第70話 エルフとダークエルフ



「カーマンくん」


「おっと、そろそろ行かないと。

 わからないことがあったら、カウンターに居るから遠慮なく聞いて。

 あ、でも図書室では、お静かにね」


 ふと、女の子に呼ばれたレニア先輩は、私に注意事項とばかりに、口元に指を立てた。静かにってことか。

 それから、呼ばれた先、受付カウンターへと向かっていく。


 カウンターには、レニア先輩ともう一人。

 レニア先輩を呼んだ女の子だ。仲良さげに話している。

 レニア先輩は委員、とか言ってたから、あの人もそうなんだろう。


「っと、いけないいけない」


 私には、やるべきことがある。

 教えてもらった、エルフに関する書物がある場所。早速、そこに向かう。


 図書室では静かに、と言ってるだけあって、なんとも静かな空間だ。

 それほど生徒が多いわけではないけれど、靴音さえ響いてしまうくらいに静かな空間だ。

 気をつけないと。


「……ここ、かな」


 確か、レニア先輩が指したのはこの辺だ。

 教室の隅に位置する、一角。そこに並ぶ本に、私は注目する。


 うーん、エルフ、エルフ……

 ……あった! これかな。


 エルフ族と名のつく本を、私は片っ端から手に取っていく。

 全部読めるかはともかくとして、ひとまず手元に置いておいて、気になったものから読んでいこう。


 とりあえず五冊を手に取り、胸に抱える。

 えっとー、読める場所読める場所……


「ここにしよ」


 どこか、空いている席はないかと視線を巡らせる。

 ここで読書している生徒はあまり多くないので、空いている席はたくさんだ。


 その中で、今本を取った場所と一番近い席を選び、座る。

 さあて、読むぞ。


「えっと……エルフという種族について、か」


 一冊を手に取り、本を開く。

 ページを捲ると目次があり、次のページには今言った、エルフという種族についてが書かれている。

 エルフ自体は、師匠と接していたのでよぉく知っているけど。


 改めて、エルフという種族について知るのも、悪くない。


「……」


 エルフ……別名森の妖精。それは、自然や精霊に愛され、自然の中に暮らすとされる種族。自然の中に生きるがゆえに魔力は純粋かつ膨大で、精霊に愛されるがゆえに魔術を得意とする。

 金色の輝く髪、翠玉すいぎょくに輝く宝石のような瞳、透き通るような白い肌は、確かに妖精を思わせる美しさだという。


 うんうん、師匠もかなりの男前だったもんな。

 ていうか、言われなきゃ美人の女の人でも通るんじゃないかな。


 また、エルフには魔力を感じ取りやすい特殊体質がある。

 肌で感じることができたり、魔力の流れをその目で見ることができる。魔力の流れを見ることが可能な、エルフのその瞳を、総じて"魔眼"と呼ぶ。


「……まがん……?」


 なんだろう、まがん……どっかで聞いたな……

 どこだっけ。エルフ関連だから、師匠か?

 ……いや、違うな。


 えっとぉ……確かぁ……


「ナタリアちゃんだ!」


 はっと思い出し、思わず私は大声を上げて、立ち上がっていた。

 そうだそうだよ、思い出し……た……


「……」


「ご、ごめんなさーい……」


 ここは図書室で、先ほど静かにするようにと注意されていた。

 にも関わらず、大声を上げて立ち上がってしまったわけだ。


 反省。


 ……ともかく、まがん……魔眼という単語で、思い出したのはナタリアちゃんのことだ。

 彼女の目が、確か魔眼だったはず。



『この"魔眼"ってのは、いろんなものを見ることができるんだよ。例えば、その人に流れる魔力の気配とか』



 ナタリアちゃんのきれいな青色の瞳は、そのときだけ緑色に変色していた。言われてみれば、エルフと同じ色の瞳だ。

 そして、魔眼について、説明してくれた。


 人やエルフなど、種族によって流れる魔力は違う。

 だから、エルフにはエルフにしか流れていない魔力があり、ルリーちゃんの正体がエルフ族だとわかったのだと。


「ってことは、ナタリアちゃん、エルフと関係があったのかなぁ」


 エルフの瞳、魔眼。それが、どうしてナタリアちゃんの目にあるのか。ナタリアちゃんは人間なのに。

 昔にエルフと会って、なにかしらあったのだろうか。


 考えてみれば、どうして"エルフの魔力"がわかったのだろう。

 それは、ルリーちゃんと会う前にも、エルフと会ったことがあるから。少し考えればわかることなのに。


 ううむ、エルフに知り合いがいるのかなぁ、ナタリアちゃん。


「ま、それは後々本人に聞くとして」


 エルフの瞳が魔眼と呼ばれているのは初耳だけど、私が知りたいのはそこじゃない。まあ、改めてエルフについて知ろうとしたのは私なんだけどさ。

 他にも、エルフの特徴は書いてあったが、私が知っているものがほとんどだ。


 えっと、他には……

 エルフ族と言われる彼らの中には、ダークエルフという種族が存在する。


「ダークエルフ……!」


 その単語に、私の目は止まる。

 ルリーちゃんの、種族だ。大きな枠組みではエルフだけど、普通のエルフとは対極的に違うようだ。


 なになに……

 精霊に好かれるエルフとは対象に、ダークエルフは精霊に嫌われ、邪精霊に好かれる。

 そのため、精霊の加護を受けられず一般的な魔術は使えない。が、邪精霊の加護を受けている彼らはただ一つ、ある魔術を使うことができる。


 その魔術こそ……


「闇の、魔術……」


 火でも、水でも、風でも土でもない……闇の、魔術。

 その存在を、私はルリーちゃんの魔術を見るまで、知らなかった。


 精霊には好かれないから普通の魔術は使えない。

 邪精霊に好かれるから闇の魔術は使える……か。


 そもそも邪精霊とは。

 闇や暗がりを好み、精霊とは相反する存在。精霊が好む場所を嫌い、精霊が嫌う場所を好む。

 精霊とは天敵のようなものなので、精霊の加護を受けている者は邪精霊の加護を、邪精霊の加護を受けている者は精霊の加護を、それぞれ受けられない。


 また、邪精霊は災いを呼ぶ精として……


「忌み嫌われている、か」


 ダークエルフの体質は、精霊に嫌われ邪精霊に好かれるというもの。

 もしかして、ダークエルフが嫌われてるのって、邪精霊に好かれているから……?


 ……いや、それだとエルフまで嫌われているのが説明つかないか。


「えっと、ダークエルフはエルフ以上にひっそりと暮らしていた。

 しかし、ある事件を堺に存在が明るみになって……」


 ……世界中から、嫌われることとなる。


「これだ」


 私が、知りたかったこと。これだ。

 この先のページに、知りたかったことが書いてある。


 ダークエルフが、エルフが、みんなから嫌われている、その理由が……!

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