第15話 停電

『.....そうか』


職場に居る親父はかなり重たい.....まるでダンベルを胸に秘めている様な。

そんな重たい口調で話してきた。

家に帰ってから親父に直ぐに電話をしてから。

これまでにあった全てを曝け出した。

その親父の反応だ。


『環も聞いているのか』


「.....環にも話した。.....親父。.....人を恨んだらダメという教育方針だけど。.....俺は絶対にこの恨みは忘れない。この家の全てを破壊した高橋を」


『気持ちは分からんでもない。.....だがここで手を出したら負けだ。.....分かるか。雫』


「.....でも親父.....」


『ダメだ。手を出す事は絶対にダメだ。.....負け人になりたいのかお前は。.....どれだけ恨めしくても手を出してはコチラの負けだからな』


親父はあくまでマイペースな感じで切り出してくる。

相変わらず.....人を恨まず。

憎まずの.....感じで。

そんな姿に憧れて俺達は.....この世界を見てきた。

そして今に至っている。


『.....母さんが泣く。.....だから絶対に恨むな。.....そういう奴らには天罰が降る。そのうちにな』


「お母さんだって殺されたかもしれないんだよ。お父さん」


『.....環。.....気持ちは分からんでもない。.....だが娘と息子のお前達に言いたい。.....人は必ず良き事をしている人に情けはくるから』


「.....」


『.....だからこそ人を恨むな。私は神というものを信じていないが。.....そういうのは信じられる』


「.....お父さん.....」


だからこそ今は前を見るだけだ。

高橋の事など.....最早考えるだけで無駄だよ、と言ってくる親父。

俺は天井を見ながら、まあそうだな、と返事をする。

そして嵐になっている外を見る。


『すまないが今日は帰れない。.....嵐になってしまったから。.....2人で自由にしておいてくれ』


「.....ああ。気を付けてな。親父」


『.....すまないな。いつもいつも.....高橋の事は忘れて。.....今は前だけを見ろ。春香ちゃんの事も.....きっとどうにかなる』


「.....お父さん.....」


『.....じゃあ。仕事に戻る。.....宜しくな』


そしてそのまま電話は切れた。

それから俺達は溜息を吐いてから天井を見上げる。

同じ仕草に少しだけ苦笑した。

そうしてから.....環を見る俺。

有難うな。環、と言う。


「.....どうしたの?お兄」


「.....いや。.....いつも俺の怒りを抑えてくれたり。お前の存在が欠かせない」


「私は何もしてないよ。.....ただ側で兄を支えているだけだしね」


「.....それが支えになっている。.....有難う」


俺達は笑みを浮かべながら外を見る。

因みにだが春香は母がたの妹さんの所に行った。

今日は両親と会いたくない、と。

そんな感じで吐露してから。


「お兄」


「.....どうした?」


「春香さん大丈夫そう?」


「.....大丈夫だろうとは思うが。.....正直.....何とも言えないな」


「.....そう.....」


ああ。だけど幼馴染だ。

だから支えるつもりではある、と答える俺。

仮にも腐れ縁ではあるので、だ。

そして俺は嵐の外を見ていると電気が落ちた。

つまり停電だ。


「あちゃー」


「.....停電か」


「オール電化の家にとってはキツイよね」


「そうだな。.....ブレーカーか」


「違うと思う。周りも暗くなった」


環が動き出す。

それから俺も安全を確保しながらブレーカーを見る。

やっぱりか。


ブレーカーは上がっている。

しかし停電だ。

困惑する様な感じで俺達は見つめ合う。


「困ったね」


「しょうがないな。.....懐中電灯あったっけ?」


「無いね。蝋燭かな」


「そうだな.....古典的な方法だな」


「そうだね」


俺達は蝋燭を点ける。

それから外をまた見るが。

嵐は収まりそうにない。

俺は、ふむ、と思いながら居ると。

電話が掛かってきた。


「?.....鈴香?.....もしもし?」


『せんぱ.....い』


「.....!?.....ど、どうした!!!!?」


『.....暗いです。怖いです』


「.....あ、ああ。成程な」


『成程なって一大事ですよ.....私にとっては』


そして泣く様な声がする。

鈴はどうしたのだ、と聞くと。

なんと鈴は.....あまりの暗さに逃げたそうな。


怖過ぎると言いながら。

嘘だろ.....アイツ姉なのに。

何をやっているのだ。


「.....何かするか?なら」


『何って何を.....』


「.....しりとりとか」


『じゃあそれでお願いします.....』


いやマジかよ。

ガキか?しりとりするのかよ。

俺は思いながら、じゃあみかんの、み、からな、と言う。

すると、み、みんな、と震えながら鈴香は回答した。

環も勇気付けようと参加してくる。


そして結論から言って....停電が2時間ぐらいあったが。

その停電の間.....しりとりをやっていた。

2時間ずっと。


なんか意外だな。

鈴香は小学生低学年みたいな恐れをなしていた。

途中でネタ切れになったりもしたが.....。

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