった……このままじゃ、倒れちゃう。
なんとかゴーレムは倒せているけど、増えた分も含めると今残っているのは十五体か……!
仕方ない!
「分身解除!」
私はその場から飛び上がり、同時に分身を解除する。
魔力強化で脚を強化していたので、おかげで高く高く飛び上がれる。また増やされる前に、一気に叩いてやる。
イメージするのは、火……それも、ただの火じゃない。激しく燃え盛る火、まるで……そう、稲妻のように激しく、周囲を焼き尽くす火。
「ファイヤボルト!」
バチバチと弾ける火をイメージ……上空から地面へと杖を向け、先端から魔法が放たれる。火属性の魔術ほどではないけど、業火となったそれが地面へと降り注ぐ。
ただの火ならばここまで燃え広がらない。まるで、火の波だ。ダルマスがやったやつに似ている。
そのまま、業火はゴーレムを呑み込んで……
「火か……俺に、火で勝負を挑むとはな!」
不敵に笑うゴルドーラが、杖を振るう。すると、彼の背後に巨大な影が出現……なんだ今の。地面から、出てきた?
そして、地面から出てきた影は、なにかを吐き出す。なにかとは……火だ。火というよりは、炎か。
炎を、吐き出したのだ。
「!?」
吐き出した炎は、私の業火と衝突し……爆音を立てて、爆炎を散らしつつ相殺した。
……いや。
「破られた……っ、くぅ!」
爆炎の中から、私の業火を突き破ってきた炎が私を包み込もうとする。私はとっさに、魔力壁で身を守り、もろに炎に呑まれることは避けるけど……
「あつっ……!」
炎によるダメージは防げても、炎による熱までは無力化できないらしい。
火で熱せられた、お鍋の中の具材はこんな気持ちなんだろうか。ちょっと申し訳ない気持ちになってしまう。
このまま丸焼きになるのはごめんだ。魔法で風を起こし、炎の中から脱出する。
なんとか地面に着地。すぐに、ゴルドーラに視線を向けると……
……それと、目があった。
「……とか、げ……?」
それを見た瞬間、なんの動物かと問われれば間違いなく、とかげと答えるだろう。おそらく。
おそらくと言うのも……それは、とかげと言うにはあまりに巨大だからだ。
真っ赤な皮膚……それはまるで、炎の鱗と言ってもいい。四足歩行の巨体は、とかげなんて大きさではない。とかげなら、手のひらに乗せられる程度だろう。
だが、こいつは……大きい。手のひらに乗せられるなんてかわいいもんじゃない。人一人丸呑みできるだろう。
グルルル……と喉の奥から唸り声がして、皮膚と同じ真っ赤な瞳が、私を睨みつけている。
「とかげとは、我が使い魔、サラマンドラに対して無礼な言いようだな」
「使い魔……」
ゴルドーラの話すその単語には、聞き覚えがある。確か、コロニアちゃんとの訓練中に、ゴルドーラは使い魔も使ってくるだろうって話になった。
結局、その使い魔がなんなのか、聞くタイミングを逃したけど……
まさか、こんなのなんて。私の知ってる使い魔とほ違う。大きくて怖い。
「決闘には、互いの力の全てを持って当たるべし……貴様も理解しているはずだな。
使い魔召喚、貴様らはまだ習ってはいない項目だ……だが、これも俺の力の一端。よもや卑怯とは言うまいな」
……使い魔召喚か。私はまだできない。だけど、これも個人の実力のうち。個人の全力に使い魔召喚も含まれているのなら、これを卑怯なんて呼べないだろう。そこを指摘してくるなんて、律儀というかなんというか。
ゴルドーラの口振り的に、使い魔召喚ってのは授業で習うみたいだ。それを、習っていない生徒相手に出したのだ。
私がこの程度で、卑怯だなんだと言うとでも思っているのだろうか。
それに、これは私から挑んだ決闘。その点でも、私が卑怯なんて言う資格もないのだ。
「えぇ、もちろん。
むしろ、決闘に負けた先輩に「あのとき本気出してなかったから負けた」なんて言い訳されなくて済みますからね。どんどん全力出しちゃってください」
「……言ってくれる」
あらら、そのつもりなかったけど煽る形になっちゃった。
ま、本心ではあるんだけど。
それにしても……複数残ったままのゴーレムと、使い魔サラマンドラか……
手強いな。
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