第27話 とことん楽しむ



「じゃ、めでたく三人とも魔導学園入学試験合格しましたってことで、かんぱーい!」


「かんぱーい!」


「か、かんぱーい……!」


「入学前祝いだぜ!」


 魔導学園の入学試験、その結果を見届けた私、クレアちゃん、そしてルリ―ちゃんは、宿『ペチュニア』へと戻ってきていた。

 結果は、全員合格。


 そのめでたい報せに、タリアさんは豪華な食事を振る舞ってくれた。

 入学前祝いということで、こうして乾杯したわけだ。


 なんか、似たような流れを以前にもやったことある気がする。


「ぷはーっ、おいしーい!」


 ごくごくと、飲み物を一気に飲み干す。

 あぁ、体内に染み渡る。


 ちなみに飲み物は、以前と同じジュースだ。

 チェリーシュという、甘い飲み物。

 お酒じゃないよ。


「それにしても、三人ともよかったねぇ」


「はい!」


 もちろん、そのつもりではいた。けど、実際に三人が合格しているとなれば、喜びはまた別だ。

 この三人で、学園生活を送ることができるという喜び。


 店内も、私たちの合格祝いで盛り上がっている。


「三人ともおめでとさん!

 けどまあ、少し寂しくもなるなぁ」


「だなぁ」


「それな」


 私たちの側の席で、正真正銘のお酒を飲んでいる冒険者のガルデさん、ケルさん、ヒーダさん。

 ちょくちょくこの宿を利用している常連さん。

 すっかり顔なじみだ。


 で、寂しいとはどういう意味かというと……


「そうだねぇ、部屋が二つも空いちまって、寂しくなるのと売り上げが減るねぇ」


「あははは!」


 魔導学園は寮生活。なので、合格すれば学園の寮に入ることになり……

 この宿とも、おさらばということになる。


 お客さんであった私とルリーちゃん、そして娘のクレアちゃんがいなくなるのだ。


「せっかくの若い女の子がなぁ」


「むさいおっさんにとっては癒やしだったんだが」


「まあ仕方ねえんだけどよ」


 私としても、わりと仲良くなった人たちだから、離れるのは寂しい。

 でも、一生会えないってわけじゃないんだし。


 とはいえ寂しいことに変わりはない。だから離れる前に、こうして飲んで騒いでとやっているわけだ。


「ま、いつでも遊びに来たらいいさね。エランちゃんも、ルリーちゃんも」


「そうします」


「ところで……ルリーちゃんずっとフード被ったままよね。なんで?」


「!」


 場に酔ったのか、少し顔を赤らめたクレアちゃんがルリーちゃんに話を振る。

 その内容に、ルリーちゃんは小さく肩を震わせた。


 いつも、ルリーちゃんがフードを被っているわけ……

 それは彼女が、ダークエルフだからだ。


 エルフ族は人々から敬遠され、中でもダークエルフの扱いはひどい。私もこの目で見たし。

 だからルリーちゃんは、人前でフードは脱がない。

 私の前くらいだ。


 クレアちゃんや、ここの人たちがいい人たちだっていうのはルリーちゃんも知っている。

 それでも、フードを脱がないのは……それだけ、彼女の負った心の傷が、深いということだろう。


「こ、これは……」


「ルリーちゃん、すごく肌が弱いらしいんだよ。

 だから、日に当たらないように」


 すかさず、ルリーちゃんへフォロー。

 わざわざバラしなんてしないし、ルリーちゃんが隠すつもりなら私も協力しよう。


「ふぅん。

 日に弱いって、吸血鬼ヴァンパイア族みたいね」


「あははは……」


 ここには、いろんな種族の人たちがいるから……あまり、不審には思われない。

 その気になれば、吸血鬼の血が入ってるとかなんとか言えばいいだろう。


 ……とはいえ、気をつけなければいけないことも多い。

 ルリーちゃんをいじめていた、あのダルマ男たち。あいつらも入学していたとしたら、わざとルリーちゃんの正体をバラす可能性だってあるのだ。


 その辺の対策も、考えとかないとな。


「ま、入学に備えて買うもんは揃えとくんだよ。

 制服とか、教科書とかね」


「そういうのって、売ってる場所あるんですか?」


「そりゃもちろん。

 学園系列の、専門店があったはずだよ」


 ふむ、専門店か……

 そういえば、魔導学園の制服ってどんな感じだろう。あんまり注目してなかったな。

 かわいい感じだといいんだけどな。


 じゃ、後日そこで、いろいろ揃えないとね。


「今からワクワクが止まらないよー。

 私、同世代の子と競い合ったりしたことなかったからさ。

 師匠にも、視野を広くって言われてたし」


 師匠は、言っていた。

 同世代の子と競い合い互いに高め合うのも、成長に繋がると。

 あのまま師匠と二人きりでは、成長にも限界がある。


 だから師匠は、私に魔導学園を勧めたのだ。


「その師匠さんって、よっぽど尊敬しているのね」


「えへへへ」


「はむっ」


「……」


 ふと、パンをかじっているルリーちゃんを見る。

 彼女は、エルフだってことでいじめられていた。


 もしも、師匠がエルフだって言ったら……みんな、どんな反応をするだろうか。

 昔なにがあって、エルフ族が迫害されたのかは知らないけど……

 もし、師匠を悪く言われるようなことがあったら、私は……


「エランちゃん、どうかしたかい?」


「! い、いえ!

 この料理、本当においしいなって!」


「はは、そりゃ嬉しいねぇ」


 やめよう、悪い方向に考えるのは。

 その時のことは、その時考えればいいさ。


 今は、せっかくの合格祝い、乾杯中なのだ。

 楽しまなくちゃいけない。


 この宿とも、あと少しでお別れ。

 つまり、タリアさんの料理ともあと少しでお別れということなのだから。


「んぐっ……ぷは!」


「おぉっ、いい飲みっぷりじゃねえか、嬢ちゃん!」


「うぃ〜。

 私は、魔導を極めてみせます!」


「いいぞいいぞー!」


「もっと飲みなー!」


 ええい、こうなったらとことん、堪能してやる!

 夜はまだまだこれからだよ!


 ……この数日後、私たちは魔導学園入学のため、あれやこれやを買いに行った。

 そしてついに、入学のその日がやってくる。

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