第9話 冒険者ギルドへ



「おぉお……!」


 門の向こう側へと、足を踏み入れる。

 そこに広がっていた景色……私は思わず、声を上げた。


 これまでにも、師匠と何度もこの場所には足を運んでいる。だから、見たことないものがあるわけではないけれど……

 私一人で、足を踏み入れるのは、初めてだ。


 だからだろうか。いろんなものが新鮮に見えて。


「わ、わぁ!」


 右を見ても、左を見ても……人、人、人。

 それに、おっきな建物が、たくさん並んでいる。

 今まで暮らしていた場所には、決してなかった光景。


 人がいっぱい、歩いている。

 人だけじゃない。獣人、亜人と呼ばれる種族も。

 それに、飼われているのかモンスターもちらほら。


「っとと、いけないいけない」


 見とれている場合ではない。観光は後でもできる。

 ただでさえ、盗賊と門のところで時間を取られているんだ。


 まずは、この盗賊を売って……あ、引き渡して。

 それから、宿探し。

 それに、時間があればちゃんとした通行証の発行。


 そのすべてをやってくれるのが、ギルドという場所だ。


「国の中心部、って言ってたっけ。

 なんでも屋さんみたいなところだよね」


 とりあえず、歩こう。わからなければ人に聞けばいいんだし。

 いつも師匠の後ろを歩いていたし、少し緊張するな。


 師匠は、ギルドってところに行ったことがあったっけ……

 どのみち、覚えてないや。


 ……それにしても。


「視線を、感じる」


 先ほどの、門のところと同じだ。視線を感じる。

 周りから、じろじろとはいかなくてもちらちら視線は感じる。


 ただ、その理由はわかっている。同じだ。

 多分、この盗賊のせいだろう。


 か弱い女の子である私が、こんなイカツイ盗賊三人を運んでいる光景。

 目立つなという方が無理だろう。


「この人たちも、チームワークはそれなりだったんだけどな」


 思い出すのは、盗賊に襲われたとき……思いの外、その連携が良かったこと。

 相手を撹乱し、三人で囲み倒す……その戦法は、見事だった。


 どうしてその力を、盗賊なんかに使ってしまったのだろうと、不思議でならない。


「えっと……あ、あそこかな」


 それからも視線をちくちく受けながら、しばらく歩き……ある建物の前で、止まる。

 他の建物に比べて、一回りも大きな建物。


 看板には『冒険者ギルド本部』と書かれている。

 門番のおじさんの話だと、本部だけでなく支部とやらが、あちこちにあるらしい。


 冒険者、と名前が付いているのは、主な業務が冒険者に関するものだから。

 今の私には、まあ関係のないことだ。


 ま、そんなこんなで……突入〜。


「こんにちはー! あ、こんばんはかな?」


 私は、スイングドアを開いて建物の中に足を踏み入れる。

 つい昼間の挨拶をしてしまったが、もう日が傾いている。


 とりあえず挨拶は大事だ。

 声を張り上げると、中にいた人たちの視線が一斉にこっちに向く。


「わ」


 たくさんの人から向けられる視線。

 さっきみたいに、ちらちら見られるのとはまた違った感覚だ。


 だ、大丈夫大丈夫。別に私、悪いことしにきたんじゃないんだから。

 私は、歩みを進める。


「子供……? なんでこんなところに」


「てか、後ろの男たちなんだよ。ボロボロだぞ」


「ひゅー、こわ」


 なんかぶつぶつ聞こえるなぁ。

 落ち着け、落ち着くんだ私。


 様々な視線を受けながら、私は受付へ。

 幸いにも、今は空いているようですぐに順番が来た。


「お疲れ様です。どのような要件でしょう?」


 受付のお姉さんは、私を見てにっこりと微笑む。

 たくさんの人を相手にするからだろうか、人当たりの良さそうな人だ。


 私を不審がっているのかわからないけど態度には出さない。

 ストレートの茶髪サラサラだなぁ、いい匂いしそう。制服も似合ってるし。

 それに美人だし、おっぱいも大きい。


「えっと……

 この盗賊たちを、売りたいんですけど」


「売り……?」


「あ、引き渡し、です。

 盗賊……えっと、賞金首、かもしれないので」


 危ない危ない、売るだなんて人聞きの悪い。

 これは正式に、平穏のためにやったことなんだから。


 拙い私の説明を、しかし受付のお姉さんは嫌な顔ひとつせずに聞いてくれる。


「まあ、盗賊を三人も捕まえたんですか?

 すごい!」


「あ、わ、えへへ……」


 うわ、なんだろこれ……

 こんな風に誰かに褒められるのは、なんだかいい気分だ。

 もちろん、師匠からも褒められるときはあったけど……


 知らない人に、っていうのが、なんか違って感じる。


「ちなみに、あなたは冒険者ですか?」


「いえ、私魔導学園に入学するために、ここに来たので……」


「ということは、冒険者どころか学園の生徒でもない?

 なのに、盗賊を……その年で、相当の実力者なんですね」


「い、いやぁ」


 このまま褒め続けられるのも悪くはないけど、ひとまず話を先に進めよう。

 盗賊を引き渡したところ、最近近隣の旅人などを襲う盗賊として、手配されていた三人だった。


 特徴的な髪型ということで、すぐに照会してくれて……

 盗賊退治のお礼を、貰うことができた。


「おぉ……!」


 これが、労働の対価……!

 まあ、労働じゃないけど。


 これでまた、お金が増えた。

 そして、お金といえば忘れてはいけないものがある。


「あと、この近くに安い宿はないですか?」


「宿、ですか」


 そう、宿だ。魔導学園の入学試験を受け、そして合否が出るまでの期間を泊まる宿。

 どれほどの期間になるかわからないから、できるだけ節約はしておきたい。


 ただ、もしその間にお金が尽きるようなことがあったときのために、お金を稼ぐ方法も聞いておいたほうがいいだろうか。


「そうですねぇ……

 お嬢さんなら……この辺りで評判が高いのは、ここですね」


 お姉さんは、この国の地図を取り出し、広げて見せてくれる。

 現在地、そして目的の宿屋を、それぞれ指さしてくれる。


 地図だからおおよそでしかわからないけど、ここからそう遠くないな。


「ここ、安い?」


「手持ちの金額にもよりますが、この宿屋は食事付きで良心的な値段だと、よく耳にしますね」


「食事付き……」


 食事付き……その単語を聞いて、くぅ、とお腹の音が鳴る。

 考えてみれば、師匠の家を出てから、なにも食べていない。

 私の腹の音が聞こえたのか、お姉さんはクスッと、笑う。


「料理も美味しいと評判ですよ。

 それに、看板娘が元気でこっちも元気を貰える、と」


「へぇ」


 そこまでオススメするなら、その宿屋に行ってみようかな。

 お金も、師匠から貰った分と盗賊退治の分で、結構あるし……


 行ってみるか!

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