第14話 いざ、魔導学園入学へ向けて



 早いもので、この国に来てから数日が経った。

 基本的には宿でお世話になりつつ、空いた時間で魔導の練習。


 人通りの多い町並みではあるけど、魔導の練習ができるスペースがないわけではない。

 それに、なにも派手な魔導を使おうってんじゃないんだ。



『魔導学園入学の実技試験では、魔導の性能を見る。

 力、速さ、それに技量……様々な観点から見て、総合的に判断するんだ。

 力があってもそれを制御できなければマイナス、逆に技量があっても一定の力がなければこれもマイナスだ』



 とは、入学試験についていろいろと教えてくれた師匠の言葉だ。

 わざわざ、私のために試験の内容を調べてくれたのだろうか……!

 まあ、元々師匠が勧めた学園だけど。


 ある程度の練習は、部屋の中でもできる。

 例えば水の魔法を使う場合には、手のひらに球体形の水を作る。

 それを、形を崩さずにふよふよと浮かせたり、とかね。


 ……そういえば師匠、入学試験では魔法と魔術どっちかしか使っちゃだめ、とか言ってなかったな。

 どっちも使っていいのかな?


「エランちゃん、準備できた?」


「うん」


 っと、いけないいけない。

 入学試験に向かう今日、クレアちゃんと一緒に行くことに。

 部屋の外に待たせているんだった。


「お待たせ」


「まったく。さ、行くわよ」


 部屋を出てから、階段を降りる。


「おや、エランちゃん。似合ってるじゃないか」


「ありがとうございます」


 入学試験……というより実技試験では、動きやすい服装がいいだろうと言われたので、私はいつも履いているミニスカートじゃなく、短パンを履いている。

 クレアちゃんも同様だ。


 ちなみにこれ、クレアちゃんとの買い物で買ったものね!


 持っていくものは、入学試験を受けるための証明書と、文字を書くものと……


「二人とも、魔導の杖は持ったかい?」


「うん」


「えぇ、忘れ物はないわ」


 昨日、寝る前に何度も何度も確認したのだ。

 忘れ物がないように。


 魔導の制御が求められる実技試験では、魔導の杖は必須だ。

 これがなければ、自分の魔力を制御することも、ままならないのだから。


 ちなみに魔導の杖だけど、私は師匠に貰ったし、他の人も誰かしらから貰うのだと思っていたけど……

 なんか普通に売ってた。


「じゃ、しっかりやっといで、二人とも!」


「はい、いってきます!」


「いってきまーす」


 肝っ玉母さん……名前を、タリアさんと言う……の声援を受け、私とクレアちゃんは家を出る。

 この数日で、すっかり見慣れた景色が、広がっている。


 けど……見慣れたけど、今日はいつもと、少し違う気がする。


「エランちゃん、緊張してる?」


「うーん……どうだろ、クレアちゃんは?」


「……ちょっとね」


 これまで、人のたくさんいるところに長く滞在したことはないし、学園に入るために入学試験を受ける、なんて経験もない。

 だからか、少しドキドキしている。


 魔導学園への道は、もう何度も通って覚えた。

 クレアちゃんと並んで歩いて、しばらく……

 見えてきたのは、ひときわ大きな建物。


 そして、大きな門。

 これが、正門だ。


「なんだか、これから試験だって気持ちだと、一段と大きく見えるね」


「そ、そうね」


 学園自体には、何度も来た。道に迷わないようにするために。

 ただ、そのときに比べると、心構えのようなものが違って感じる。


 ここに来て、心臓がばくばく鳴っているのがわかる。


「い、行きましょう」


「そ、そだね」


 すでに、開いた門に次々と人が入っている。

 私たちと同じくらいの子たち……

 これ全部、入学試験を受けるのか。


 魔導学園は由緒正しき学園で、年々入学希望者が多いと、師匠は言ってたな。

 実際見てみると、その言葉の重みがわかる。


 どうやら、この魔導学園は教育に力を入れているのはもちろんのこと、卒業後の進路にも優位に働くらしい。

 曰く、高ランク冒険者になってあちこちから引っ張りだこ。

 曰く、王宮に仕える魔導隊に入ることだって可能。

 正直、それがどれだけすごいことかは、私にはわからないけど。


 だけど、それが"すごいこと"だと言うのなら。

 ここを卒業すれば、師匠に少しでも近づける魔導士になれるはず!


「よーし、やるぞー!

 …………あれ?」


 気合いを入れて、空に向かって拳を突き上げる。変な目で見られても、構わない。

 ただ、気づいたのだ……周囲が、静かすぎることに。


 あれだけの入学希望者がいて、こんなに静かなんてありえない。

 そう思って、周囲を見回すと……誰も、いなかった。


 ポツンと、私一人だけが、取り残されていた。


「あれぇ?」


 隣にいたはずの、クレアちゃんさえも。

 さては迷子か……と棚上げできるほど、この状況を理解できない私ではない。


 クレアちゃんが迷子なら、あのたくさんの入学希望者も迷子だろう。

 でも、多分それはありえない。


 だとするなら、私が迷子になってしまったと考えるのが自然だ。


「考え事してたせいかな」


 他にも、真っ白な学園の壁に見とれてたり、見たことない珍しい花に気を取られたり……

 あの人込みだ、クレアちゃんも流されてしまったに違いない。


「参ったなぁ」


 念のため、早めに来ておいたけど……この広い学園で迷子になるとか、シャレにならない。

 賑やかなところに、みんないるだろうし……まずはそこを、目指そう。


 ま、最悪空を飛べば、誰か見つかるはずだし……


「あ、声」


 そんなことを考えながら歩いていると、なにやら声が聞こえてきた。

 おぉ、とりあえず歩いていたけど、早速合流できたか!?


 自然と私の足取りは、軽くなる。

 クレアちゃんにははぐれたことを怒られるだろうけど、なんだかんだちょろいから、平謝りすれば許してくれるはず……


「帰れ! ここはお前なんかの来るとこじゃねえよ!」


「お?」


 草木をかき分けて、声のところへ出る……直前、聞こえてきた怒鳴り声に私は、身をかがめる。

 な、なんだよぉ……ちょっと迷ったくらいで、そんな怒鳴らなくてもいいじゃないかよぉ。


 こちらからも抗議しようと、草の間から少し顔を覗かせる……

 視線の先に居たのは、三人の男の子。

 その正面には、もう一人、誰かが座っている。


 もしかして、さっきのは私に言ったんじゃなく、あの子に言ったのか?

 けど、なんであの子は座って……いや、どっちかというと尻餅をついている、のか?

 それに、なんで顔を伏せているんだろう。


「わ、私は……」


「喋んな、この薄汚いエルフ風情が!」


「エ……」


 知っている単語につい、口をついて声を上げそうになってしまったが……寸前に、自分の口を塞いで、押しとどめる。

 あ、危ない危ない。気付かれていないな。


 いや、それよりも……

 今、エルフって、言った。あの、三人の中で一番偉そうな男の子が、倒れている子に。

 今まで、この王都でエルフを見つけたことはなかったのに。


 師匠と同じ、エルフ族。ずっと探していたんだ。

 ……なん、だけど。


「……エルフ?」


 エルフの特徴は、きらきらの金髪に白い肌、緑色に輝く瞳。そして、尖った耳だ。

 まあ、特徴と言っても師匠しか知らないんだけど。

 でも……


 エルフと言われたその子の体は。

 ここからでも見える。金髪でなく銀髪。白とは程遠い褐色の肌をしていた。

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