第58話 魔石採集の実習



「それでは、本日は実習を行おうと思う」


「ガッデム!」


「!?」


 ホームルームが始まり、今日も昨日のように座学ばっかりだろうと思っていた。

 昨日の決闘は、例外だったから。


 座学の間は体を動かすこともないし、ある程度体力の消耗を防ぐこともできる。

 だというのに……!


「ど、どうしたフィールド」


「あ、な、なんでもないです」


「そ、そうか……」


 あまりの衝撃に、机を叩いてしまった。

 いけないいけない。


 私は、さっきまで迷ってしまっていたせいで、朝ごはんを食べそこねてしまった。

 だから、あんまり体力を消耗することは、避けたかったのに。


「先生、実習とは、具体的にはなにを?」


「うむ。まあ、そんな複雑なものではない……

 言ってしまえば、魔石採集だ」


「魔石採集……」


 今から行われる実習のその内容に、周囲は少しざわつく。

 てっきり、昨日の決闘までとはいかなくてもなにかしら体を動かすものだと、思っていたからだろう。

 まあ、魔石採集も体を動かすことには違いないけど。


 魔石……それは、主に魔導具の材料として使われるものだ。

 また、魔石自体に魔力を取り込む性質があり、魔力が弱い人でも、魔石を使うことで人並み以上の魔力を使うこともできる。


「魔石が、あるのですか?

 それも、採集するほど」


「あぁ、この学園の裏の森にな。

 魔石は、森や洞窟の中、といった場所に発生しやすい。今回は、学園裏手の森で、魔石の採集を行ってもらう」


 魔石は、大気中に当たり前のように存在している魔力と同じように、どこにでもあるものだ。ただ、自然が多くあるところに発生しやすい。


 魔力を吸収する魔石。基本的には、大気中の魔力を吸収しその中に魔力を溜めるが、人為的に溜める場合もある。

 ただ、人為的よりは自然に溜まったほうが、魔力の質はいいらしい。


 なので、採集してもいいだろうって時期になったら、冒険者ギルドに魔導具技師による魔石採集のクエストが、増えるのだとか。


「えっと……大丈夫、なんですか?」


「安全は、事前に確認してある」


 そして、魔力を溜めるという性質上か、魔石はモンスターを引き寄せやすい。

 今、安全を確認したのも、そのためだ。


「昨日、我々教師陣が、森の安全は確認した。

 魔物や魔獣といった、危険な獣はいないから安心しろ。

 ……と、そうだな。ついでだ、魔物と魔獣について説明してもらうか。ノーマン」


「はい。

 魔物とは、モンスターが魔石を食べることで変化した獣です。

 魔獣は……その、上位種、でしょうか」


 当てられた男子生徒が、立ち上がり答える。

 魔物については、おおかたその説明であっているが……


「ふむ、惜しいな。

 ノーマンの言ったように、モンスターが魔石を食べることで、魔物に変化する。モンスターとの違いは、魔法を使えるかどうか、だな」


 そう、魔物に関しても、説明を付け加えるならば……

 魔物は、魔法を使うことができる。魔石を体内に取り込んだ、おかげだろう。


 それに、そのほとんどが凶暴化する、とも言われている。


「魔獣が魔物の上位種というのは間違いではない。

 が、魔獣とは魔物が、さらに多くの魔石を取り込んだ姿だ。姿かたち、凶暴さが魔物の比ではないほどに変化している。

 さらに、言語を話せるほどに知能を備えたものを"上位種"と呼ぶが……まあ、これは人間の言葉を覚え、適当に話しているだけだから気にしなくていい。

 もっとも、今の諸君らには手に負えない相手だ。

 魔物は数人で囲めば諸君らにもどうにかなろうが、魔獣はそれどころではない。もし見つけても、下手に手出しせず、その場から逃げて助けを求めるように」


 とはいってもすでに危険がないのは確認しているがな、と先生は笑う。

 確かに、魔物はともかく魔獣なんて、他のみんなには手に余る相手だろう。


 私だって、師匠と一緒にしか、魔獣は倒したことがないし。


 さて、話は少し脱線したけど、実習の内容は魔石採集。

 先生たちが安全を確認してくれているなら、問題もないだろう。


 それに、昨日の決闘みたいに魔力を使う必要もなさそうだし……

 あんまり、お腹空かなくても済むかもしれない。


「言っておくが、他人の集めた魔石を奪い取る……といった危険行為はなしだ。

 あくまで実習……なにも、魔石を集めた数を競うわけでは、ないからな」


 釘を差すように、先生が言う。

 危険行為は禁止か……ま、それも当然だろう。


 そういう意味では、たとえ魔物や魔獣と出くわしても、戦わず逃げるべきというのが正解だ。

 魔物や魔獣は、倒せば死体とは別に、魔石が出現する。

 その原理はわからないが、その魔物が食べた魔石が返ってきた……と考えればいいだろう。

 そして死体はそのうち消えてなくなる。


 危険行為は禁止しておかないと、それを知ってる生徒が、魔物に挑みかねないもんな。

 まあ、先生たちが危険を排除してるから、考えるだけ杞憂かな。


「ちなみに、今回の実習はラルフクラスとの合同だ。

 合同といっても同じく魔石採集の実習をしているだけ、だがな。

 だからラルフクラスの生徒と会っても、不審がるんじゃないぞ」


 ふと思い出したかのように、先生は手を叩く。

 私たち以外に、別のクラスも参加しているらしい。


 えっと、ラルフクラスって確か……

 お、ルリーちゃんがいるクラスじゃん!


 やった! ってことは、ルリーちゃんと授業の中で会えるかも……


 ……ルリーちゃんのクラス?


「あいつがいる……!」


「?」


 そうだ、ルリーちゃんのクラスには、あの変態魔王ヨルがいる。

 くそぅ、上がりつつあったテンションがダダ下がっていく!


 せめて、週一の代表顔合わせは諦めがつきつつあったというのに……! 授業でも顔を合わせる可能性が!?


「さて、本日の実習は、魔石採集。

 魔導具に触れたことはあっても、魔石に触れたことのある者は少ないだろう。それと、これを機にクラスメートとの親睦を深めるといい」


 急に、ニコニコし始めた先生は、教卓の下から箱を出す。

 なんだ、あれ。


「では一人ずつ、この穴からくじを引け。

 同じ番号の者同士、共に行動して実習に当たるように」


 ……くじ、か。

 なんて原始的な。


 しかも先生、妙に目がキラキラしている。

 あれ、お手製なのかな……今日のために、作ったのかな……


 先生の意外な一面に衝撃を受けつつ、クラスのみんなはそれぞれ、くじを引いていく。

 クレアちゃんやロリアちゃんたちと同じになれたらいいけど。


 魔石採集かぁ……ワクワクしてきたよ!

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