第7話 怪しいのはキミだ



「エッラン♪

 エッラン♪

 私の名前はエラン・フィールドぉ〜♪

 とっうぞっくだって、ちょちょいのちょい♪」


「……」


 私は、上機嫌で道を歩いていた。

 いやぁ、まさかこんなに早く、資金源を得ることができるだなんて、思っていなかった。


 さっき私を襲ってきた盗賊。

 それらを返り討ちにして、縛り、こうして三人纏めて運んでいる。


 もちろん、三人の大男を私のようなかよわい女の子が持ち運べるはずもなく。

 魔法を使って、三人を浮かせている。

 魔術でないのは、こんなことのために精霊さんの力を借りるのは申し訳ないからだ。


「ぅぐ、ちぐじょお……」


 顔がパンパンに腫れ上がった男が、力なく言葉を漏らす。

 まだ意識があったのか。


 それにしても……本当にこんなのが、お金になるのだろうか。

 いやもちろん、私は平穏のために、盗賊を捕まえたわけだけど。その報酬として、たまたまお金が入るだけのこと。


 魔導学園に入学し寮に住むにしても、入学試験から合格発表まで、どこか宿でも見つけて生活しなければいけないのだ。

 師匠からあらかじめ貰ったとはいえ、お金があるに越したことはないのだ。


「まったく、余計な時間を取られちゃったよ」


 これでまったくお金にならなかったら、私、怒っちゃうよ。ぷんぷん。

 賞金首(暫定)とはいえ、人を捕まえてお金に変えるのか……

 放置しておいたら他にも迷惑をかけるから、その対策も兼ねているのだろう。


 お金になるんなら、捕まえようとする人もいるもんね。

 私は! お金じゃなく平穏のためだけどね!


「あ、見えた」


 盗賊のせいで少し手間取ってしまったが、視線の先についに、目的の場所が見える。

 大きな国……あれが、王都パルデアだ。


 国全体は円状の壁に囲まれているらしく、国の中に入るための門は主に二つ。おっきい門だ。

 そのどちらにも、門番がいる。なんか鎧着ている。

 変な人をいれないための警備だと、師匠は言っていた。


 さて、師匠がいないで入るのは初めてだけど……私も、何度も入ったことがあるんだ。

 大丈夫、大丈夫。


 見えてから実際に着くまで、パルデアまでまだ距離があったけど……

 一人でここまで来たという物珍しさに周囲に気を取られていたせいか、あまり時間は気にならなかった。


「お」


 門まで、もうすぐ。

 そこで、私は気づく。私以外にも、国の中に入ろうとしている人たちが、いることに。

 なんか、いっぱいいる。それも、いろんな恰好をした人たち。

 小綺麗だったり、逆に服が汚れていたり。


 彼らは一列になって、門番の人に見守られる形で門をくぐっていく。

 ちなみに、門は大門と小門の二つが並んであり、人が通るのは小門を使う。


 まあ、あんな大きな門を一々開け閉めするのは、大変だろうしなぁ。


「並べば、いいのかな」


 さすがに、列を作っている人たちを押しのけて行ってはいけない……それくらいの常識は、わかる。

 私、常識人だから!


 長い列に並ぶ。

 この人数だし、結構時間がかかるのだろうか。


「……」


「……」


「ん?」


 なんだろう、なんだか視線を感じるような……

 師匠は、私の黒髪に黒目は目立つから、と言っていた。そのせいだろうか。


 確かに、見た感じみんなカラフルな髪の色だ。

 この盗賊の三人だって、赤、青、黄と実にカラフル。

 まるで……


「……まるで、なんだろ」


 その間も、列は進む。

 門番の人との距離が近づいていく中で、私は気づく。


 みんな、なにかを門番の人に見せている……?

 それから、なにか一言二言話してから、門の向こう側へ。

 紙……いやカードかな。なんだあれ。


 ……そういえば、師匠もなんか、カードみたいなの見せてたような。

 私は着いてきただけだから、なんとなくしか見てなかったけど。


 もしかして、あれがないと国に入れない?

 ……いやいや、師匠もそうならそうと言ってくれるはずだし。

 師匠がなにも言わなかったってことは、大丈夫!


 うん、みんなとおんなじように、入れば大丈夫。


「どうも、お願いします」


「はい、確認しました。お疲れ様です」


「どもー、今日は楽勝でしたわ」


「ご苦労様です、これからギルドですか。お気を付けて」


「おにゃしゃーす」


「はいどうも……

 って、待ちなさい待ちなさい」


 引き止められてしまった。


「なんですか?」


「なんですか、はこっちのセリフなんだが。

 通行証は?」


「つーこーしょ?」


 門番の人に止められて、聞いたことのないものを求められる。

 なんだろ、つーこーしょって。食べ物?

 もしかして、この人に食べ物あげないと、通してくれないの……!?


 ははーん、さてはさっきのカードも、なんかそういう……そういうアレだな?


「え、ええと……

 ……あ、食べかけのクッキーなら、どうぞ」


「なんで!? 通行証出してって言ったんだが!?」


 懐を、ポケットを探り、食べかけていたクッキーを取り出す。

 食べかけていた上に、ポケットの中に突っ込んでいたので、ボロボロだ。


 けど、怒られてしまった。

 やっぱりボロボロだからかな。でも、まだ食べられるはずだけどな。


「……もしかして、通行証を持っていない?」


「その……つーこーしょってなんですか?」


「……」


 胡散臭いものを見る目で、私を見てきやがる……!

 こんな目で誰かに見られたのなんて、初めてだ。


 なんとか言葉を返したいけど、残念ながらつーこーしょがなにかわからない私には、選ぶ言葉がない。


「通行証って言うのは、このベルザ国に入るための許可証だよ」


「べるざ……?

 ここってパルデアじゃないの?」


「パルデアは王都の名前だよ、国の名前はベルザ」


「……?

 ……??」


 まあ、パルデアがここだって言うなら、いっか。

 それよりも問題は、つーこーしょという名の許可証のことだ。


 おそらくあのカードが、そうなのだろう。

 師匠も持っていたし……くそぅ、師匠め、黙って……いや、忘れていたな。

 意外に抜けている所があるんだよな、師匠。


「それで、持ってるの? 持ってないの?」


「持ってないです、通してください」


「ダメだよ!? 通行証がないと通せないから通行証なんだよ!?」


 なんだよ、ケチ。

 私は別に、悪いことをしに来たわけでは……


 って、そうか。

 そういった、悪いことをしに来たかどうかを選別するための、許可証なのか。


「じゃ、じゃあ、私、この国に入れない……?」


 ま、まさか……

 魔導学園の試験を受ける前に、国に入ることすら出来ずに、追い返されるの……!?


「いや、然るべき手段で通行証は発行できる。

 でないと、通行証を無くしたりした人は、出入りできなくなってしまうからね」


「なぁんだ、よかったぁ」


「ただ……」


 よかった、中に入れる。

 それがわかり、一安心なのだが……

 門番の人は、視線をさ迷わせ……


「キミを、国に入れていいものか」


 なんて、ほざき始めた。


「な、なんでですか! おうぼうです!

 あれですか、髪の色が黒いからですか! 私だけ仲間外れですか!」


「ん、んん? いや、髪の色は関係ないし、確かにキミの髪の色は珍しいが……

 問題としてるのは、そっちだよ」


 私の剣幕に押されつつ、門番の人は私を……私の隣を、指さす。

 そこには、ボコボコにして魔法で浮かせた、三人の盗賊の姿。


「……?」


「いや、?、じゃなくて!

 怪し過ぎる!」


「怪しい……?

 確かにこの三人の髪型はトサカみたいですし、この風貌も世紀末みたいですけど。

 それだけで、国に入れないって言うのはさすがに……」


「怪しいのはキミだ!」


 まるで、聞き分けのない相手に言い聞かせるかのように、門番の人は言い切った。

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