第59話 絶望のチーム



 本日の実習、魔石採集。

 学園の裏手から繋がっている森に入り、そこで魔石を集める、というもの。


 私たちのドラコクラス、ルリーちゃんたちのラルフクラスの合同であり、四十余名のクラスが二つあっても、散策には充分すぎる広さを持つ森らしい。

 その森に、これからレッツゴー。


 そのために、なぜか先生が用意したというくじを引いて、チーム分けとなる。

 私としては、クレアちゃんを誘いたかったけど……

 これも、クラスメイトとの親睦を深めるため、であるならば仕方ない。


 そう、諦めをつけていたのだが……


「フゥ、キミたチ。せいぜい足を引っ張らないで、くれたまえヨ」


「あぁ? そりゃこっちのセリフだ、ナルシスト野郎」


「あわわわわ……!」


「……」


 一緒になったクラスメイトの姿を見て、私は絶句した。

 まず、キリアちゃんはいい。お茶会のときに一緒だった、平民の女の子だ。

 小動物みたいで、くりっとしたおめめがかわいい。茶髪のショートヘアーもいいにおいしそう。愛でたい。彼女が一緒なのは、モーマンタイ。


 問題は……この、二人だ。

 一人は、キザったらしく笑みを浮かべ、手鏡を見ている筋肉男。

 もう一人は、そんな筋肉男に必要以上に噛みつく、ダルマ男。


 ……なんだこのメンツ。


「やれやレ……彼は実に怒りっぽくていけなイ。

 そんなでは、せっかくのイケているフェイスにしわが寄ってしまうヨ。

 ま、私ほどのイケフェイスでは、ないがネ」


「よぉし殴る、今から殴る!」


「け、喧嘩はダメです、よぉ!」


 だーめだ……始まる前からチームワーク最悪だよ。

 よりによって、この二人がおんなじチームって、どんな罰ゲームだよ。


 くじ分けが終わり、同じチームになったメンバーを見た私は、絶望した。

 各、四人または五人のチームが五つ……それぞれ、すでに分かれている。



『この実習が終わったとき、諸君らの絆はさらに固くなっていることだろう。

 では、健闘を祈る!』



 健闘を祈る、じゃないんだよ!

 どうすんだよこれ! ていうか先生、このチーム見たとき「やっちまったな」って顔してたよね!


 他のみんなも、そそくさとどっか行っちゃうし……

 そりゃ、私が他のチームでも、この二人には関わりたくはないけど……


「お、お二人、とも……

 な、仲良く、しないと……」


「あぁ?」


「ひぅっ」


「てめぇ、平民風情が……」


 おっと、これはいただけない。

 私は、キリアちゃんを背に庇うように、ダルマ男との間に割って入る。


「……エラン、様?」


「様はいらないってば。

 ……あんた、この子を怖がらせるなら、容赦しないよ」


「俺ぁ、別に……」


「平民平民って……少しは見直したと思ったのに」


「っ……ち!」


 震えるキリアちゃん、怖い思いをさせてしまった。

 この男め、まだ平民がどうのと言っているのか。


 睨みを効かせ続けていると、やがてダルマ男は視線をそらす。

 よし、勝った!


「おぉ、ノンノンだねぇミスターダルマス。

 貴族だ平民だと、そんな小さなことを気にしていてハ」


 そこに、まさかの筋肉男が口を挟んでくる。

 こいつは……貴族主義者、というわけじゃないのか?


 なんだ、言動は変だけど、思ったよりはいいやつ……


「すべてのレィディは、等しく、美しく愛でなければならなイ。

 それが男子として、生まれた者の努メ……違うかイ?」


「……」


 なんだろうな、貴族だ平民だと差別しないのは、いいことなんだけど……

 素直に喜びたくない。


 ……はぁ、もう。

 いつまでも、スタート地点でもたもたしていられないよ。


「はいはーい、それじゃみんな、魔石採集に取りかかろうよ。

 協力すれば、たくさん見つけられるよ」


「はい!」


「俺はお前らと協力するつもりはない」


「魔石採集など、そんな泥臭いことはキミたちでやりたまエ」


「……」


 お、落ち着け私……感情を殺せ。クール、ビクール……!

 こんなことで怒っていては、この先身が持たない。


 彼らはクラスメイト、彼らは仲間、彼らはともだ……とも……うーん……


「そ、そんなこと言わずに。

 み、みなさん、協力、しましょう」


「キリアちゃん……」


 この子ったら……なんて、いい子なんだろう。

 男相手に、それも貴族相手に、勇気のいる行動だろうに。


 私をフォローするように、声を上げてくれるなんて。


「しかしねェ……

 ワタシにとって、魔石採集など一文の得にもならないのだヨ。

 得にならないことを、ワタシはやるつもりはなイ」


「そんな……」


 この筋肉男め、取り付く島もないな。

 これは実習ではあるが、別に競い合いではない。

 その事実が、彼からやる気を奪っているのだろう。


 まあ、生徒のモチベーションを上げるためには、競い合いにした方がよかった気もするが……

 まだ入学間もないからこそ、まずは魔石を集めるだけ、といった簡単なことから、クラスメイトとの信頼関係を築いていくのだ。


 でないと、いくら禁止していても、クラスメイトから魔石を奪う奴だって出てくるだろうし。


「あの、ダルマス様……」


「……ふん」


 不安げなキリアちゃんは、今度はダルマ男へと視線を向ける。

 へこたれないその姿勢、素晴らしいよキリアちゃん!


 しかし、ダルマ男も聞く耳は持たず、それどころかこちらに背を向けて、歩き出して……

 近くの草むらへと、屈みこんだ。


「……なにしてるの?」


「あぁ?

 お前らが魔石採集するぞって言ったんだろうが」


 てっきり、お腹が限界になったからこんなところで思い切ったことを考えたのかと思ったけど、どうやら違ったようだ。

 草むらをかき分け、魔石を探している。


「おぉ」


「なんだ」


「いや別に?

 ただ、少しは素直になったなと思ってね」


「……こうでもしないと、いつまでもその平民がうるさいだろうが」


 ふふん、まあそういうことにしておきましょうか。

 なにはともあれ、ダルマ男も魔石採集に協力してくれる、ということだ。


 筋肉男は……うん、もう諦めよう。

 後で、魔石採集に参加しなかったと先生にチクってやる。


「じゃ、私たちも始めようか」


「はい!」


 こうして、私たちの魔石採集は、不安からスタートして十数分……

 ようやく、行動が始まったのであった。

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