第57話 自分で調べてみたい



「エルフ族が嫌われてる理由……ね。

 アンタさんは、知らないの?」


 エルフ族が嫌われている理由を聞いた私に、ピアさんは逆に問い返してくる。

 それは、当然の疑問だろう。


 なんせ、エルフ族が嫌われているのは、この世界では周知の事実……

 常識のようなものらしいからだ。


 ここは、なんと答えるべきか……


「私、結構世間の知識に疎いみたいで……

 師匠からも、なにも聞いてないですし」


「ふむ」


 結局、正直に答えることにした。

 嘘は言ってないし……ね。それに、下手にごまかすよりは、素直な方が後々困らない。


 私の言葉を、疑ってはいないのだろう。

 ピアさんは、顎に手を当てる。 


 ……もしかして、エルフ族関係の話は、話しにくかったりするのだろうか。


「それか、話しにくいことなら、えっと……

 書物がいっぱいあるとことかないですか? 元々自分で調べるつもりではいたんですけど」


 そう、自分で調べるつもりでは、あったのだ。元々は。


「話しにくいってことも……まあ、ないこともないけど。話すには、結構時間かかるからね。

 書物のあるとこ……書庫室のことかな。うん、あるよ。

 それも、この魔導学園の書庫はかなりでかい。卒業までにすべての本を読み切るのは無理なんじゃないかってくらい」


 ほほぅ、書物はあるのか。書庫室。それも、かなり大きいらしい。

 そういえば、私本とか魔導関係のもの以外あんまり読んだことないかも。そもそも家に、そんなになかったし。


 なら、他にもいろいろ調べられるかもしれない。


「そっかそっか。ま、アタシの口から話しても、それはあくまで主観だからね。記録を読むのが一番……

 あー、書物だって著者の主観が大いに入ってるか。といっても、そんなこと言ったらなにも信じられないか!

 あははは!」


 ……本当に、愉快な人だな、この人は。


 私は結局、書庫室の場所を教えてもらう。

 ピアさんの言うとおり、まずは誰の口からでもなく、自分の目で確かめないと。


「でも、時間が結構かかるんですか」


「世間の知識に疎いって自負するアンタさんが、どんだけの知識を持ってるかにもよるけどね」


 あぁ、そっか。私に説明してくれるとなったら、他の人に説明するよりも時間が余計にかかっちゃうのか。

 だって、世間の常識を知らないような奴に、世間の常識を話すのだ。

 そりゃ、説明する側も大変だ。 


「それは、説明も大変ですよね」


「いんやぁ、アタシは別に説明の手間とか気にしないよ?

 ただ……」


 と、ピアさんが急に、天井を指差す。

 その直後……


 キーンコーン……と、鐘の音が鳴り始めた。


「え、予鈴!?」


「ホームルーム始まっちゃうよん。

 って意味でも、時間がない。さすがに二日目から遅刻はまずいっしょ?」


「うわーん、朝ごはん食べそこねたー!」


「そこ!?」


 予鈴が鳴り始めたということは、ホームルームの時間までもうあまり猶予はないってことだ。

 慌てる私に、ピアさんは冷静に落ち着けと話す。


「まあ、ここからアンタさんの教室までは離れてないから。そんなに慌てなくても」


「そう、なんですか?

 でも、道がわかんない!」


「それも、教えるから!」


 私は、ピアさんから教室への道を聞く。

 こっから、走っていけば間に合うだろう。

 廊下は走っちゃダメだけど、緊急事態だし許してほしい。


 もっとピアさんと話していたかったけど……


「……また、話せますか?」


「お、また話したいと思ってくれてるんだ。

 アタシは、ほとんどこの研究室にいるから、遠慮なく来なよ」


 嬉しそうな笑顔を浮かべ、ピアさんは言う。

 嬉しいのは、私もだ。


 最後に礼をしてから、研究室を出ようとした私に……


「あ、待った」


「なんですか?」


「グレイシア・フィールドの弟子……それは、ほとんどの相手から尊敬や、過度な期待を寄せられるってことだ。その辺、よぉく肝に銘じておきなよ。

 それと……それとは別に、全員が全員、そう思っているわけじゃない。中には、エルフの弟子、って認識で見てくる相手もいるから。

 ……気をつけて」


 まるで忠告するように、ピアさんは私に気をつけろと、言ってくれる。


 エルフ族が、嫌われている理由……なのに、エルフの師匠は尊敬すらされている。

 この認識の差が疑問だったけど……やっぱり、エルフだからって師匠を嫌っている人も、いるってことか。


 それだけ、エルフ族っていうのは……


「わかりました。ありがとうございます」


「うん。それと、もう一つ……」


 ま、まだあるのか?


「なんでしょう?」


「アタシのことは、これからはピアたん……もしくはピアにゃんと呼んでくれると、アタシはすごく嬉しいと……」


「失礼しましたー」


「ぅおーい!?」


 私は、研究室を飛び出した。

 いやぁ、先輩だけどなかなか面白い人だった! また会いに来よう!


 ……そういえば、予鈴が鳴ったってことは……ピアさんは、自分の教室に戻らなくて、大丈夫なんだろうか?


「よっ、ほっ」


 廊下を駆け、階段を一段飛ばしで上り……目的の、階へ。

 あー、お腹減るからあんまり動きたくないんだけど……仕方ないか。


 案内された道を通り、無事教室へ。

 せ、セーフ!


 あとは、お昼ご飯の時間になるまで……

 どうせ座学ばっかりだろうし、おとなしく座って体力を温存しておくこととしよう。

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