第11話 同年代の女の子



「……案内、って」


 二階から姿を現した、女の子。

 今、肝っ玉母さんにクレアと呼ばれていたから……彼女の名前だろう。


 肝っ玉母さんの話では、ウチの子も魔導学園の試験を受ける、と言っていた。

 そして、この気安い感じ……お客相手とも違う、親しみを感じるやり取り。


 なにより、クレアちゃんには肝っ玉母さんの面影がある。うん、似てる。

 この子は、肝っ玉母さんの娘で、魔導学園入学を目指している、で間違いはないだろう。


「案内もなにも、二階上がってすぐ部屋があるんだから、何番目かの部屋か教えれば住む話じゃ……」


「まーったくこの子は。

 せっかくあんたと同い年のかわいらしいお客さんが来てくれたんだから、少しは愛想よくしたらどうだい。

 というか、なんで寝癖ついてんだいみっともない」


「同い年……」


 そこまで言われて、クレアちゃんの視線はようやく私を見る。

 な、なんだか同い年の子に見られるのって、緊張するな。


 私のことを頭の先からつま先まで見ている感じだ。


「こら、お客さんをジロジロ見ない」


「はいはーい」


 ふむ、クレアちゃんはかわいらしい外見をしているけど、中身は思いの外大雑把なのだろうか。

 言葉の節々や、表情からもそれが見て取れる。


 それがわかっているのか、肝っ玉母さんははぁ、とため息を漏らす。


「まったく、ズボラっていうか、誰に似たんだかねぇ」


 なんとなく、二人の根本は性格がそっくりな気がする。

 まだ短時間も短時間しか接していないけど、わかる。


「相変わらずだねクレアちゃん」


「たまには笑顔も見せてくれよ」


「気が向いたら〜」


 お客さんたちも、クレアちゃんに対して好印象のようだ。

 そういえば、ギルドのおっぱいの受付さんも……看板娘がかわいい、って言ってたもんな。


 ただ、無愛想……とまではいかないけど、笑顔は見せないな。

 看板娘って言うからにはこう、もっとテンション高めの子をイメージしていたけど。


「まったく。

 エランちゃん、これが私の娘で、クレアってんだ。

 普段から愛想よくしろって言ってるんだけどねぇ」


「愛想とか言われて良くするもんじゃないし」


「あんたねぇ」


 これがいつもの光景なのか、お客さんも慣れた様子だ。

 仲が悪いわけじゃ、ないんだろうな。


 それからクレアちゃんは、再び私を見て。


「案内もいいけど、ちゃんとお金の話はしたのお母さん。

 あんまり物持ちがいいようには見えないけど……」


「こら、あんたって子は失礼だね」


 お金の心配……まあ、そりゃそうか。

 自分と同じくらいの女の子が、そんなに大金を持っているなんて思わないもんね。


 ま、私には師匠から貰ったお金と、盗賊退治の報酬がある!


「まあでも、確かに説明はしてなかったね。

 ごめんねエランちゃん」


「いえ、そんな」


「ウチは、三食食事付きの一泊銀貨二枚ってところだよ」


「銀貨二枚……」


 お金の種類……に関しては、師匠から教えてもらった。

 お金には基本、銅貨、銀貨、金貨、そして大金貨と種類があるらしい。


 それぞれの価値としては、確か……

 銅貨十枚で銀貨一枚。

 銀貨十枚で金貨一枚。

 金貨十枚で大金貨一枚……だったっけか。


「他の宿じゃ銀貨の四、五枚はするからな」


「それに、全部が全部食事が出るわけでもねえしな」


 他の客たちが、言う。

 その話が本当なら……まあ嘘をつく理由もないけど……この宿は、本当に良心的だということだ。


 と同時に、気になることも出てくるわけで。


「そんなに安くしておいて、大丈夫なの?」


「んん? あっははは。

 お客さんに心配されることじゃないさね!」


 あははは、と大笑いする肝っ玉母さん。

 どうやら、私が心配することでもないらしい。


 値段を聞いて、さてどうするか。

 といっても、宿の相場なんて知らないし、貰ったお金にも余裕はあるし……


「うん、ここに決めた」


「ありがとう」


 他に行く宛もないし、こんなによくしてくれる人だ。

 もう他に行く選択肢も、ないな。


「ってことだよ、クレア」


「はーい。

 じゃ、部屋に案内しますね、お客様」


「あ、うん」


 仕事と割り切ってか、丁寧な言葉遣いに。

 とはいえ、笑顔を見せてくれているわけでは、ないけれど。


 クレアちゃんは、肝っ玉母さんから鍵を受け取り、先に階段を登っていく。

 私は、それを追いかける形だ。


 階段を登った先には、長い廊下。

 左右に、いくつかの部屋が並んでいるようだった。


「えっと……エランさん、でしたっけ」


「さんなんて、そんな必要ないですよ」


「じゃあ……エランちゃん、で」


 コホン、とクレアちゃんは咳払い。


「この、一番奥がエランちゃんの部屋になります」


「おぉ、ここが……」


 部屋の中に案内される。

 そこは、一人で住むには充分の広さだった。

 それに、簡易的なベッドもある。


 これが、宿かぁ。

 部屋の具合はいい感じだし、これでご飯まで美味しかったら言うことはないな。


「ご飯は、一階で食べるでもいいし、部屋まで運ぶこともできます」


「へぇ。でも、せっかくならみんなと食べたいかな」


 みんながいるところで食べたほうが、美味しいもんね。

 師匠と暮らしているときは、よっぽどでない限りは一緒に食べていた。


 一人だと、寂しいしね。


「なにか、気になることとか……」



 くぅ……



「あ、はは」


 どうしよう、せっかくいろいろ説明してくれてるのに、お腹が鳴っちゃった。

 なんとかごまかせ……てないよね。


 クレアちゃんは、そんな私を見て……

 軽く、笑った……?


「では、夕食にしましょうか」


「うん!」


 荷物を置いて、私はクレアちゃんと、再び一階へと舞い戻った。

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