第16話 和菓子

思ったが。

停電は.....10年前もあった。

あの大水害。


俺の母親の命も奪ったが.....姉妹の母親の命も奪った。

その絶望と言ったら全てを通り越すだろう。

簡単に言えば太陽で身体を焼かれるぐらいの絶望感だ。

つまり.....泣き叫んでもおかしくない感じ。


だがこの原因の一に高橋が絡んでいる事。

その事で感情が怒りに変わった。

だけど今それを考えても仕方が無い。

もう過ぎてしまった事は.....後悔しても仕方がない。

親父がそうまるで明言の様に告げたから。


「お兄」


「.....おう。どうした」


「.....春香さんの事は許すの?」


「.....それはまあ許せない。.....だが.....恨むのが全てなのか、とは思い始めたけど」


「.....今回の件で?」


そんな会話をリビングでする。

俺は目の前の煎茶を飲みながら、ああ、と湯気を見ながら答える。

それから目の前の和菓子を見る。

和菓子を食べながら環は俺を見てくる。

神妙な顔をしながら。


「.....正直。春香を許す事はしない。.....だけど多少だけでも認めるのはアリかな、と思い始めた」


「認めるってのは?」


「まあそうだな.....春香の想いをな」


「.....成程ね」


和菓子を食べる手が止まる環。

俺はその姿を見ながら熱い煎茶を飲む。

一口二口と.....口を洗浄する様に。

それから環を見る。

環は顎に手を添えていた。


「私は絶対に許せないけどね」


「.....俺の事を思って、だろ」


「そう。.....仮にもお兄を放っておいたのは事実。浮気したのも事実。.....これで許すのは甘いと思う」


でもね、と環は手を膝に乗せる。

俺はその姿を見ながら?を浮かべる。

そして環は俺を見てきた。

甘くても.....春香さんは春香さん。

私は春香さんとは昔から一緒だったから、と切り出す。


「.....だから春香さんの全てを恨むのはおかしいかなって思う。お兄の言う通り」


「.....そうだな」


「1割ぐらいは認めても良いかなって思う」


「.....そうだ.....な」


そして俺達は和菓子を食べ始める。

それから嵐の外を見る。

相変わらずの嵐のままだった。

困ったもんだな、と思う。

俺は前を見る。


「.....春香はな。.....ヨリを戻すとは言ってない。.....応援するって言ってた」


「.....そっか」


「.....仮にも幼馴染だからどうにしかしてやりたい。.....今の状況は地獄すぎる」


「だね。それは言える。.....私も協力するよ」


「警察とかは潰されていると思う。.....国会議員だしな相手は」


「.....無茶苦茶だね」


まあガキなりに抵抗してみるさ、と答える俺。

そして煎茶を飲みながらダンッとコップを叩き付ける。

この有様は本当に地獄だからな、と言いながら。

分かるお兄の気持ち、と環は真剣な顔をする。


「.....許せない。高橋は絶対に」


「.....そうだな。.....まあでもそれは置いて。.....なあ。お前も応援来るか?鈴の」


「.....あ。私も行く。絶対にね」


「そうか。じゃあ連絡しておかないとな」


そうしていると環が、そういえば私ね。告白された、と話した。

俺はコップを握る腕力が小さくなる。

そしてガタンと机に手が当たる。

なんだ.....と、と思いながら。

告白だ、と?!


「.....許せん。何処の馬の骨だ」


「.....お兄?.....何?シスコン?」


「俺はシスコンだぞ」


「.....キモイよ?お兄?」


たかる蝿は払わなければなるまい。

死体を埋没するか?

俺はゆらりと思いながら環を見てみる。


すると環は、はぁ、と言った。

そして、私は断ったよ。告白、と言ってくる。

素っ頓狂な目になる。


「.....何で断ったんだ?」


「.....シスコンの兄が居るからって」


「.....マジに?」


「そんな訳ないでしょ。それは冗談だけど.....でも。.....今は付き合う気にならないかなって思ったの」


「.....そうか」


でもね。お兄。今回の件で知ったの。

と唇を噛んで言ってくる環。

俺は?をまた浮かべながらまた環を見る。

環は、春香さんがどういう想いだったのかな、って、と環は俯く。


「.....!」


「.....今回、告白されて分かった。お兄の想いも。苦悩しているのを」


「.....」


「だからこそ.....私は一歩を踏み出さないとって思った」


「環.....」


だからお兄。

今の状況が少しだけでも良くなる様に頑張ろう。

そして.....また日常を取り返そう、じゃないと.....高橋の言いなりだから、と言葉を発する環。

俺は無言で環を見る。

決意した顔の環を、だ。


「.....危険が伴うかもしれない」


「.....お父さんの様に左腕を失う訳じゃないから」


「だが.....」


「.....お兄。協力したいの」


「.....」


煎茶の入ったカップを見る俺。

こんな良い妹まで巻き込むのが抵抗がある。

心が本当に痛すぎる。

だがそんな手を環が握ってきた。

それからジッと俺を見てくる。


「.....お願い」


「.....分かった。そこまで言うなら一緒にやろう」


「うん。.....有難う。お兄」


「今は.....鈴の大会の事を考えよう。高橋の事よりな」


「.....そうだね!」


ニコッと笑顔になる環。

俺はその顔に柔和になりながら涙を拭った。

そして俺達は和菓子を食べ始める。


本当に.....良い女の子だよな環って。

でもたかる蝿は払わなければな。

思いながら俺はグッと握り拳を作った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る