第41話 始まりの種族



「さて……」


 生徒一同、ちゃんと席に座ったのを見て、先生は軽くうなずいた。

 自分の席に座っていない人もいるが、それはもう諦めたようだ。


 それにしても、これまた印象的な先生だな……

 右目に、黒い眼帯をしている。ショートカットでスレンダー、男っぽい口調で低い声だったし、一瞬男だと間違ってしまいになった。


「えー、今日からこのクラスを担当することになった、ヒルヤ・サテランだ。

 今日から諸君らには、魔導のなんたるかを学んでもらう」


 いよいよだ。

 これまで、人に教わると言ったら師匠しかいなかった。

 ただ、師匠はどっちかというと実戦派で、口で教えるのは得意ではなかった。


 まあ、それでも魔導の知識や、一般知識とできることを教えてくれたんだけど……

 あれで師匠、抜けてるところがあるからなぁ。

 わりとわからないことも多かったりする。


「さて、まあまずは、それぞれ自己紹介でもしてもらおうか。

 同じクラスなんだ、名前も知らなければ不便だろう」


 ということで、一人一人自己紹介をすることに。

 人前でなんて、緊張するな……!


 とはいえ、これからみんなで協力したり競い合ったり、いろんなことをしていくんだ。

 ここは、はじめが肝心だ。


 そんなこんなで、私の番がくる。

 ……よし。


「こほん。え、エラン・フィールドです。

 もっと魔導を極めたいと思って、この学園に来ました」


 立ち上がり、名前を言う。

 こ、ここで終わっとく? それとも、意気込みとか、目標とか……

 こ、こんなにみんなの視線が集まって……あわわ……!


「ここ、この学園の頂点まで、上り詰めてみせます!

 よ、よろしく! ……お願いします……」


 こ、これでいいでしょ……うん、普通だよ普通。

 最後は早口になりながらも、言い終えたので座る。


 ふぅ、緊張した……

 なんだかまだ見られている気もするけど、気のせいだよ。


「ははは、なかなかいい意気込みだな。てっぺんを取るとは、思い切ったことを言う」


 先生はなぜか愉快そうに笑っているけど……別に、変な挨拶じゃなかったよね?

 なんだか、周りからの視線が厳しさを増した気もするけど、気のせいだろう。


 その後も自己紹介は続いていく。

 貴族の子もいれば、当然平民の子もいる。

 亜人、獣人もいる。


 ただ、やはりというべきか……エルフは、いなかった。

 ルリーちゃん、大丈夫だろうか。

 ナタリアちゃんはいい人だったから良かったけど、もし悪意ある人が、ルリーちゃんの正体を知るようなことがあったら……


「よし、お疲れさん」


 パン、と手を叩く音が響いた。

 自己紹介は終わり、先生が注目を集めるために手を叩いたのだ。


「さて、諸君らは今日から、このドラゴクラスで共に学んでいくことになる。

 ちなみに、クラス名の由来だが……まあ、知っている者も多いと思うが、説明責任があるので改めて」


 クラス名の由来、か……知らなくてごめんなさいね。


「それぞれドラゴクラス、デーモクラス、ラルフクラス、オウガクラスと名付けられている。

 これは、かつてこの世界の始まりの四種族と言われる、"竜族"、"魔族"、"めい族"、"鬼族"から取られたものだ。

 彼らは、今やその姿を見せていない……どこかに隠れて暮らしているのか、種族ごと絶滅してしまったのか」


 始まりの四種族、か。なんかかっこいいな。

 ていうか、これも初耳なんだけど。

 ちょっと頼みますよ師匠。


 それぞれの種族から取っているってことは……

 竜族→ドラゴン→ドラゴ

 魔族→デーモン→デーモ

 鬼族→オーガ→オウガ

 ってことでいいんだろう。


 じゃあ……ラルフってなんだろう。


「ちなみに、命族はライフを司ると言われていて……今でいう、エルフ族のことだ」


 ラルフの命名について考えていたところに、先生から追加の情報がもたらされる。

 しかも、他人事ではない情報だ。


 昔と今で、呼び名が違う……命族とは、エルフ族のこと。

 ということは、エルフ族ってこの世界の始まりから存在しているってこと?

 この世界がどれくらい前からできたのかはわからないけど、長寿とはいえエルフ族は、そんな昔からしゅを絶やさずに生きてきたのか。


 そして、エルフ族は命を司る……

 ……もしかして、エルフとライフで、ラルフ、なのか……


 誰だこの名前考えたネーミングセンスの持ち主!


「それに、この学園の設立に関わったのも、その四種族だと言われている。

 だから、縁起物みたいな感じだな」


 縁起物……まあ、名前くらい自由でいいんだけどさ。


 ただ、縁起物という言葉に引っかかる。

 正確には、縁起物とされているエルフ族の、扱いに。

 聞けば、この四種族は敬われることはあっても、嫌悪される理由は見当たらない。


 少なくとも、エルフ族に関する名前を付けているこの学園は、エルフ族を嫌悪していない、と思うが……

 ……でも、他のクラス名はストレートなのに、なんでラルフクラスだけ少し捻っているのか、わからないんだよな。


 エルフ族、命族なんだから、エルクラスとかメイクラスとかでいいだろうに……

 まるで、ストレートに名付けるのだけは避けたかのよう……エルフの名前は入れたいけど、ストレートには入れられないから、せめてもの抵抗、みたいな。


「……」


「さて、では早速、授業に移ろうか」


 その後は、なんでラルフクラスの名前だけ特殊なのか、教えてくれなかった。

 聞けば、教えてくれたのかもしれないが……

 もし、そこにエルフ族迫害の理由が含まれているとしたら。


 それは、この世界で一般常識らしいしなぁ。

 ここで「なんでエルフ族は迫害されたんですか」なんて聞いたら……また、田舎物扱いだろうし。

 それだけじゃない、誰でも知っているようなことを知らないのは、なんか変な目を向けられそうだし……


 もー、師匠、ちゃんと大事なことは教えといてよ! 師匠だってエルフ族なんだし!

 ……いや、だからかもしれない。


 師匠にとっては、同族が迫害された話なんて、面白くないだろう。

 それを、進んで私に話そうとは思わないか。


 ただ、これを知らないままにしておくのも……だよね。

 誰に聞けば、疑問を浮かべずに教えてくれるだろうか。

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