第40話 個性的すぎるクラスメイトたち



 私とダルマ男の、今にも衝突しかねない雰囲気を感じ取ってか、室内はピリピリしていた。

 そんな空気を、打ち壊すかのような声……


「名誉ある魔導学園に入学して浮かれているのかイ?

 しかしもっと、慎みを覚えるべきだと思うがねェ」


 見るからにパツパツな制服を着た男の子……

 胸板すごいな……


 どこか独特的な喋り方で、教室内を見る。

 このピリピリした空気を感じ取っていないのか……それとも、感じ取ってても関係なしに思っているのか。


「騒ぐのは勝手だが、人の迷惑も考えてくれたまえヨ」


 やれやれ、というように肩をすくめると、筋肉男は近くの席に荷物を置き、座る。

 しかも、机の上に足を乗っけて、頭の後ろで腕を組む始末だ。


「あ、あの、そこ私の席……」


「んン?

 おっと失礼、レィディ。

 しかし、ここが誰の席かなど、些細なこト……ワタシが座れば、そこがワタシの席ダ。

 違うかイ?」


 違うと思う。


「え、ええと……」


 自分の席を取られる形になった女の子は、オロオロと困惑している。

 これまで私とダルマ男のやりとりを遠巻きに見ていたみんなも、筋肉男の言葉に唖然としていた。


 この人……人の話を、聞いてない!


「ねぇ、そここの子の席なんだよ」


「おい貴様、俺を無視して……」


 私はダルマ男との会話を切り上げ、筋肉男に詰め寄る。

 会話を切り上げられたことに、ダルマ男は不服そうだけど……


 私としては、困っている子は放っておけないんだ。


「キミも同じことを言わせるのかイ?」


「いや、変な屁理屈言ってないで……」


「ム、キミハ……おぉ、ミス・フィールド。

 【成績上位者】であるキミから話しかけてもらえるとは、光栄の極ミ」


「……」


 本当に光栄と思っているのかは知らないけど、私にとってはまったく光栄じゃあない。

 筋肉男は、私のことをジロジロ見ている。

 やめてくれないかな。


「話には聞いているヨ……なんでも、組分けの際にその腕力のみで、魔導具を破壊したとカ」


「どんな話が広まってんの!?」


「冗談さ、イッツジョーク!

 ハハハハハ!」


「イラッ」


 どうしよう、初対面だけど、私はすでにこの男のことが苦手だ。

 まともな会話が成立するとは、思えない。


 この席の子には申し訳ないけど、諦めてもらうしか……


「あ、ありがとう……

 私はその、大丈夫ですから」


 私がそう考えていたのと同じタイミングで、おずおずと声をかけてきたのはこの席の女の子だ。

 この子も、筋肉男との会話は成立しないと、感じたのだろう。

 私の力不足で申し訳ない。


 ただ、大丈夫と言ってもな……

 この男がここに座っているのなら、この男の席に座るしかないか。


「ねえあなた、名前は?」


 ヨルとは別の意味で、会話のしたくない相手。

 だけど、名前を聞く必要があるから、仕方ない。


 それぞれ、席には座る人が決まっている。

 だから、この男の名前を聞いて、そこに代わりに座ってもらうしかないだろう。


 ……まあ教師が来てから、理由を話してもいいんだけど。

 我が物顔で机に足を乗っけてる席に、この子も座りたくはないだろうしな。


「ワタシかイ?

 これは失礼した、レィディを前に紳士たるワタシが、名乗りを怠るとハ」


 紳士ならこんなことはしないと思うんだけどな。

 あとレィディやめろ! なんか腹立つな!


「ワタシは、ブラドワール・アレクシャン。

 親しい者からはブラド、と呼ばれているヨ」


「アレクシャンだと!?」


「まじかよ、あの……?」


 名乗りは素直な筋肉男。

 ただ、その家名を聞いて、ダルマ男や他のみんなが、驚いている。


 それは、クレアちゃんも例外ではない。


「どうしたの? 有名な貴族?」


「ゆ、有名なのは、その、間違いないんだけど……」


 クレアちゃんに聞いてみるけど、なぜだろう、歯切れが悪い。

 他のみんなも、似たような顔だ。


「ハッ、やっぱり田舎者だな」


「んだとコラ」


 ため息まじりに、ダルマ男が笑う。

 人を散々田舎者扱いしやがって、やるのかおぉん?


「アレクシャン家は才ある人材を多く排出している家だ。

 だが、そのことごとくが……生粋の"変人"で有名だ」


 私をバカにしても、一応は教えてくれるダルマ男。

 その説明を受けて……私は、涼しい顔をしている筋肉男を再び見る。


 ……変人として、有名、かぁ。


「おやおや、これは随分な物言いだねェ。

 人を変人扱いとハ……育ちのいい人間の反応とは、思えないナ」


「ふん、噂程度にしか知らなかったが、その噂はどうやら正しかったらしいな。

 有能な家柄でも、当人がこれだと周りも苦労するだろう」


 おっとっと、なんか二人の間でバチバチと火花のようなものが見えるよ。

 私を間に挟んで、そういうのやめてほしいなぁ。


 これまた、一触即発。そんな中で……


「ほらお前たち、席につけ」


 ガラガラと扉が開き、一人の女性が入ってくる。

 あの人が、多分この組の担任ってやつだ。


 それぞれが席に座る中、私と席を取られた子は立ったままだ。


「おい、どうしたお前ら。早く座れ」


「それがですね、この子の席はここなんですけど、すでに勝手に座ってる人が」


 立っている私たちは、別に悪くない。

 悪いのはこの男だ。

 そう弁明の意味を込めて、私は話す。


 当の本人は、なぜかのんびりと座ったままだけど。


「……そこに座っているのは、アレクシャンだな。

 各々、席は決められている。アレクシャン、移動しろ」


「ノンノン、いかに教員と言えど、ワタシ一個人の自由を束縛する権利などないはずダ。

 どうせ、決められた席と言っても、名前順だろウ?

 ワタシは、目に入ったこの席に座っタ。そこに、誰からの強制力もあってはならなイ」


 なに言ってんだこいつ……

 意味がわからないのは、私が馬鹿だからだろうか?


 まさか、教師の言葉も聞かずに居座り続けるとは、思わなかった。

 その言葉を受け、教師はわかりやすくため息を漏らして……


「……じゃあ、キミは、元々アレクシャンが座る予定だった席に、座りなさい。

 フィールドも、早く席に」


「はぁい」


 結局、筋肉男と席を入れ替える形で、あの子は席についた。

 ちなみに、席順は本当に名前順だった。

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