第8話 ようこそベルザ国へ



 怪しい……怪しい? 私が?

 まさか、そんなわけがない。


 私は、か弱いただの、女の子だ!!


「わ……」


「わ?」


「わ、わたちぃ、ただのかよわい、女の子でつぅ」


「か弱い女の子は、そんな柄の悪い大男をボコボコにはしないんだよ!

 あとその喋り方やめなさい!」


 ふむ……つまりは、アレだ……

 そう、この盗賊のせい、だと。


 なんてことだ……こいつら、ここに来て私の足を、引っ張るっていうのか?

 せっかく、金になるから連れてきたのに……


「これは、その……

 ひ、拾った、んですぁ」


「拾った……」


「へ、へへ」


「……大の大人三人を、浮かせている……魔導……?」


 なんだか自分でもよくわからない喋り方になっている間にも、門番の人はなんかぶつぶつ言っている。

 というか、私一人にこんなに時間をかけていていいんだろうか。

 まあ、私の後ろにはもう誰も居ないし、そもそも私が言うなって感じだが。


 それから、門番の人は、私のことを観察するように見てくる。

 その視線は、徐々に下がっていく。


 別に、体を見られようがなんともないけど……

 ただ一つ、思うことがある。


「めっちゃ太もも凝視してくるやん」


「!?

 ち、ちがっ……その杖だ! 私が見ていたのは!」


 私の言葉が聞こえていたのか、門番の人は顔を赤くして、私の言葉を訂正する。

 彼が凝視していたのは私の太もも……に巻いてあるホルダーに差した、魔導の杖だった。


 なーるほど。盗賊が浮いている理由を観察していたわけね。

 もしかして、さっきいろんな人からの視線を感じたのも、私の髪の色ではなく、ボコボコに浮いていた盗賊のせいか。


「コホン。

 見たところ、彼らは盗賊のようだが……キミが退治したと?」


 うーん、どう答えるべきか……

 盗賊浮かせてるだけで変な疑惑かけられるなら、下手なことは言わない方がいいかな。


「違います、拾ったんです」


「……そうか。まあそうだよな、キミのような子供に、三人もの盗賊を倒すのは無理か」


 …………うん。

 まあ、ここは嘘をついてでも、事態を穏便に済ませよう。

 嘘はダメだって師匠は言ってたけど、仕方ない。


「いや、でもな……」


「ってことで、通してください。

 この盗賊持っていけば、お金もらえるんでしょ?」


「……キミは、盗賊をボコボコに倒してはいないんだよね?」


「はい」


「その辺に捨てられていた盗賊を、拾ってきただけだと」


「その通りです」


「なら、盗賊討伐の手柄はキミにはないから、残念ながら賞金はもらえない……」


「この盗賊は私がボコボコにして、ここまで連れてきました」


「……」


 うん、やっぱり嘘は良くないよね。

 嘘はダメだって、師匠は言ってたし。

 ね!


「やっぱり、そうなのか」


「やっぱり……?」


「ここで門番をしていると、一日に何人もの人と接するんだ。

 他国の商人、中には貴族や冒険者なんかも……

 だから、その人がどれくらいの強さを持っているか、だいたいの予想はつくんだ」


 ほぅほぅ。

 つまりは、この門番の人、私が弱くないって思ったうえで、やっぱりって言ったわけか。


 そりゃ、私が見た十分程度であの人数だもんね。

 一日あればどれだけの人がここを通るのか。


 じゃあ、さっき並んでいたいろんな恰好の人は、その貴族とか冒険者とかってやつなのか。


「カマをかけるようなことを言ってごめんよ。

 大丈夫、別にキミが倒していてもいなくても、盗賊を連れてきたのがキミなら賞金はキミにもらえるはずだ」


「あ、そうなんだ?」


「あぁ。盗賊を倒したのが別の人でも、その場に放置するのはいただけないからね。ここまで運んできた人に賞金は払われる。基本的には。

 それに、盗賊を倒した後にモンスターに襲われて命を落とす人も少なくはないから。

 ……あ、だけど他の人の手柄を横取りしたって可能性もあるから、その辺りの質問はされるだろうけど」


 ずいぶんと、丁寧に教えてくれる人だな……さっきまでは、てっきり私に意地悪しているのかと思ったけど。

 なんだ、話してみればいい人じゃん!


「ありがとう、門番のおじさん! 親切だね!

 でも、親切にかこつけて人の太ももじろじろ見るのは止めた方がいいよ!」


「ぬ……だからあれは……

 というか、私にはキミと同じくらいの娘がいるんだ。そんな子を邪な目で見たりはしない」


「へぇー」


「それで……キミがこの国に入りたい目的は、盗賊引き渡しのため?」


「いや、違う違う!」


 おっと、危ない危ない。盗賊なんかで時間を取られている場合じゃないんだ。

 私がここまで来た理由は、別にある。


 そう、王都パルデアにあるという、魔導学園に入るために!


「実は……」


 この人なら、話せば事情をわかってくれそうだ。

 というわけで、私はここまで来た経緯を、説明する。



 かくかくしかじかちょもらんま



「そうか……魔導を学ぶために、魔導学園に入学を。

 それに、そのために一人暮らしを」


「はい、そうなんですよー!」


「師匠を超えたい……か。うん、良い目標じゃないか。

 実を言うと、ウチの娘も今年魔導学園に……」


「それで、通っていいですか?」


 なんか、話が長くなりそうだった。

 家から出て、盗賊の相手をして、正直くたくただったりする。

 とりあえず休みたい。


「そ、そうだったね。

 目的も不純なものではないし……はい」


 私がここに来た理由を知り、門番の人は懐から、カードを取り出して。

 それを、私に手渡してくれた。


「これは……」


「それは、仮の通行証だよ。

 正式なものは、ギルドで作ってもらうことになる」


「ギルド……?」


「さっき言った冒険者の受付、みたいなものかな。

 基本的には、ギルドに行けば大抵のことは解決するから」


 うーん、ここでパッともらえないのか。

 まあ、警備上仕方ないのかな。


 それを受け取り、ついに国内へ入る許可を、私は手に入れる。

 ……これから、ついに魔導学園へ挑むための、第一歩になるのか。


 うぅ、なんだか……


「燃えてきた!」


「うぉ?」


「門番のおじさん! 私、頑張るよ!」


「あぁ、うん……頑張れ」


 おじさんは、あっけに取られたように笑う。

 ここから、私の新しい生活が始まるんだ!


「ようこそ、ベルザ国へ」


「うん! じゃ、いってくるよ!」

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