第26話 やたらとテンションの高いクレア&ルリー



「おかえり、エランちゃ……

 どうした?」


「ぜー、はー……」


 校内から外に出た私は、一目散にダッシュした。

 幸いあの男が追って来ることはなく、一定だった距離はみるみる離れていった。


 で、クレアちゃんとルリーちゃんが待っている場所まで、全力疾走してきたわけだ。


「な、なんでもな……はぁ、はっ……ないか……ぅえっ」


「なんでもないわけないでしょう!?」


「先生に呼ばれて帰ってきただけで、どうしてそんな状態に?」


 い、いけない、二人にいらない心配をかけてしまっている。

 二人の視点だと、私は先生に呼ばれて、着いていって、戻ってきたと思ったら息も絶え絶えなのだ。


「なんか、めちゃくちゃ走って帰ってきたけど……」


「ふ、二人に早く、あ、会いたくて?」


「なんで疑問形」


「なにか、変なことでもされたんですか?」


 変なことはされてないよ、されそうになったけど。

 それも、先生じゃなく私と同じ【成績上位者】に。


「ほんと、なんでも、ないから……

 はぁ、ふぅ……うん、大丈夫」


 師匠から、体も鍛えておけって言われて、鍛えてて良かった……だんだん、落ち着いてきたぞ。

 魔導士は魔導に頼りがちだから、不測の事態に備えて肉体も鍛えておくべし……と、度々言われたものだ。


 おかげで、ムキムキとはいかないけどそれなりに筋肉も体力もついた。

 なのにあれだけ疲れるって、私どんだけ必死に全力で走ったんだろう。


「はぁ……人間ってさ、怖いものに直面すると、自分の思っている以上の力が出るもんだね」


「本当になにがあったのよ」


 とにかく、合否発表も確認したので、もうここには用事はない。

 というか、いつまでもここに来たら、またさっきの男に見つかるかもしれない。

 私だけならともかく、クレアちゃんやルリーちゃんをあの変態とは会わせられない。


「二人とも、帰ろう。

 なにがあったかは……帰りながら説明するよ、多分」


「いやして!」


 次に魔導学園に来るときは、入学日になるだろう。

 いつだったっけ……帰ってパンフレット見直さなきゃ。


 そんなこんなで、私とクレアちゃんとルリーちゃんは、学外へと出る。

 学内にはまだ多くの人が残っている。喜んでいたり、落ち込んでいたり。


 人によっては、この場で交流を深めたりするのかもしれないな。


「で、なにがあったのよ」


「教えてください、心配です」


 帰り道、クレアちゃんとルリーちゃんに詰め寄られる。

 うーん、話すとは言ったけど、どこまで話していいものか。

 正直、私もなに言われたかさっぱりなのだ。


 なので、起こった出来事を纏めようと思う。


「私、先生に呼ばれたじゃない? 私を呼んだのは、理事長だったの」


「理事長?」


「そういえば、そもそも誰にどうして呼ばれたのかってところからよね」


「まー……簡単に言えば、私の成績が良すぎたから褒められた、みたいな?」


 とりあえず簡単に纏めた。

 間違ってはいないはずだ、うん。レベルの高い回答で好印象だったはずだし。


 二人は、「ふーん」といった様子だった。


「そこに、私だけじゃなくもう一人男の子がいたんだ。

 私と同じ【成績上位者】のヨルって名前の」


「へぇ?」


「じゃあ、【成績上位者】の三名が集められていたんですか?」


「いんや、私とその男だけ。

 もう一人の人は、まあ普通に優秀だったんだって。

 私たちは、ちょっと毛色が違ったみたい」


「なんか、よくわかんないわね」


「まあ、ここはたいした問題じゃないんだよ」


 理事長室に呼ばれた理由、それは本題ではない。

 そこでの話も、結局は私がエルフの師匠に昔の知識を教わっていたから、ですむ話だし。


 本題は、その後だ。


「私が疲れたっていうのは、ここからの話で」


「そう、よね。そこを聞きたいのよ」


「ですね」


 とはいえ……うーん、どう話そう。

 いきなり、イセカイだのテンセイだの、訳の分からない単語を出しても、二人は困惑するだけだろう。


 その辺りのむつかしい話は置いておいて、簡潔に、私がされたことを話せばいいんだ。


「理事長から話を聞き終わった私とヨルって男は、外に出たんだよ。

 そしたら、ヨルがいきなり、私に迫ってきたんだよ」


「せまっ……!」


「うん。

 壁際に追い詰められて、こう、壁に手をドンって」


「壁ドッ……!」


 あんまり思い出したくはない行動だけど、二人に説明するためには、仕方のない作業だ。

 うーんと顎に指をあてて、思い出す。


 思い出すだけでも、やっぱり気分のいいものではない。


「なんか、誰にもこんなことしないとか、俺と同じ境遇だとか、口早に言ってきてさ」


「誰にもこんなことしない……エランちゃんだけ、ってこと!?」


「同じ境遇……エランさんに運命感じちゃった、ってことですか!?」


 どうしたんだよう。

 なんか、二人ともテンション高くない?


「そんなことがあって、怖くなったから私、全力で逃げて……」


「えっと……ごめんエランちゃん、確認させて」


「なにかな?」


「二人は……エランちゃんと、そのヨルって男の子は、初対面なのよね?

 実は顔見知りでしたとかじゃなく」


「そうだよ」


 私の答えに、クレアちゃんはなんかきゃーきゃーと盛り上がっている。

 なんだ、どうしたんだ。

 頬に手を当てて、悶えている。


「しょ、初対面の男の子に、そんなこと言われて、そんなことされたってことですよね!?」


「そ、そうだね」


 なんか、ルリーちゃんのテンションもおかしい。

 こんなハチャメチャな感じだったっけ?


 二人はなんか、甲高い声を上げながらお互いに手を叩いている。

 私が見ていない間に、ずいぶん仲良くなったようだ?


 その後、宿への帰り道の中で……二人から、なぜかヨルについての話ばかりを、聞かれ続けた。

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