第60話 魔力の流れを感じ取り



 さてさて、と。

 魔石採集の実習の時間。クラスの中でいくつかの人数に分かれ、それぞれが行っている。


 私と同じチームにいるのは、キリアちゃん、ダルマ男、そして筋肉男。

 いい子であるキリアちゃんは率先的に、渋々といった感じでダルマ男は採集に参加しているが……


 筋肉男は、我関せずを貫いている。

 それどころか……


「……あの野郎」


 ダルマ男が睨みつけるのも、まあ無理はないと言える。

 なんせ、一人で木の上にのぼり、器用に太い枝の上に寝転がっているのだから。


「ンン、実に優雅……」


「この木ごと焼き払ってやろうか……!」


「反応するだけ無駄だって」


 まだ二日目だが、私はわかったことがある。

 あの男は、まともに相手をしても、まったく効果がないのだと。

 むしろ、こっちが疲れるだけだ。


 大丈夫、最初から三人チームだったんだと思えば、どうということはない。


「あ、ありました! エラン様!」


「もー、様はいらないって」


 土を掘って魔石を探していたキリアちゃんは、嬉しそうに声を上げる。

 その手には、手のひらサイズの綺麗な石……淡く、赤く輝いているようだ。


「うわー、すごい。

 キリアちゃん、魔石集め得意なの?」


「そ、そんなことは……たまたまですよ」


「たまたま、にしても多いよ。

 私たちなんて、まだ一つも見つけられてないのに」


「ちっ」


 魔石採集を初めてしばらく経つが、私とダルマ男の集めた魔石は未だゼロ。

 対して、キリアちゃんはこれで三つ目だ。


 偶然、という言葉で片づけるには、さすがに見つけ過ぎだろう。

 魔石っていうのは、適当に探しても見つからないものだ。


 魔石も魔力を発しているため、それを感じ取る力が強ければ見つけやすい……と、師匠は言っていたけれど。

 もしかして、キリアちゃん……


「キリアちゃんは、魔力の流れを読むのに長けているのかな?」


「魔力の流れ……ですか?

 確かに、ぼんやりとですけど、魔力の強そうな場所がわかる、気がしますけど」


 ふむ、本人に自覚はなしか……

 人間は、全員が魔力を持っている。その中で、魔力を扱いこなせる者は限られるが……魔力の流れを感じ取れる者は、さらに限られる。


 師匠の話だと、エルフ族は魔力の流れを読むのに長けているらしい。

 けど、キリアちゃんは人間だ。

 ま、人間でも魔力の流れを読める人はいる、とも言っていたけど。


 つまり、キリアちゃんは、森の妖精と呼ばれるエルフ族に近しい力を持っている、ということだ。

 本人に、自覚はないみたいだけど。


「その、魔力の強そうなところ、が魔石がある場所ってことだよ」


「そ、そうなんですか?」


「こりゃあ、私たちも負けてられないなー。

 ね!」


「やかましい! 気が散る!」


 やみくもに探しても、魔石は見つかるものじゃない。

 だから、魔石を探すために、魔力の流れを読む力を鍛える人が多い。

 それでも、なかなか鍛えられないものなんだけどね。私も、少しは自信あったんだけど……そもそも、魔石のある場所では魔力が集中しているから、逆に見つけにくいすらある。

 キリアちゃんには、及ばないな。


 ……もう一つ、確実に魔石を集める方法がある。

 それは、モンスターを利用する方法だ。モンスターは魔力に引き寄せられるため、それが収納してある魔石に寄ってくる。

 人によっては、魔石におびき寄せられたモンスターに敢えて魔石を食べさせて、魔物に変化させた上で討伐する……

 そうすることで、魔物から魔石を手に入れることが出来る。


 だけど、こんな方法は倫理に反する。

 魔石を探すためだけに、モンスターを魔物にするなんて……生態系にも、影響が出るから。普通は、思いついてもやらないものだ。

 それに、魔物の力は想像を絶する。魔物を討伐しようとして、返り討ちに……なんて話も、聞くくらいだ。


 先生たちが安全を確認したのは、そういった危険を防ぐためでもあるのだろう。

 魔石の眠っている場所にモンスターを放ったままにしておくなんて、危険そのものだしね。


「っと、魔石魔石」


 おっとっと、考え事ばかりしても、いられない。

 私だって、魔石を見つけてやるんだから。


「ちっ、全然見つからねぇ」


「魔石は、こういう……草葉の影とか、地面の下にあることが多いんだって。

 あとは……洞窟なら、壁に埋まってるとも聞いたけど」


「はっ、お前も見つけられてねえじゃねえか。説得力がねえな」


「あはは……」


 くそ、悔しいけどダルマ男の言う通りだ。

 師匠と一緒のときは、ポンポン見つかったのに……


 ……いや、あれは師匠が見つけるのがうまかっただけか。

 それを、さも私が見つけたように、誘導してくれた。

 私の力だけで見つけられたことは、なかったのかもな。


 仕方ない、これはもう、地道に探すしか……


「ふんふん……っ!?」


「キリアちゃん……?」


 先ほどから、鼻唄を歌って魔石を探していたキリアちゃん……

 しかし、ふとその歌が途切れ……がさっと音がした時には、キリアちゃんの体が傾いていた。


 危ない! あのままじゃ、地面に倒れて……


「……っと。しっかりしろ」


「ぁ……す、すみません」


 キリアちゃんの体が、地面に倒れる……と、思われた時。

 その体を、優しく支える者があった。


 それは……キリアちゃんの近くで作業をしていた、ダルマ男の姿。

 よ、よかった……


 なんだあいつ、いいとこあるじゃん。


「あ、ありがとうございます……ダルマス様」


「ん」


「キリアちゃん、大丈夫!? どうしたの!」


 とにかく、私はキリアちゃんに駆け寄る。

 彼女は、ダルマ男に支えられながらも、立ち直す。

 立ち眩み……だろうか?


「す、すみません……突然、寒気が……」


「寒気!? 風邪!?

 だったら、気にせず休んで……」


「いえ……突然、感じたんです。

 膨大な……邪悪な、魔力の気配を」


 まだ気分が優れないのか、キリアちゃんの表情は暗い。

 そんなキリアちゃんが言うには……膨大な魔力の気配を、感じたという。


 膨大な魔力……それって、大きな魔石が近くにあるってこと?

 ……いや、それならいきなり、こんな風に倒れるのはおかしい。

 まるで、膨大な魔力を持ったなにかが"突然現れた"かのような。


 そういえば、なんだかさっきから、妙な違和感が……

 これがキリアちゃんの言う、膨大な魔力……! やっぱり私より、キリアちゃんの魔力を感じ取る力はすごい!


 ただ膨大ではない。キリアちゃんは言った、邪悪な、と……

 魔力の流れを人よりも感じ取れるキリアちゃん。感じ取れるからこそ、体調を崩した……?


「キャアアア!!?」


「!」


 その時だ……遠くから、誰かの悲鳴が、聞こえた。

 この声は……ルリーちゃん!?


 まだ気分の悪そうなキリアちゃんは、心配だけど……

 一応、ダルマ男もいるし。


「ダルマス! キリアちゃんのこと、任せた!」


「だからそのダルマってのを……

 え、お前今名前……あ、おい!」


 私は、ダルマ男にキリアちゃんを任せ、声のした方へと走り出す。

 そう、遠くはないはずだけど。


 急がないと……!

 嫌な予感が、する!

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