第54話 身分の格差



「ロリアちゃんも、大変だったんだね」


「いえ、私なんてそんな……」


 聞かなきゃ、ロリアちゃんが元々平民だなんてわからなかった。

 こうして普通に話してるだけじゃ、気づけなかった。


 まだまだ、私には知らないことも多いのだろう。


「でも、今の話を聞いて、カリーナちゃんの気持ちもよくわかったよ」


 彼女は、貴族と平民による格差の差別……それをなくしたいと言った。

 それには、今言ったロリアちゃんの背景も、関係しているのだろう。


「えぇ、それも一つです」


「すごいなぁ、尊敬しちゃう」


「そ、そんな!

 尊敬だなんて……!」


 顔を真っ赤に染めて謙遜するカリーナちゃんだけど、本当にすごいと思う。

 平民を見下す貴族も多い中で、自分はそうはあらず、むしろそのあり方を変えようとしている。


 途方もない、けれどとても立派なことだと思う。


「ですが、本当にそうなればいいと思っています」


「それなら、私もいくらでもお手伝いするよ!」


「ほ、本当ですか!?」


「もち!」


 差別をなくす……それは、とっても立派なこと。

 ぜひお手伝いしたい。


 もしも、貴族と平民という格差の差別がなくなれば……

 ロリアちゃんみたいに、つらい思いをする子もいなくなるんだ。


 私に続いて、クレアちゃんたちも賛同してくれている。


「嬉しいです、共に頑張りましょう!」


「おー!」


 共に、貴族と平民の格差差別をなくす……

 楽しくおしゃべりするはずのお茶会だったけど、思わぬ団結力が生まれた。


 その後、時間も結構経っていたので、解散。

 少しの時間だったけど、とっても有意義な時間を過ごせた!

 また、お茶会したいなぁ。


 そんな思いを抱きながら、寮に帰宅。

 自分の部屋へと戻ると……


「あら、おかえりなさいませ、フィールドさん」


 すでに部屋の中にいたのは、同室のノマ・エーテンちゃん。

 優雅に椅子に座って、髪のお手入れをしていた。


「ただいま、ノマちゃん。

 もー、エランでいいって言ってるのに」


「申し訳ありません、癖のようなもので……」


「まあ、強制はしないけど。

 いつか名前で呼んでくれると、嬉しいな」


 帰ってきてからの会話もそこそこに、私は鞄を置く。

 ふと、視線を感じた。


 ……なんか、ノマちゃんがずっと、こっちを見てきている。

 すげー、目がキラキラしている。

 まるで、なにがあったか聞いてください、と言っているようだ。


「……ノマちゃん?」


「なんでしょう」


「えっと……なにか、あった?」


「まあ!

 わかります!?」


 うん、そりゃあんなに構ってオーラ出してたんだから、わかるよ。

 ノマちゃんは、もったいつけるように体をくねらせる。


「えー、どうしましょう! あんまりー、大声では言えないんですけどもー」


「ワー、スゴイキニナルナー」


「んもう、そこまで言うなら仕方ないですわね!」


 ノマちゃん、なんかめんどくさいな……

 いやいやいかん、せっかくのお友達なんだから。

 そんなこと思っちゃダメだよ!


 でも、こうもうきうきした様子で話すなんて、いったいどんな内容だろう。

 心なしか、頬も赤いし……


 たくさん、お友達が出来たとかかな……


「わたくし、今日運命の出会いを、してしまいましたわ!」


「うん……め?」


「えぇ! あぁ、恋とは、一目惚れとはこういうことを言うのですわね!」


「……」


 ……えぇと……


 こい……鯉……お魚?

 うん、お魚おいしいもんね。


 って、そうじゃないだろエラン・フィールド。

 ノマちゃんは、こうも言った。一目惚れ、と。

 それは、つまり……


「恋って……あの恋?」


「はい、あの恋ですわ!」


 あの、とは言っても師匠に教えてもらった知識しかないから、経験したことなんてないんだけど。

 確か、男女間に感じる……この場合は、女の子が男の子に対して、一定以上の好意を抱いている。


 それが、恋。


「一目惚れって……」


「えぇ。その殿方を見た瞬間、ビビッと来ましたわ!」


 つまり、相手の男の子を見た瞬間に、恋に落ちた……と。

 そういうことあるんだなぁ。


 初対面の男の子に、ビビッ……かぁ。



『ダークエルフに、この田舎者が!』


『やぁ、麗しきレィディ』


『あんたも、転生者ってやつか? ハァハァ』



 …………ないな。


「それは……なんとも、すごいね」


「えぇ、わたくしもこんな気持ちは初めてで!」


 あぁ、こうして思い返すと、私男の子とろくな初対面の記憶がないな。

 ビビッじゃなくゾクッならあるよ。


 まあ、人の恋路をどうこう言うつもりはないけど……


「確認するけど、それはいけすかない赤髪のツンツン男や、筋肉がはち切れそうな言葉の通じない男や、変なことばかり口走る黒髪変質者じゃないよね?」


「なんですの、その特定の誰かを指していそうな特徴は」


 もしも、私の知っている変な男たちにノマちゃんが恋をしていたら……それは、全力で止めよう。

 けれど……


「フィールドさんの言う殿方がどなたかは存じませんが、お相手はわたくしと同じクラスですわ」


「ほっ」


 どうやらノマちゃんの恋の相手は、彼女と同じクラスらしい。

 それを聞いて、私はほっとする。


 そうであるなら、少なくとも私と同じクラスのダルマ男や筋肉男、ルリ―ちゃんと同じクラスのヨルではない。

 ……ルリ―ちゃん、あいつと同じクラスで大丈夫だったかなぁ。


「あぁ、もう一目見た時から……

 わたくしは、あの方と会うためにこの学園へ入学……いえ、あの方と会うために、生まれてきたのかもしれません」


「そんなに!?」


「それほど、強烈な衝撃でしたの」


 魔導に献身的なノマちゃんが、そこまで言うとは……

 恋とは、それほどまでに強烈なものなのか。


 さっきから、立ち上がったと思ったらくるくる回っているし、忙しいな。

 これも、恋の影響か。


「しかし、あぁ、なんということでしょう。

 わたくしとあの方には、なんとも分厚く高い、壁が……」


「壁……あぁ、身分の差ってことか」


 さっき、お茶会で身分の格差について話し合ってきたところだ。

 身分の差なんて気にするな、と言いたいけど、それも難しいかな。


 ノマちゃんはいい子だけど、それとは別に自分の家柄に誇りを持っているみたいだ。

 だけど、その身分を傘にいじめに走らないところが、素敵なところだよ。うんうん。


 さて……そのノマちゃんが、身分の差を気にしている。

 エーテンって貴族がどれほどの階級の家柄かはよく知らないけど……

 身分の差なんて言うからには……


 相手の子って、平民?


「まあでも、ノマちゃんなら身分の差も、軽く乗り越えられるよ!」


 なるほど確かに、相手が平民なら、周囲の目もあるかもしれない。

 だけど知っている。私は、ノマちゃんならそんな障害、乗り越えられる精神力を持っていると。


 ロリアちゃんの件もあるし、今の時代貴族と平民の恋愛は大変だろう。

 でも、やっぱり大事なのは本人たちの気持ちだよね。

 それに、私たちでサポートできることは、すればいいだけだ。


 そう思って、私は……すぐに、今の言葉を言ったことを、後悔することになる。


「そうでしょうか……?」


「うん、もちろんだよ」


「相手が、王族でも?」


「うん、もちろんだよ」


「相手に婚約者がいて、将来この国を背負うお方でも!?」


「うん、もち…………うん?」


 相手が、平民だと思っていた私は……その聞き流せない言葉に、絶句した。

 平民だなんて、とんでもなかった……

 むしろ、地位としてはその真逆。


 ノマちゃんが恋をした相手……

 それは、このベルザ王国の第二王子、コーロラン・ラニ・ベルザだった。

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