第30話 魔力測定



 さて、ダルマ男と別れた私たちは、入学生徒が集まる場所を目指す。

 ダルマ男たちも、結局はそこに移動しているのだ。


 えっと……まあ、みんなに着いていけばいいか。


「エランちゃん、今度ははぐれないでよ」


「あはは、大丈夫だよー」


 以前……入学試験日に、私ははぐれてしまった実績があるからな。

 クレアちゃんが釘を差すように、忠告する。


 まあみんなとはぐれたおかげでルリーちゃんと出会えた、とはいえ……

 今回また、そんなことがないようにしないと。


「それで、どこに向かってるんだっけ」


「入学案内には……実技演習館に集合、と書いてあります」


「多分、あれね」


 と、クレアちゃんが指差す先には大きな建物。

 なるほど、実技演習館……なんともわかりやすい名前だ。


 あそこで、生徒たちは魔導の練習をするというわけか。

 それに、大きいし……いっぱい人数が入りそう。


「なにするんだろ、入学式?」


「まあ、普通に考えたらね」


「今日は式と、組分けをしたら終了みたいです。

 その後、寮に案内されると」


 入学式かぁ、眠たくなりそう。

 でも、その後の組分けっていうのは気になるな。

 クレアちゃんやルリーちゃんと一緒の組になれればいいけど。


 それから私たちは、建物内へと足を踏み入れる。

 中はやはり広く、木造の床に壁、天井……それなりに暴れても、頑丈そうな作りになっていた。


 入った生徒たちは、教師の案内に従い列を作って並ぶ。

 列に決まりはないのか、とりあえずバラバラだったみんなを一箇所に固めるのが目的のようだ。


 みんなわりときびきび動いて、次になにが起こるかをじっと待つ。


 ……どれほど経っただろう、正面……壇上に、一人の教師が上る。

 あの人は、一度直接会ったことがある。


「みなさん、はじめまして。

 私は魔導学園現理事長、フラジアント・ロメルローランドです」


 以前私とヨルを呼んだ、理事長……その人だ。

 あのときも思ったが、ただ立っているだけなのに威厳がすごい。


「まずは、入学おめでとうございます。

 今年は例年に比べ、入学できた者は少ない……その中で、皆さんは可能性を秘めていると、我々は判断しました」


 ふぅん、例年より合格人数が少ないのか……

 確かに、この建物内にいる生徒と、入学試験日に見た生徒……その数は、半分……いや、それ以下だ。

 みんな、落ちてしまったのか。


 ……以前理事長室で、『今年は、量より質、優秀な者が多いようです』って言ってた。

 合格基準が厳しくなったのか、それとも試験を受けに来た人の量が例年より多かっただけなのか……

 入学できたのは、例年より少ないが、例年より質はいいらしい。

 

 その後は、学園の名に恥じないようにだとかお互いに能力を高め合ってだとか、まあみんな頑張れみたいなことを言っていた。


「さて、時間は有限。

 挨拶もほどほどに、次のステップへと移りましょう」


 パン、と理事長が手を叩く。すると、裏から四人の教師が出てくる。

 その手には……水晶、かな……を持っている。


「これは、触れた者の魔力を測る魔導具です。

 新入生諸君には、順にこれに触れてもらい、魔力を測定……こちらで、組分けを行い、明日貼り出すことになります」


 理事長からの説明……ふぅむ、魔力を測る魔導具か。面白いな。

 この国に来てから、いろんな魔導具を見た。

 試験のとき頭の中に声が流れてくる魔導具、ルリーちゃんの被っている認識ずらしの魔導具、そして魔力を測る魔導具。


 師匠と暮らしていたときは、魔導具は実際に使ってはいた。

 部屋の明かりを付けたり、自分の声を録音したり。


 生活に実用的なものもあれば、いろいろな用途があるんだなぁ。


「一人一つを順に触れていては時間がかかるので、四列になってください」


 教師の指示に従い、私たちは列を四つ作る。

 どうでもいいけど、入学試験のときといいこの学園は四が好きなのかな。


 四列になり、その先頭には水晶を持った教師たちが……台座に、水晶を置く。

 あれで、魔力量を測れるとはねぇ。


 自分の魔力量なんて、知る機会がなかったから、ドキドキするよ!


「では、ありったけの魔力を込めてください。その魔力を、水晶に流し込むような感覚で。

 魔力が込められれば、それに反応し水晶は光り始めます。

 込められる魔力が強ければ強いほど、その光は輝きを増していきます」


 説明を受け、先頭に立つ生徒たちがそれぞれ、水晶に手を置く。

 後ろからだと、ぼんやりとだけどなんか光っているのが、わかる。


 あの光が魔力の量を表している……

 つまり、あれがものすごく輝けば、それだけ魔力は強いってことだ!

 それを、私が輝かせることが出来たら……

 私はすごいってことになる。


 そして、その師匠がエルフだって判明すれば、エルフすげーってなって、変なイメージもなくなるはずだよね。


「はー、緊張する」


「まあ、リラックスしていこうよ」


 私の前に立っているクレアちゃんに、リラックスリラックスと声をかける。

 これは、入学試験というわけではないのだ。

 あくまで、組をわけるためのもの。


 変に気を張れば、普段通りの魔力が出せなかったりするもんな。


「次!」


「さ、頑張って」


「お、落ち着いてください!」


「え、えぇ」


 次は、クレアちゃんの番。

 彼女は水晶に手を置いて、魔力を込める。


 一つ後ろにまで来ると、よく見える……

 水晶は、内側から光が生まれている感じだ。

 どういう原理なんだろう。


 その光は、白に近い。

 それがどれほどの魔力量なのかはわからないけど……クレアちゃんは、真剣だ。


「次!」


 やがて、クレアちゃんの測定の時間は終わる。

 次は私だ。


「エランさんなら、すごい魔力を出しそうです」


「あはは、あんまり期待しないでよ」


 後ろから、わくわくした声。

 そういえば、ルリ―ちゃんは入学試験で私の魔力量をある程度見ているんだっけな。


 気のせいだろうか、ルリ―ちゃんやクレアちゃん以外にも、注目されているような気がする。


「ふぅ……よし」


 視線のことなら気にするな、自分の精一杯を、出すだけだ。

 私は、水晶に手を置く。


 自分の中に流れている、魔力に集中……それを、手のひらに集める。

 それを、水晶に流し込んでいく、感覚……


「わ、光が……」


 ふと、誰かの声が聞こえた。

 まだまだ、これじゃこれまでの生徒の平均くらい……

 私は、まだやれる!


 さらに、魔力を集中。

 流し込む魔力の量を、増やしていく。


 集中、集中、集中……


「こ、これは……」


「なにあれ、赤く……?」


 白かった光は、だんだんと赤みを帯びていく。これまでに見たことのない反応だ。

 輝きは増していき、赤い光ということもあり、まるで燃えているかのよう……


 周囲でざわざわとなにか言っているような気がするけど、気にせずに……



 ピシッ



「ぁ……」


 次の、瞬間だ……


 パキィン……と、激しい音を立てて、水晶が砕け散ったのは。


「あ、れ」


 あれ、今私、なにを……

 魔力を流し込んでて、それで……


 ぼんやりとした頭の中で、目の前には割れた水晶の残骸……

 そして……


「あ」


 パキン、と、隣からも、激しい音がした。

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