第19話 愛しい貴方へ

コイツら.....というか。

環と手鞠な。

俺は.....眉を顰めながらその様子を見る。


頑固親父の様に、だ。

先輩。幾ら何でもキモいです、と言われたがもう動じない。

試合が始まってもそんな感じだった。


「はぁ.....もう。先輩。.....活躍してますよ。お姉ちゃん」


「そ、そうだな」


「お姉ちゃん必死にボール取りに動いてますね」


「.....そうだな」


言い忘れていたが.....鈴は運動部でもバスケ部だった。

俺はダンクシュートとかをかます鈴を驚きながら見る。

すると大宮が、凄いだろ。やっぱり鈴は、と悲しげに見ていた。


俺は?を浮かべて、大宮?、と問うと。

手鞠が解説した。

姉ちゃんですが.....嫉妬しているんですよ、と苦笑しながら。

すると大宮が、ばっか!話したらダメだっての!、と手鞠の頭をグリグリする。

俺は、成程な、と思いながら2人を見る。


「.....大宮さんは.....参加出来なかった事を悔やんでいるのですか?」


「.....そうだね。選手に選ばれなかったのが悔しいかな」


「.....まあこればっかりは運だからな.....」


「そだな。それから才能な」


「.....そんな事は無いだろ。誰よりも頑張っている様に見えるが」


バッシュをこんな場所で履くぐらいだしな、と俺は汚れたバッシュを指差す。

その事に大宮は胸を隠す仕草をする。

何だお前口説いているのか、と言いながら。

コイツ何言ってんの?

俺は額に手を添える。


「違うっての。お前の頑張りを認めてやってんの。分かるか」


「.....そうか」


「.....タコも出来ているじゃねーか。手に」


「.....よく分かったな。あまり手を広げてないのに」


「まあな。瞬時に見るのが得意なもんだからな。顔とかの表情も」


「そっか」


大宮は照れ照れしながら後頭部に手を添える。

そして改めて試合を見ると。

鈴がボールを相手選手から奪っていた。

それから.....スリーポイントを狙っている。

俺は、鈴!!!!!、と絶叫する。


「決めて!お姉ちゃん!」


「鈴さんー!」


それからスリーポイントを狙ってゴールに打ち込んだ。

俺達は歓喜に包まれる。

のだが.....。


実はこの試合はかなりの強敵と対戦していたらしく。

トロフィーとかを何十個も取っている強豪校だったらしい。

鈴のチームが敗北してしまった。



「.....鈴を探そう」


「そうですね.....」


「.....鈴さん大丈夫かな」


昼飯も食わず熱戦を鑑賞してしまった。

大丈夫かな食材。

そんな考えで試合後に鈴を探していると。

公民館の裏側。

そこで泣いている鈴を見つけた。


「.....鈴」


「.....こ、来ないで。恥ずかしい」


「.....お姉ちゃん。仕方がないよ。今回の試合は」


涙がずっと出ている。

堪えきれない様だ。

途中まで勝っていたしな。

それが逆転されたのだ。

その悔しさといえば.....半端じゃないだろう。


「鈴!」


俺は神妙な顔をしているとその様に大宮が絶叫を挙げる。

そして鈴を思い切り抱きしめる。

汗だらけだろうけど.....そんな事も構わずに、だ。

それから頭を撫でる大宮。

アンタはよく頑張った、と言いながら。


「.....弓.....でも私.....負けた.....」


「強豪校に40点も取れれば最高だろ。結果は10点差で負けたけど.....でも俺はお前が頑張ったと知っている」


「.....せっかく貴方とデート出来ると思ったのに」


「いやそっちかーい!!!!!」


何でだよ!!!!!

見れば手鞠とか真っ赤になっている。

大宮も目をパチクリしていた。

鈴は、えへへ、と顔を上げてから大宮の手を握る。

有難う。弓、と言いながら。


「はぁ.....。まあその。.....勝っても負けても俺はお前とデートするつもりだったぞ」


「.....え!?本当に!?」


「そうだ。.....ご褒美としてな」


「.....そうなんだ」


すると鈴は勢い良く立ち上がる。

それから何を思ったか俺に抱き着いて来た。

何.....、と思いながらユニフォーム姿の鈴を見る。

鈴は、こういうのもして良いって事だね。ご褒美なら、と笑顔を浮かべる。

花咲く様な笑顔を。


「ば!お前!人が見ているっての!」


「人が見ていても知り合いだし」


「そういう問題じゃ!?おい!誰か助けてくれ!」


「「「ごゆっくりー」」」


やれやれと言いながら。

コラァ!薄情だなお前ら!

鈴香はベッと舌を出して去って行く。

このままではどうしようもない!

助けてぇ!


「ね。雫くん」


「な、何だ」


「.....こっち」


「.....こっち?こっちってど、何処に行くんだ!?」


「良いから。.....キスしたい」


ばっ!!!!?

俺はそのまま!?と思ったが。

裏の誰も居ない場所に連れて行かれてからそして俺の頬が掴まれる。

見上げてきた真っ赤な鈴にキスをされた。

俺は真っ赤になりながら硬直する。


「.....ふふ。.....有難う」


「.....お前な.....」


「これが最高の疲れの取り方。.....さんきゅ」


「.....負けた悔しさもか?」


「うん。本当に負けて悔しいけど.....好きな貴方が見てくれたから。.....もう良いんだ。私」


そして離れる鈴。

着替えてくるね、と手を振ってからそのまま俺を見てくる。

そうだな、と俺は返事をしてから鈴を見る。


鈴。飯を食おう。一緒にな、とも。

そんな鈴は、うん!、と完璧な笑顔を見せてから駆け出して行く。

その姿は.....俺にとっては煌めいて見えた。

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