第42話 座学つまんねぇという顔



 軽く、このクラスの成り立ちについて教えてもらったあと。

 先生の言ったとおり、授業が始まった。


 とはいえ、初日だからかはわからないけど、ほとんど私の知っているものばかりだった。

 魔力とはなんたるかとか、精霊とはどんな存在だとか。


 それと……私、正直座学は苦手だ。

 もっとこう、体を動かして覚えたいタイプなのだ。

 動いて慣れろ、みたいな。実戦ばかりしていた師匠のせいだろう。


 魔力の扱いだって、師匠も言うより慣れろ、って言ってたし……


「……よって、魔導とはイメージの力。

 具体的なイメージを浮かべることによって、その力はより強大なものに、精密なものになる。

 そのため、まずは魔力を自分の体に纏わせる"身体強化"が基礎になり……」


 魔力の基礎、それはここにいる全員がわかっているだろう。

 ……だよね?


 チラと、クラス内を見回してみる。

 クレアちゃんのように真面目に聞いている人もいれば、筋肉男のように聞いているのか聞いていないのかわからない人も……


 ……いや、あれと一緒にするのは、いくらなんでも他のみんなに失礼だろう。

 なんで、手鏡出して自分の顔眺めてんの!?

 話を聞かないにも限度があるでしょう!?


「……美しイ」


 おかしいな、距離的に声は聞こえないはずなのに、なんでかこう言っている気がするよ。


「さて……どうやら、私の話など聞かなくても、余裕だと言う者が何人がいるようだな」


 話をひと区切り終えた先生が、周囲を見回す。

 そりゃ、私が気づくんだから、教壇に立つ先生は気づくよね。


 ただ、それでも筋肉男は微動だにしていないけど。


「まあ、キミたちの気持ちもわかる。

 魔導学園に入学できた時点で、ある程度の実力、知識はあると言っていいだろう。

 だが……基礎を疎かにする者は、足元を掬われるぞ?」


 それは、鋭い指摘。

 基礎を疎かにすると足元を掬われる……か。

 そういえば、師匠も似たようなことを、言ってたっけな。



『魔導をある程度極めたからといって、基本を怠ってはいけない。

 むしろ基本を無視すれば、必ず足元を掬われることになる』



 やっぱり師匠、抜けてるけど先生っぽいところはあったよなぁ。

 旅に出ずに、教師とかやればよかったのに。


 まあそれは置いておいて。

 今は、先生のお怒りの行き先を気にするべきだ。


「この学園では、基本的に生徒の自主性に任せるようにしている。

 私の授業も、別に無理強いして聞かせるつもりもない。だが、先ほども言ったように基礎を疎かにすることは、己の足元を掬われる結果に繋がる」


 ふむ、自主性とは言いつつも、私たちのことを考えてはくれているんだな。

 完全に放任しているわけではないか。


「まあ、ここであれだこれだと言っても、ピンとこないだろう。あれこれ聞くよりも、諸君らには実戦形式を持って学んでもらおう」


 実戦かぁ……先生には悪いけど、私こういうの待ってたんだ!

 突然の実戦宣言に、周囲ではざわめきが起こる。


 みんな少なからず嬉しいのだろう。


「っと、そうだな……おい、フィールド」


「ふぇえ?」


 あれ、私が呼ばれた?

 なんで!?


「お前も、座学つまんねぇという顔をしていたな。

 喜べ諸君、【成績上位者】自らに魔力のなんたるか、お手本を見せてもらおうじゃないか」


 げ、私もつまんなそうにしてるのバレてた……

 表情には、出さないようにしていたんだけどな。


「で、フィールドの実戦相手は、もちろん……」


 どこか楽しそうに笑う先生。その視線は、完全に筋肉男に向いている。

 あぁ、初めからあの筋肉男にもやらせるつもりだったのか。


 でも、あいつと実戦かぁ……あんまり、気乗りが……


「先生」


「ん?」


 その時、一人の男が手を上げる。


「その役目、自分に任せてください」


「ダルマス……」


「いな……フィールドの相手は、俺に」


 手を上げたのは、まさかのダルマ男。

 しかも、自分から私の相手をする、と言い出した。

 ていうか、今田舎者って言おうとしたろ。


 なんのつもりだ……って、考えるまでもないか。

 クレアちゃんも言っていた通り、無名の貴族に【成績上位者】を与えられて面白くない奴らはいる。

 ダルマ男は、その筆頭ということだ。


 それ以前に、私とダルマ男には因縁があるし。

 ここで、私の鼻っ柱をへし折ろうと考えたのだろう。


「しかし、お前はわりと真面目に……」


「お願いします」


「……まあ、いいだろう」


 わりと真面目に授業を聞いていたらしいダルマ男だが、その熱意に押されて先生は許可を出す。

 本来なら、私と態度のよろしくなかった筋肉男を戦わせて、魔力の大切さを身に覚え込ませようとしたのだろう。


 まあ、結局は魔力の大切さを教えられればいいのだから、私ともう一人は誰でもいいわけだ。


「では、フィールドとダルマス。両者に、決闘方式で試合を行ってもらおうか」


「決闘?」


「ま、簡易的なな」


 というわけで、私とダルマ男は決闘をすることに。

 魔導学園には、決闘というシステムがあるらしい。


 ちゃんとした決闘のシステムはあるんだけど、今回は簡易的なもの。

 決闘にはいくつの取り決めがあるらしいのだが、今回は。


・自前の魔力のみで戦うこと……つまり大気中の魔力を利用する魔術は禁止

・勝敗は自ら負けを認めるか、仲介……今回の場合は先生だ……が決着を宣言するか

・魔力以外に持ち込める武器は一つのみ


 本来は、決闘の勝者が敗者になにかしら要求できるらしい。

 ただ、今回は授業の一環なので、それはなし。


 また、決闘は特殊な結界内で行う。

 この結界の中なら、どんな怪我も一定以上のダメージにはならないのだそうだ。

 簡単に言えば、死ぬほどの攻撃を受けても死ぬことはない。


 すごいね。


「では、一時休憩を挟む。

 二十分後、訓練場に集合だ」


 あらかたの説明を終えて、先生は不敵な笑顔を浮かべつつ、教室を去った。

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