第28話 名残惜しいお別れとワクワクの新生活
「だじゃーん!」
「おぉ、かわいいじゃない」
私は、一階へと降り、掛け声を上げながら両腕を広げ、ポーズを決める。
そうしている理由は、みんなに服を見せびらかすためだ。
魔導学園入学が決まってから、さっそく翌日買いに行った制服。
自分のサイズに合わせてもらったそれを着て、じゃーんと公開しているのだ。
クレアちゃんは軽く拍手して、タリアさんは満足そうにうなずいている。
ガルデさんたちも、大賑わいだ。
「似合ってるぜー、嬢ちゃん!」
「えへへ、ありがとー。
それはそうとガルデさんたち、まさか今日まで居るなんて」
「せっかくのエランちゃんたちの門出なんだ、見送らねえわけにいかねえだろ」
「この点、冒険者は融通が利くからな。休みも自由よ」
まったくもう、わざわざ見送ってくれなくてもいいのに。
それにしても、この服本当に可愛いな。
白い生地が基調になっているけど、大きな藍色の襟はブイ字になっている。それに、胸元のスカーフもかわいらしい。
私たちのは赤色だけど、これは学年によって色が違うらしい。
二年生が黄色で、三年生が青色だったっけ?
あと、膝上のスカートも動きやすくて良いや。
「……」
「ん、どうかした?」
「いんや、なんでもないよ」
どこか、こういう服を見たことがある気がして……
まあ、王都巡りの時に、魔導学園の学生さんとすれ違ったのだろう。
「ところで、ルリーちゃんは?」
「あの子なら、ずっと二階からこっち見てるよ」
「早く言ってよ!?」
タリアさんの指した方向……見上げると、階段の上からこっちを見ているルリーちゃんの姿があった。
なんか、もじもじしてるな。
「ルリーちゃん、どうかしたの?」
「あ、え……
私、エランさんやクレアさんみたいにかわいくないから、似合わないかなって……」
「なに言ってんだい、ウチの娘の十倍はかわいいよ。
自信持ちな」
「おい親」
私たちは、一緒に制服は買ったけど、お互いに着用した姿は見ていない。
当日に、一斉に見せ合おうって話になって……
見たことがあるのは、全員のチェックを事前にしてくれた、タリアさんだけだ。
「大丈夫、クレアちゃんもかわいいって!」
「取ってつけたよね」
「そんなことないよー」
実際、クレアちゃんにはすごく似合っている。
スタイルがいいんだし、胸だって私より……くっ。
だから、自信持ってほしい。
「そう、胸だってあるんだから……」
「なんか自己完結でダメージ受けるのやめてくれない!?」
はぁ、いいなぁ……ううん、いいもん。私成長期なだけだもん。
今は、その話は置いておこう。
「ほーらほら、ルリーちゃん。いい子だから、降りといで」
「猫か」
やがて、ルリーちゃんは覚悟を決めたかのように、壁の向こう側に隠していた半身を現して……
階段を、降りてくる。
「……やっぱり、フードは外さないのね」
とは、クレアちゃんの言葉だ。
ルリーちゃんは、いつものようにフードで髪を、耳を隠している。
けれど、それを差し引いても……
「うわぁ、すっごく似合ってるよ!」
褐色の肌に、白い制服は……なんというか、映える。
うわー、これ素顔出したら絶対モテるやつだよー!
振り向くと、クレアちゃんも、ガルデさんたちも、うんうんとうなずいている。
「うぅ……なんか、落ち着かない……」
「あぁー、ルリーちゃんスカート押さえる仕草ダメだって。グッときちゃうから」
「おっさんか」
これまで、ルリーちゃんの服は長いスカートや、ズボンが多かったもんなぁ。
だからだろう、生足魅惑のルリーちゃん……
イイね!
「さて……そろそろ、時間じゃないかい?」
「あ、ほんとだ」
こうしてお披露目も済んだところで……
そろそろ、出発の時間だ。
名残惜しくはあるけど……もう、二度と来られないわけじゃあ、ない。
だから……
「じゃあ、行ってきます」
「行ってきます」
「行ってきます」
「あぁ、しっかりやんな」
この扉をくぐれば、今日からは学園寮に住むことになる。
だからって、しめっぽいお別れなんてしない。
私たちは、笑顔で宿を出た。
タリアさんたちの、笑顔に見送られて。
――――――
「ねえねえクレアちゃん、寂しい? 寂しい?」
「さ、寂しくなんてないわよ」
鞄を手に、私たちは学園への道を歩く。
私はこの国に来た時から、あの宿に厄介になっていた。けれど、クレアちゃんの場合は実家……それこそ、生まれた時からだ。
だから、家を出て寂しくなっているんじゃないかと思ったけど。
「そう? 私は寂しいけどな」
「別に……私は、そんな……」
……あー……もしかして、私の聞き方がまずかったかな。
クレアちゃんの性格だから、あんな言い方されて素直に認められは、しないか。
「あはは……
……でも、寂しいけど、わくわくもあります」
「……そうね」
わくわく、か。
どうやら、その気持ちを感じているのは、私だけではないらしい。
寂しくはある、不安もある。けれど……
それと同じくらい。いや、もしかしたらそれ以上に、ワクワクしている自分がいる。
学園が近づいてきたからか、同じ制服を着た子たちが増えてきた。
赤いスカーフ……私たちと、おんなじ。
今日から、みんな仲間で……互いを高め合う、ライバルってやつでもあるんだよね。
「今日から、ここで……」
足を止める。目の前、見上げる先には……魔導学園。
大きな、建物だ。
すべては、私が、師匠を超える魔導師になるため……
今日から、新生活が始まるんだ!
「よし、行こう」
「えぇ」
「はい」
私たちは、ついに魔導学園の生徒として、学園の敷地内へと、足を踏み入れた。
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