第31話 凄まじい魔力の持ち主たち



 魔力測定……水晶に魔力を流し込み、それに反応して輝く光の大きさによって、魔力の量がわかるというもの。

 これは組わけのために必要な作業であり、これまで魔力を測定してきた生徒の魔力量は、ほとんど似たり寄ったりだった。


 だけど……今、私が魔力を流し込んでいた水晶は、割れてしまっている。

 直前に、赤い光を輝かせて。

 輝きの後……激しい音を立てて、水晶が割れたのだ。


 だけどそれは、私だけではない。


「……」


 隣……

 そこに立つ人物へと、首を向ける。


「あはは……」


 そこには……あの男が……

 ヨルが、いた。


 私と同じ【成績上位者】として理事長に呼ばれて。

 その帰り道、意味不明なことを言いながら私に迫って来た、危ない男。


 そいつが、私を見て「やっちまった」みたいな表情を浮かべている。


「……いたんだ、隣に」


「え、気づいてなかったの?

 いやぁ、あはは……適当な魔力量で抑えておこうと思ったんだけど、隣でこれ見よがしに光らせるからさぁ」


 対抗心が湧いちゃって……と、ヨルは笑っていた。

 そこには、私と同じように、割れた水晶の残骸。


 もしかしてこいつ、わざと魔力を抑えて、この場を乗り切ろうとしていた?

 それを、私のせいで本気出しちゃった的な……


「二人とも、下がって」


 そこへ、教師たちがやって来る。

 割れた水晶を見て、驚いた表情を浮かべている。


 周囲も、騒然としている。


「水晶が割れた?」


「え、水晶が耐えられないくらいの、魔力量だったってこと? 二人とも」


「バカな、一人は聞いたこともない貴族で、一人は平民だぞ。

 水晶が壊れてたんだよ」


「けど、魔導学園の魔導具だぞ?」


 いろんな推察が、飛び回っている。

 というか、貴族と平民って……そうか、ヨルには家名がないから、平民。私は『フィールド』って家名があるから、貴族扱い。

 けど、私は別に貴族ってわけでもないんだけど……


 いや、本人が意識してなくても、家名があれば貴族なのか? まあいっか。


「これは驚きました」


 と、騒然となっている場に、理事長の声が響く。

 それだけで、騒がしかった周囲は静かになる。


「急ぎ、新しい魔導具を。

 まさか、その水晶を割るほどの魔力の持ち主が、それも二人……

 やはり今年は、豊作のようですね」


 愉快げに、理事長は笑う。

 その口ぶりから、水晶はなかなか割れるほどのものではないのだろう。


 それに、水晶が壊れていたわけでもない……

 水晶が許容できる魔力量を越えていた、というだけのこと。


「予備魔導具、準備出来ました」


「はい。

 では、少し予定外のことも起こりましたが、続きを」


 私たちはその場から退き、続きが始まる。

 気のせいか、さっきよりもみんな、魔力を込めている表情が強張っている。


「へへ、聞いたこともない貴族や、下に見てる平民の鼻を明かしてやるって、みんな必死になってやがる」


「!」


 別に話したいわけではないのに、ヨルが私に話しかけてくる。

 だけど……そっか、それが理由か。


「これから俺たち、目をつけられるかもな」


「私別に、目を付けられたいわけじゃなくて、すごいぞーって見せつけたかっただけなのに」


「……それ同じじゃね?」


「ていうか、俺"たち"ってやめてよ」


 なんでこいつは、こんな気さくに話しかけてくるんだ。

 私としては、関わり合いになりたくないんだけど。


 あ、ルリーちゃん頑張ってるな。

 それに、他の生徒よりも光が強い……


「なー、さっきのぼんやりとなんだけど、俺は青く光ったけど、あんたの赤くなかった?」


「うるさい黙れ帰れ」


「ひでー」


 こいつと会話しているより、ルリーちゃんの雄姿を見届ける方が百倍大切だ。

 ルリーちゃんは他の生徒と違って、変に気張ってはいないみたいだけど。


「なー、あの凄まじいまでの魔力量……

 あんたやっぱてん……」


「エランちゃーん!」


「わっと」


 またも、ヨルがなにか言おうとしてきたが……

 それを遮るように、クレアちゃんが飛びついてくる。


 押し倒されないように、私は踏ん張る。


「なになにさっきの、すごいよ!」


「えへへ、どうも」


 よかった、意識はしてないだろうけど、ヨルからの追及をかわすことができた。

 クレアちゃん、グッジョブだよ!


 そんなクレアちゃんは、ヨルの姿を見て……


「あれ、お話し中だった?」


「ううん全然。

 ていうかまったく知らない人!」


「……」


「そう」


 話し中もなにも、勝手に話しかけてきていただけだし。

 私は、とっとと切り上げたかったし。


 そんな私の気持ちをようやく察してくれたのか、ヨルは離れていった。


「今の、エランちゃんと同じ、水晶を壊した……」


「壊したって言い方嫌だなぁ!?」


 もちろん、壊そうとしたわけじゃないけど……

 え、あとで弁償とか、させられないよね!?

 魔導具って高いって聞くし……


「あ、お二人ともー。

 ……エランさん、どうして震えてるんです」


「さあ、寒いのかしら」


 ……その後、私と同じように水晶が割れる者はおらず、魔力測定の時間は過ぎていった。

 中には、ひときわ大きな輝きを見せる者もいたが……割れるまでには、至らなかったようだ。


 それが終わった後、ヨルの言葉を思い出すのは嫌だけど、なんかすごい視線を感じた。

 これが、目を付けられるってやつなのかな。


「では、これにて本日の行事は終了となります。

 この後、皆さんは寮に移動してもらいます」


 入学の行事が終わり、次はいよいよ学園寮だ。

 寮は男女に分かれていて、男子が女子寮に行くのは時間は関係なく基本的に禁止。

 女子も、決められた時間を超えたら男子寮に行くのは禁止だ。


 それぞれ、二人一部屋、もしくは三人一部屋となる。

 それだけあって、案内された学園寮も大きいのなんの。


 学園寮は学年ごとにも分かれていて、ここは新入生……すなわち一年生の寮だ。

 今日からここで、衣食住を、新生活を送ることになる。


「……ここで」


 できることなら、クレアちゃんやルリーちゃんと一緒になりたい。

 特にルリーちゃんは、知らない人と同じ部屋で暮らすとなると正体ばれの可能性が高くなる。

 もし部屋が別になっても、できる限りサポートはするつもりだけど。


 ……寮、か。

 ここで、これから……魔導を極めるための、生活が始まるのか。

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